ある日の出逢い hachikun クロスワールド、月姫&Atlach=Nacha (月姫/アトラク=ナクアのクロス。アトラクは本編の15年後を想定) [#改ページ] ある日の出逢い[#「 ある日の出逢い」は中見出し]  あれは、まだ秋もはじまったばかりのある午後の事だった。  俺はアルクェイドと銀行に来ていた。いやそんなご大層な話じゃない。アルクェイドと遊ぶために密かに貯めておいたお金を引き出しに来たんだ。  正直、この金を貯めるのは苦労した。アルクェイドは自分が出すって聞かなかったんだけど、全額甘えるのはさすがに男として情けないものがある。だから遊びにいく際、手の届く範囲なら交通費は俺が出すって事でアルクェイドと約束していたってわけ。  …まぁ後、アルクェイドに気づかれないようイベントを画策する時も予算は必要だしね。さて、 「ねえ志貴。あれ何やってんだろ?」 「は?…!」  なんというか…お約束というか。  俺たちの入った銀行は間抜けにも、見事なタイミングで強盗に占拠されちまったんだ。    しかし、最強の真祖が強盗の人質ねえ…?  だけどアルクェイドは強盗という存在自体に興味しんしんだし俺も特に生命の危険は感じていない。強盗たちはあまり長時間ここを占拠するつもりがないようだし、いかにも金に困ってるという感じで人質にしてる一般の皆さんに害意はないらしい。  だったら俺たちは、タイミングを図って退散するだけでいいだろう。このままだと警察に保護される。保護されたら秋葉たちに銀行にきてた事がばれる。そして俺のなけなしのバイト代は哀れ、秋葉に没収されてしまうに決まっているのだ。  …いや別に取られるわけじゃない。秋葉の管理している俺名儀の口座にたぶん突っこまれるんだろう。しかしそれは俺の名であっても俺のものじゃない。アルクェイドとのデートに使いたいなんて言って秋葉が使わせてくれるわけがないんだから。 「へぇ。素人のわりにちゃんと警戒してるね」 「そうなのか?」 「ええ」  そう言うと、アルクェイドの目が一瞬だけ真剣になる。 「ほら見て志貴。あそこと、あそこと、あの人員配置。警報システムがあいつの裏にあるの。で、同時にあそこからは全体の見張りもきくし」 「あ…なるほど」  つまり、最低限の人材で最低限のとこは抑えてるってわけか。 「練度は素人の域だけど思ったより慣れてるわ志貴。彼ら初犯じゃないわね」 「…らしいね。ご苦労なこった。強盗はただでさえ罪が重いのに」  これは本当のことだ。強盗は各種犯罪でもかなり罪が重い。これに殺人が加わると極刑の可能性もかなり出て来るんだ。  まぁ、どうとでもなるだろう。このまま騒ぎが過ぎれば…そう思っていた。  だけど、そうはならなかったんだ。       「もし」 「!」  いきなりだった。  突然に立ち上がった黒髪セーラーの女の子が、つかつかと強盗たちのところに歩いていったのだ。連中のもつ銃なんてまるっきり存在しないかのように無視して。  俺はあわてた。あまりの無謀さに目が点になっちまったんだ。いくらなんでもやばすぎる!  でも、 「?アルクェイド?」  動こうとした俺の腕を、アルクェイドの手がしっかりと掴んでいた。 「お、おい」 「…心配ないわ志貴。あれは大丈夫」 「い、いやしかしアルクェイド。相手は」 「問題ないってば。…よく見てごらんなさい志貴。あれを」 「は?」  よくわからない。アルクェイドは何を言いたいんだ?  よくわからないまま、俺はアルクェイドの言うままに女の子を見た。  …見たのだが、 「……これって」 「わかった?志貴」 「いや…あれって一体」  ――――ぞくり。背筋が震えた。  あってはならない感覚だった。そんなはずはなかった。そんな感じは少なくとも、たった今まではしなかったのに。  なのに。 「随分と隠密の術に長けてるわね。わたしもさっきまで、ひとじゃないわねとは思ってたけど…これは」  アルクェイドは1度目を伏せ、そして、 「あれは幻想種よ。あれ自体の歴史はほとんどなさそうだけど、種として重ねたものは神話の領域に達してるはず。どこかの土地神の子孫ってとこかしら?」 「…土地神だぁ?そんなのがなんで、セーラー服でそこらを歩いたり銀行に来てるんだ?」 「さあ?わたしも見るのははじめてだもの」 「へ?そうなのか?俺はてっきり」  そんなもの見慣れてるかと思ったんだが。 「ヨーロッパあたりであんな風に歩き回ってたら、たちまち教会の殺し屋を呼び寄せちゃうもの。あっちであのレベルを見るなんて早々ありえないわ。さすがね」  アルクエイドは、まるで子供のように好奇心いっぱいの顔をしていた。 「あれほどの幻想種がひとの世に混じって普通に暮らしてるなんて…この国の包容力は余程桁外れだったのね。正直うらやましいくらいよ」  そしてアルクェイドは、何を思ったのかすっくと立ち上がった。 「お、おい」 「志貴はここにいて。  どうやらあの子、何か用があってここから出たいみたいね。でも」  一瞬だけ、おいたをする小さい子を見るような顔をして、 「やっぱりまだ子供なのね。見てらんないわ。ちょっと行ってくる」  そう言って、すたすた行ってしまった。 「…なんなんだ」  俺は一瞬だけ固まった後、 「…ったく」  そうつぶやいた。        どうして加勢に行かないのか、と言うひともいるかもしれない。  けど俺はアルクェイドとは違う。あいつは軽く魔眼を駆使するだけで誰にも注目されずにこの空間を歩けるんだ。  だけど俺は違う。どう隠密行動をとろうと銀行の中は明るい。そして遮蔽物もない。今の状況で動けばかえって事態をややこしくしてしまうだけだ。  だから動けない。  改めて俺はさっきの無謀さに気づいた。アルクェイドが止めてくれなかったら、他ならぬ俺が大惨事の引き金になりかねなかったんだと。 「…はぁ」  とりあえず、ひと息ついた。  俺とアルクェイドの席は壁際の座席だった。ここからカウンターまでは最短でざっと十メートル。間に遮蔽物はない。これでは身を隠す方法が全くない。  もちろん、他の客の裏を通るかカウンターに飛びこめば別だ。でもそれはやはり最悪の事態を引き起こす引き金になりかねない。  とりあえず、俺はいつでも動けるようポケットのナイフに手を走らせた。なんの気なしだが強盗の手から隠してあったナイフ。よし、問題ない。  そんな間にも、女の子と強盗の会話は続いている。 「ですから、ひとを待たせてありますの。あまりお時間をとられては困りますわ」 「死ぬよりゃましだろお嬢ちゃん。悪いが席に戻りな。痛い目みないうちにな」  …バカだあいつらは。自分たちの相手してる奴が何者かわからないのか。  見た目がいかに女の子でも、いかにあいつらが鈍くても、ああも目の前に立たれたら雰囲気がおかしいのに気づくはずだ。ニンゲンならば気づかずにはいられないだろう。自分を捕食しかねない生物が目の前にいるんだから。  たとえば有彦なら避けるだろう。あいつはアルクとかの世界の人間じゃないけど遊び人としての生来の勘なのか、やばいものを避ける皮膚感覚にひどく優れてる。一緒に街で遊べばわかる。あいつの感性はよくできてて、自分の生活を壊しかねない異分子を瞬時に見抜くんだ。まさに生活の知恵なんだろうけど、その知恵ゆえにあの物騒な街ですら結構遅くまで遊んでいられたとも言えるだろう。  だけど、あいつらにはそれがない。それが運命の分かれ目だった。 「…そう。じゃ、死んで」 「!!」  その瞬間だった。  女の子の爪がいきなり、30センチほどの長さの鈎爪になったのだ。それは鋼のような輝きすら帯び、おそらくは人間の身体くらいやすやすと引き裂くことが可能だった。  そしてその爪は男の首に―― 「そこまでよお嬢さん」 「!!」  ――届かなかった。アルクェイドが無雑作にその手を掴んだのだ。 「え…えぇっ!?」  女の子がたじろぐ。アルクェイドの顔と、手と、それに無雑作に掴まれてる自分の爪を見て。 「こんなとこで騒ぎを起こさないの。魅了くらい手伝ったげるから、さっさと用をすましなさい」 「……」 「聞いてる?お茶目さん」 「あ、ははははいっ!」  あわてた感じで女の子が答える。まぁそりゃ…慌てるだろうな。  見れば、これだけの事にも関わらず周囲のひとも、強盗たちすら固まって動きもしない。どうやら既にアルクェイドの術に落ちているようだ。  という事は、もう動いてもいいって事か。 「やれやれ。…にしてもアルクェイドのやつ、最近みるみる腕あげてるな」  おそらくは本人いわく「シエルや妹たちとよく遊んでる」ってやつだろう。なんで喧嘩するのか知らないけど、三人はよくあちこちでやりあってるらしいんだ。でも先輩たちは半分本気だってのにあいつには楽しい遊びなんだから…なんとも形容しがたい話だ。  とりあえず、俺も立ち上がった。       「へえ、蜘蛛なんだ!」  軽く結界を張ってるとはいえちょっと心臓に悪い。アルクェイドの素頓狂な声はフロアの全部に響き兼ねないものだった。  ここは銀行から少し離れた喫茶店。俺たちはお礼がてら、という事で女の子とその連れだという、これまた高校生くらいの女の子にお茶に呼ばれてここにいる。  新たにあらわれた子は…ブレザーの制服を着ていた。ここいらでは見ないデザインのものだ。まぁそれを言うならふたりともここらの制服ではないんだけど、どのみち人間でないこの子たちが普通に学校に行ってるとも思えない。  つまるとこ、それは擬態って事なんだろう。 「まったく、うちのおバカさんがとんでもないご迷惑を」 「…奏子ママ。バカはひどいと思う〜」 「あら、馬鹿を馬鹿といって何がいけないの初音?あれほど人前で目立つ事をするなと言ったのにもうっ!」  さっきの窓口での古風なしゃべりと違い、初音と呼ばれた子は普通にしゃべっている。なるほど、こっちが地なんだな。  それにしても。  親子と挨拶されたけど、こうして見ると母だという奏子さんの方がむしろ年下に見えるのが不思議だ。まぁ擬態なんだろうけど、淡い色の髪をゆるく三つ編みにしてある姿はあまり活動的とも言えない。図書館で読書が趣味です、なんて言われたら信じそうだった。  逆に、娘だという初音さんの方が妖艶ですらある。漆黒のセーラーが似合うのが不思議なほどに。  さて、好奇心むきだしなのはうちのアルクェイドだ。さっきから奏子さんの方にいろいろと質問しまくっている。 「じゃあ、貴女も自分のルーツはよくわかってないんだ」 「はい。  私はもともと人間で、初音姉様…この子の本当の親に蜘蛛にして貰って、姉様が亡くなる時にまだ卵だったこの子を譲り受けたんです。  共に生きなさいと…生命か心か、時が尽きるまでと」 「ふうん…」  うーん、とアルクエイドは考えこんでいる。 「…なんだアルクェイド、心当りでもあるのか?」 「ん…その、シロガネって奴ね。たぶん元々はこの国の幻想種じゃないと思う。  志貴。あなたたちも。Atlach=Nachaって知ってる?」 「…アトラクナクア、ですか?」 「…俺は『アトラック・ナチャ』で覚えてるけど…まぁ同じだよな。で、それがなに?」  それなんだけどね、とアルクェイドは目の前のオレンジジュースに口をつけた。 「志貴は以前に戦ってるわ。ネロが持ってたでっかい蜘蛛。あれもその眷属なの。まぁオリジナルじゃないと思うけどね」 「へぇ…あぁ、あれか」  そういえば、あの時は視界が悪くて線しか見えない状態だったけど、そういうのと戦った記憶がある。 「…|銀《しろがね》さんの仲間と戦ったんですか!?」  対する奏子さんは、信じられないといった顔で俺を見た。 「あぁ、志貴は特別なのよ。志貴はこの通り普通の人間だけど、その気になったらわたしだって殺せるんだから!」 「…はぁ」  まるで夢でも見ているような顔で俺を見る奏子さん。…なんか嫌だな。 「ってかアルクェイド。俺におまえが殺せるわけないだろ?無茶苦茶言うなって」 「なーに言ってるんだか。初対面でわたしの事、一撃で殺してみせたくせに」 「いや、それは…おまえ、楽しんでるだろ」  む、と怒りの目線で見てやると、アルクェイドはアハハと楽しそうに笑った。 「さっきの話に戻るわね。  で、そのAtlach=Nachaなんだけど…実は起源がよくわからない奴なのよ。あれはね、ひとの幻想も絡んでるけど発生自体はもの凄く古いの。一説にはこの世界の外から来た、いわゆる|外なる神《アウター・ゴッド》の類なんじゃないかって話もあったりして」 「…外なる神、ですか?」  ええそう、とアルクェイドは頷いた。  奏子さんたちは、ふたり顔を見合わせていた。よくわからない、という感じに初音さんが首をふり、奏子さんもうーんと唸る。 「私たちにはよくわかりません。  ですが、それって何か重要な意味をもつんでしょうか?」 「ええ、持つわね」  アルクェイドは真剣な顔で頷いた。 「これも何かの縁だと思うから、教えてあげる。  もし貴女たちが教会の関係者に発見されたら、間違いなく抹殺対象になるわ。基督教なんてまるで問題にならない古き神の生き残りなんてのが、ひとの姿で平然とそこらを歩き回ってるって知られてごらんなさい。あいつら、絶対に放っておくわけないから」 「!!」  有無をいわさぬアルクェイドの口調に、ふたりの顔が険しくなった。 「これは脅しじゃなくて正真正銘の警告よ。よく聞いて。  この国は比較的異端者にやさしい。でもね、この国にも異端狩りをする連中はいるし教会の尖兵もすでに入り込んでる。まぁ、わたしの存在とか色々な要因もそこには絡むんだけどそれだけじゃない。彼らは気づいてる。この極東の国には未だ、欧州の暗黒時代に及ばずとも遠からずといった密度で人間以外の霊長類が蠢いている事に。  彼らは動いてる。だから油断しちゃ駄目。わかった?」 「…わ、わかりました」  奏子さんは神妙な顔で、そう答えた。        夕刻になった。  喫茶店を出た俺達。その影は既に斜めに伸びていた。景色もその全体がゆっくりと、薄闇に溶けていこうとしている。  そんな中、奏子さんと初音さんは寄り添って立っていた。 「…これからふたりはどうするの?お食事?」 「…」  俺の中で、何かがピクリと動く。  そう…わかってる。喫茶店の中でもずっと感じていたことだ。  あのふたりは吸血種。ひとに仇なすモノなんだと。 「…」  けど、奏子さんはゆっくりと首をふった。 「お食事と言えばそうですけど…たぶん貴女のおっしゃる意味の食事じゃありません」 「そうなの?でも貴女たち吸血種じゃ…」  その通りですけど、と奏子さんは笑った。 「必要なのは生気であって、ひとの血というわけじゃないんです。私はこの子に、ひとを食べることを日常として欲しくない。だから特別なことを色々と試みてます。たとえば摘んだばかりの新鮮なお茶とか」  そういって、ふふ、と柔らかく微笑んだ。  アルクェイドは、そう、とだけ言った。何故か寂しげに。 「…おいきなさい。二度と、わたしのように『見分けられる』ものに見付からないように」 「ええ…ありがとう。さようならアルクェイドさん」 「…」  歩きだすふたり。  深まってきた闇が、静かにふたりを包んでいく。ゆっくりと、ゆっくりと、その影が伸びて――― 「…あ」  その影から、巨大な蜘蛛の肢のようなものが見えた、気がした。 「……」  そしていつしか、その姿は暮れてゆく街並みに消えてしまった。 「……」 「……」  アルクェイドはその姿を、じっと見つめていた。 「…アルクェイド?」 「……」  悲しそうに、寂しそうに、アルクェイドは首をふった。 「…無理よ」 「え?」 「無理なのよそれは。ひとを、ひとの生気を喰らわずに生きるなんて、あの子たちには無理」 「…」  俺は改めて、夕陽の向こうに消えたふたりの方を見た。 「あの初音って子は、かなり純粋な蜘蛛神に近いと思う。あの子自身はひとの血なんかなくても生きられる。ようするにわたしと同じだわ。血は嗜好のようなもの。抑えつければ生きられる。でもね」 「…」  あ。なんとなくわかった。アルクェイドの言いたいことが。 「奏子の方は無理よ。あの子はいわば死徒に近い。周囲から生気を吸うことで構造を支えてるけどそれじゃ足りないの。いずれ限界がくる。そして」  アルクェイドは、ふうっとためいきをついた。 「見かねた初音が奏子を騙してひとを食わせるでしょう。正攻法では死んでも食べてくれないだろうし」 「……そうか」  何も言う気にならなかった。  アルクェイドはおそらく、あのふたりの姿を自分に例えてるんだろう。いつかはアルクェイドも自分の吸血衝動を抑えられなくなる。それは少なくとも俺の寿命なんかよりはずっと未来らしいけど、それでもいつかはその日が訪れる。  それがいわば真祖の寿命――そう先輩が言ってたっけ。  でも…でもなアルクェイド。 「さて、じゃあ帰るか」 「…へ?」  一瞬、アルクェイドはあっけにとられた顔で俺を見た。 「ばーか。  今からそんな未来のことで悩んでてどうすんだ。心配症にも限度があるぞおまえは」 「な、なにが馬鹿よ!志貴ったらいつもわたしの事ばかばかってもうっ!」 「だって馬鹿じゃないかおまえ。  さ、とにかく帰るぞ。ていっても今ごろ遠野家のほうじゃひと騒動だろうからな。行き先はおまえんち」 「え?だ、だって志貴」  馬鹿。いいから言うこと聞けって。  そんな顔したおまえをほっとけるわけないだろ?秋葉たちにゃ悪いが今日は帰れない。俺はこいつがこんな顔で、ひとりぼっちでいるのになんか耐えられないんだ。 「さーて帰るか。早くついて来ないと、ラーメンにおまえの嫌いなもん混ぜるぞアルクェイド」 「!!ちょ、ちょちょちょっと駄目よ志貴!それはやめて!」 「あははは。さーて行くぞぉっ!」 「志貴ったらもう!待ちなさい!」  後ろからアルクェイドが追ってくる。どうせあいつから逃げきるなんて不可能なんだから、せいぜい全速力でブッ飛ばしてやろう。 「あ、この…なんでこんな時に本気になるのよ志貴!こらぁっ!」 「っておいっ!んな事に魔術使うかおまえ!?」 「やぁぁぁぁぁーーーっ!!」  側から見れば、俺たちはバカップルに見えるだろうな。夕闇に叫びつつ追いかけっこする恋人たち。…ってまんまじゃん。訂正。見えるんじゃなくて本気でバカップルだ。  でもいい。それでいいんだ。  俺とアルクェイドはこうして暮らしてる。人間とか吸血鬼とかそんなことは関係ない。その日その日をただ楽しんで生きてる。それが俺たち。誰にも邪魔させない。させたりなんかしない。  なぁ、アルクェイド。  あのふたりもきっとそうさ。俺たちと同じように今日を楽しみ、今日を生きてる。それで幸せならいいじゃないか。いつかその終りは来るけど、その時に俺はきっと言うと思う。おまえと生きられて本当によかったって。  きっとあの子たちもそうだ。そうだと信じよう。  そしてそれが…きっと。      俺たちがあの子たちにできる、ただひとつのことだと思うから。       (おわり)