出迎え はちくん 初恋、桜井小桃 (『驚愕とは…』の初島稔視点です。「初恋」小桃ストーリーネタばれ全開です)                    空港という場所はどこでもそうだが、一抹の無機質な空気を伴っているものだ。  彼はあまり空港を利用した事がない。むしろ空港というと誰かを送る、というイメージが強いのかもしれない。一抹の寂しさと冷たさのあいまった空間。それが彼、初島稔にとっての空港というものなのだろう。 「ふむ」  まだ若葉マークのとれない中古の軽乗用車を緊張しつつ駐車場に入れた。チケットを持ち車を降り、助手席側に目をやる。 「よいしょ」 「ちゃんとドア締めろよ小桃」 「うん」  そこには茶色のジャケットを着込んだ長い髪の少女が、スカートのしわを気にしながら車から降りる姿があった。        妹の杏が帰ってくるから迎えに行ってあげてと西村にいわれた時、稔は驚いた。突然の一時帰国はまさに寝耳に水の出来事だったからだ。  ある時、稔たちの父母の不協和音はピークに達していた。なかば冷却のために母は海外に駐在となり、杏もその母についていった。その時何かいわれたかもしれないが稔はよく覚えていない。最愛の女性の死が当時の稔には強くのしかかっており、普段はともかく妹の小さなココロのサインに気づけるほどの余裕はまだなかったからだ。  とはいえ、いつも一緒だった妹すら家から消えてしまった事実は、稔の心理状態に少なからぬ影響を与える事になった。空虚さは寂しさを呼び、寂しさは思いを募らせる。そしてその行き先のない思いは、それまでただ流されていた稔の進路決定と猛勉強というカタチで現れた。西村陽子に遅れることわずか一年で教員となった稔はどういう奇跡か、よりによって懐かしい母校に教員として赴任する事になったのである。  そして運命の再会を果たした。  杏の方はというとはその後、ぱったりとその音沙汰が途絶えた。たまに稔や陽子に連絡をする事もあったがその回数は数年の間で片手に足りるほどであり、ましてや帰国となるとまったくゼロに等しい状況だった。そして久しぶりにあった連絡も稔に対してでなくふたりの親友であった西村陽子に。その内容も『兄が陽子ちゃんの同僚になります。よろしくね』という内容のものであったという。  そんなこんなの果てが今の状況である。 「せんせー、緊張してる?」 「ん?……あぁ、してる」  外来用の入口から入る時、小さなぬくもりが稔のそばに「ぴたっ」とくっついた。無意識に稔はその肩に手をまわし、かばうように懐に入れる。  そんな、なんの変哲もない反応に小桃はうっとりと微笑み稔を見上げた。 「なあ」 「え?」 「小桃、どうしてついてきたんだ?」 「え?ついてきたらいけなかったの?」  小桃はかわいらしく首をかしげた。 「そりゃあ、せんせーと桃の事は秘密だけど……他の先生も生徒もここにはいないと思うよ?」 「あー、それも心配だけどそっちはあまり気にしてないかな。ここまでやって見つかっちまったらそれはそれで仕方ないよ」 「そうだね」  くすくす笑う小桃に、稔は苦笑して返した。  長期の休みでもないしそもそも今日は土曜日だ。出張で父兄がいる可能性くらいはあるだろうが、こんな日のこんな時間に成田に飛び込むほど忙しい者の中で、地味な格好の男性が自分の子供の通う学校の先生と見破る者がどれだけいるだろう?そして、さらにその傍らにいる私服の女の子も子供たちのクラスメートとまで見破られる確率は?  そもそも、彼らの街から成田までは百キロどころではきかない距離がある。高速を使ったし待ち合わせも工夫して偽装には余念がない。これでも見付かるというのなら、いっそ腹をくくった方がよかろうと思えるくらいの気くばりもしていた。  ふたりは恋人だったが同時に教師とその教え子でもあったから。しかもバリバリ在学中。表沙汰になったら最後、とんでもないスキャンダルとなる事は疑う余地もない。  しかし。 「そりゃあね。学校でのスリリングな毎日に比べればなんでもないさ」 「あらま」  若き新任教師にしてみれば、恋人が受け持ちのクラスの児童だというのはとてつもないプレッシャーでもあった。  元来稔は生真面目でモラリストである。やんごとなき事情があるとはいえ自分たちの存在がいかに危険なものであるかは言われずとも把握しているし、それは図らずも教師・初島稔の急速な成長も促していた。他の生徒と区別なく普通に扱い、なおかつ教師としても立派に仕事をこなす。今の稔の毎日は真剣勝負であり、それは学校の年配の教諭たちの稔への視線にも現れる。「若さにまかせている部分はあるが今どき珍しい見込みのある奴」というわけだ。  そしてその視線すら危険に感じる。もう必死だ。  そんな毎日に比べれば確かに、今の状況ごときはなんでもないだろう。 「……」  小桃の方はというと、そんな稔の顔をじっと見上げていた。  彼女は見ため通りの女の子ではない。普段は歳相応の女の子にしか見えないが、時として見るものをハッとさせるような目線と態度を示す事がある。まるで百年も昔の女性が今に抜け出てきたような、そんな鮮烈な印象を与えるのだ。  その澄んだ目は、|稔《こいびと》の表情をどういう風に受け取ったのか。 「それより小桃、高速道路は恐かったか?」 「……ちょっとだけ。タクシーみたいな事はないけど緊張した」 「そっか。やっぱり車はダメか」  彼女はかつてタクシーで事故にあっている。  交通事故にあった事のある者ならその恐さはわかるだろう。生き延びた者ですらその瞬間の記憶は鮮烈であり、ややもすると大きなトラウマとなってしまうもの。まして彼女は…。  しかし小桃はというと、一瞬の苦笑いの後に悪戯っぽいひとことを忘れなかった。 「けど、せんせーと一緒だから心配してないよ。死ぬ時は一緒だし」 「あのな……せめて『信用してる』とか言ってくれないのかな?」 「うふふ。でも嘘じゃないもん」 「……そっか」 「うん」  言外にお互いへの思いやりを滲ませたふたり。  確かにその姿は、少なくとも女の子の年齢からは信じられないほど円熟した関係を伺わせた。        果たして、到着者を待つ場所までやってきた。  杏を載せた飛行機はどうやら着陸したらしい。どうやら時間ぴったりだったようだ。少し待てば出てくるだろう。 「話は戻るけどさ」 「ん?なに?」 「……あ、すまんトイレ」  先刻の会話を続けようとした稔だったが、その時ふいに尿意を感じてしまった。  そのまま話してもよかったが、まもなく杏もくるだろう。先に行っておいた方がいい。 「……せんせー」 「いや、だから悪いって。ちょっと待っててくれ」 「はーい」  非難めいた小桃の視線に耐えつつ、そそくさと稔はトイレに向かった。        トイレは珍しく少し混んでいた。並び待ちつつ、ふと稔は考えた。 (しかし……西村はどうして俺と小桃にだけ連絡したんだろ?)  杏帰還の連絡は稔と小桃の両方にのみ伝わっていた。  もしかしたら、かつての仲間たち全員に送った可能性もなくはないが、稔は違うと予想している。そして実際、あとの仲間であるふたりは影もカタチもない。  もちろん稔の考えには理由があった。小桃の存在だ。稔の同僚という立場だった西村と特待生留学中の二木を除けば、誰も小桃があの桜井小桃である事を知らないのだから。  小桃が『桜井小桃』である事。それは稔にとって喜び以外の何者でもなかったが、同時に最大の問題でもあった。  ふたりを知らない者なら、立場はともかく歳の離れた恋人で通じるだろう。それはそれで問題だが常識的範疇ですむ。だけどかつての『仲間たち』の場合、いろいろな意味で危険なのだ。  単に同姓同名ならまだいい。外見そっくりでもそれはそれでいいだろう。稔の行きすぎた執着を咎められるだろうがそれ以上のものではない。  しかし、彼女が「あの」桜井小桃本人であるというこのややこしい状況をどう納得させるのか?  納得してくれたとして、不気味なもののように応対されたり腫れ物のように扱われる結果にならないだろうか?  そんな事になったら小桃も、そして皆自身もどれだけ傷つくか。  いや、それだけではない。  かりに皆が受け入れてくれたとしよう。今度は別の問題が発生するのだ。つまり二人の関係が公になって社会的制裁を受ける事になったりしたら彼らはどうなるのか。なんといっても今のふたりは教師とその直接の教え子というあまりに微妙すぎる立場だ。本当の事情を説明なんてできないし、すると『事情を知りつつ黙っていた者』として、少なからずスキャンダルに巻き込む事になってしまう可能性が大きすぎる。  実際、同僚である西村陽子の立場などは現時点で既に稔同様以上に危険なのだ。彼女はふたりを知りつつ味方についてくれた者であり、何かあれば稔以上に責任追求される可能性すら否定できない。 「……」  稔はためいきをついた。  さらに、彼の|小桃《こいびと》はあの桜井小桃の生まれ変わりであるが同時に別人でもある。歳の差もしかり社会的立場もしかり。今の彼女には今の友達がいるし今の家族もいる。以前とはあまりに状況が違うわけで、むしろ稔との間の方がイレギュラーといえるだろう。  皮肉なことだが、先進国となった今の日本社会には『転生を繰り返し百年の長きにまで及んだふたりの道程』なんてものを受け入れられるような包容力はない。かつての日本は鎖国政策をとるような後進性があった反面、理解できないものを「そういうもの」として受け入れてしまえる許容性もあった事がわかっているのだが、対する現代の「進んだ」日本社会では社会から外れた異端は単に外れ者として潰されるだけだ。事実を知れば小桃の両親はふたりの意志なぞ無視して怒り狂うだろう。まだ子供である娘に不埒なことをした教師にあるまじき極道者として稔を断罪しようとするだろうし、それを説得するのは不可能とはいわないが想像を絶する難しさである事だけは間違いない。  そして教師と教え子の淫行なんてセンセーショナルに取沙汰されるか、または学校が徹底的に秘密にするか。どのみち小桃は保護監察、稔は性犯罪者として社会的に葬られるだろう。なかば「同様のケースを再発させないためのみせしめ」として徹底的に叩き潰される可能性も否定できない。 「……もしかして、そういうことなのか西村?」  今回はテストケースなのだろうか、と稔は考えた。  仲間たちが小桃と稔を見た時にどういう反応を示すか。杏は稔の妹であり身内なので少々の事なら取り返しがきく。反面派手にこじれると厄介でもあるが西村にとっても杏は親友のはず。その西村があえて杏が選んだからには、少なくとも「なんとかなるかもしれない」という希望的観測はあるのだろうと思われた。  稔の脳裏に「がんばって杏と話してみなさい」という西村の声が聞こえた気がした。 「……」  自分の順番がきて、用を足した。  少し遅くなっていた。稔は足早にトイレを出て小桃の待つ場所へ向かった。      戻ってみると、小桃はさっきの場所にいなかった。  到着したひとがロビーに溢れていた。もともと成田はたくさんの便が発着するのでひとの流れは早いし多い。ちょっと慌てて稔は周囲を見渡し、小桃の姿を探した。 「あ、いた」  はたして小桃は、飛行機から降りてきたらしい美女と話をしていた。  少し焼けすぎの感もあるがなかなか美しい女性だった。垢抜けた衣装がスレンダーな身体を包んでおり、単なるOLというよりむしろキャリアを積んだ人を連想させる。荷物がほとんどないのは全て預けてあるのか、それとも移動に慣れていて軽装なのか。きりりと上品に決まった隙のないその姿はどことなく稔の母をも連想させるが、もちろんそんな歳ではない。今の稔と大差ないだろう。  一瞬みとれた稔だが、それどころではないと小桃に目をやる。  ちょうど小桃は大福の袋を開けようとしているようだった。やれやれ、またかと肩をすくめた。 「小桃……おまえまた知らないひとに大福を」  そんな稔の呆れ声に気づいたのか、小桃の顔がくるりと稔の方を向いた。 「あ、せんせぇー。違う違う、杏ちゃんだよー」  ああそうか、なんだ杏かと稔はためいきをついたが次の瞬間、 「お兄ちゃん!?」 「って、杏か!?」  びっくりしたような杏の声。稔もその場で固まった。 「……」 「……」 「……あ、杏?」  ほんとに杏なのか、という言葉を稔は飲み込んだ。  綺麗だった。  可愛くも子供っぽかった、遠い日の杏はそこにはもういなかった。  考えてみれば稔はもう何年も杏の顔すら見てないわけで、杏が向こうでどんな暮らしをしているかも、どんな姿なのかもまったく知らなかった。  だから、本当に稔は驚いた。  そして……一抹の寂しさも同時に味わった。 「……」 「……」  果たして杏の方は、信じられないものを見る顔で稔と小桃をゆっくりと見比べた。  そして、 「お兄ちゃん。いくら寂しいからって女子高生を毒牙に……」  フレアスカートの腰に手をやり、おもむろに怒りを滲ませた顔で兄を睨み付けた。 「うわ、ち、違う!それか違うぞ杏!」  杏の言葉に意味に気づいた稔は、あわてて訂正しようとした。  だが、 「え?違うの?せんせー」 「!?」  ふと見ると、いつのまにか側に来た小桃が不安そうに稔を見上げていた。 「……あ、いや小桃、それはその……」  しまった、と稔は内心舌打ちしていた。  桜井小桃という女性は基本的に舌戦ができない。冗談を本気にしてしまう部分があり演技を演技と受け取ってくれない事があるのだ。  果たして小桃は不安そうに稔を見あげていた。稔は仕方なくあわてて訂正する事になった。  もっとも、小桃の表情に悪戯っぽいものが混じっている事までは稔も気づいていない。 「桃、せんせーの恋人だよね?違わないよね?」 「あ、う、うんそれはもちろん」 「♪」  嬉しそうに稔にまとわりつく小桃。とても愛らしい姿だが、どことなく犬のマーキングも連想させるのは気のせいではないのかもしれない。 「……」  対する杏はそのさまをちょっと複雑そうな顔で見ていた。そしてウン、と何か納得したようにうなづくと、 「えっと、とりあえず自己紹介いいかな」 「え?あ……ああ!」  小桃はそんな杏の態度に気づいているのかいないのか、ちょっと考えてからポンと手を叩いた。何をいいたいのかやっとわかった、という顔だ。 「!」  しかしその小桃の態度は杏の表情を一変させるのに十分だった。驚きに目を見張りそして一瞬だけ目が遠くをみる。認識できたが理解できない、理解する事ができないといった顔だ。  杏のそんな異変に気づかぬのか、小桃はマイペースににっこり笑って言葉を続ける。 「えっと、はじめまして……かな?んー久しぶり……も変かな。まぁいっか。えっと、おかえりなさい杏ちゃん、桜井小桃です!」 「…………」  杏はそれを聞いて、ついに完全に固まった。  思考停止してしまったようだ、と稔は杏の固まり方をみて判断した。姿カタチは変わり果てたのにそういう態度だけは昔の杏そのままだったのだ。少しだけ安心し、また前途の多難さに内心ためいきをついた。  そして、助け船を出してみる事にした。 「小桃、いきなりその挨拶はないと思うぞ。さすがの杏も目が点になってる」 「あ、そっか。あれ?杏ちゃん大丈夫?」  小桃はまだわかってないのか、じっと杏の顔を見たりしている。 「まぁ思考停止してるだけだと思うよ。西村だって小桃が小桃と知った時の混乱ぶりは凄かったからな。あの時は俺もかなり舞い上がってたからよくわからなかったわけだけど、前もって小桃を知ってて小桃が何者かについて議論もしてた西村でさえそうだったんだ。いきなり予備知識なしの杏じゃ、そりゃ混乱もするだろ」 「あー……そっか。そういえばそうだったね。西村せんせー、すごい混乱してた」 「うん」  稔は笑うと、苦笑いしている小桃の頭をなでた。 「ぶー、また子供扱いする」 「子供だからな」 「ふ〜ん。それじゃあ杏ちゃんにせんせーとの事、包み隠さず全部話しちゃっていい?何もかも」 「それはダメ、てーかやめなさいお願いだから」 「あはは」 「…………」  杏の視線が、じっとふたりを見つめていた。  稔はそれに気づいた。だが稔が対応を考えるより早く杏は動いた。 「先輩!」 「きゃっ!?え、あ、杏ちゃん?」  杏は稔の顔を見もしないで、いきなり小桃に抱きついたのだ。突然の動きに稔が対応する暇もなかった。 「先輩、先輩〜〜!!」  杏はまるで子供のように涙を流し泣きじゃくった。周囲の人間が何事かと見るがそんな事全然気にもしてないようで、小さな小桃をがっちりと抱えこんで二度と離すまいとするかのようだった。  杏はどうやら状況を『理解できた』らしい。そう稔は感じた。  かつて杏は『桜井小桃先輩』に猛烈に懐いていた。小桃が小桃である事を理解し、それを受け入れた。だからこの奇跡のような再会を喜び、自分の姿も歳も忘れてこの結果なのだろう。  後の問題は山積みかもしれないが、とりあえず大きな峠は越えた。……どういうわけか、稔の心がちょっとだけ痛んだのだが。    だが。   「……!」  やっとこ落ち着いたのか泣きやんだ杏の顔が、喜びからゆっくりと思案顔になった。  稔はそれに危険を感じた。もう何年も感じてなかった感情だが、杏にそれを感じる時は総じてやばい事が起きる。そういうタイプの危険だった。  つまり『罠』の予感である。   「ねえお兄ちゃん?」 「ん?……!な、なんだよ杏」 稔の方を見た杏の顔が、思案から「にやり」に変わった。稔は青ざめる自分を感じたがもう遅い。 「時間あるよね?陽子ちゃんも交えて細かい事情を隅から隅までぜ〜んぶ話してもらうよ?いいよね!」 「杏。語尾が『はてな』になってないぞ」 「いいよね!」 「……はい」  どうやら逃げ場はないらしい。稔はやれやれとためいきをついた。  おそらく、根掘り葉掘り尋問されるのは避けられないだろう。杏と稔はふたりっきりのきょうだいだし、杏は昔から稔いぢりを趣味にしていたようなところがある。西村がいうには杏は稔に特別な思いを抱いていたというが、まさかそれが男と女の感情であろうとは稔は知らない。ただ杏にとり自分はおもちゃのようなもので、それは人一倍強い稔への肉親愛の裏返しであり、つまり杏の追求が激しければ激しいほど、それをくぐり抜けたら杏は西村と並びふたりの最強の味方になってくれるだろう事も感じていた。  それは杏にとり若干の残酷さもはらんでいたが、確かに事実ではあった。  杏と小桃が何かを話し、ふたりはもう一度抱きあった。死すら越えた奇跡の再会に喜ぶふたりに稔は「ま、いいか」と苦笑しつつもひとり頷いた。そしてふと出口の方を見た。 「!」 「……」  そこには、あたりまえのような顔をして手をふり呼ばれるのを待っている普段着姿の西村陽子、つまりこの状況を演出した黒幕の姿があった。        おわり