長門ユウキのつぶやき はちくん TS-涼宮ハルヒの憂鬱、『ひだまり』の少し後、こちらは長門側の話。警告・もはやハルヒでも何でもありません  注意・もはやハルヒ原作のかけらもありません。何しろ『キョン一人称』という原作のセオリーすら無視してしまってますから。  注意2・えー、もしかしたらエロいかもしれません。規約上R18にならないようぼかしていますが、R15はいってしまうかも。 [#改ページ] 来訪者[#「 来訪者」は中見出し]  長門ユウキは人間ではない。  彼は情報統合思念体による対人用のインターフェイス端末である。確かに構造的には人間だが発生的、能力的、または運用面でいっても人間であるとは言えない。また人間であるための全ての機能をもつ必要もない。単に人間の中に入り込み、情報のやりとりのできる存在であればそれでよい。もとより彼らはそういう存在で、人類という存在を知ってからたくさんのこうした端末が作られているし、実際それらは配備もされている。  だがその中でも今回の主人公、長門ユウキはいろいろな意味で特殊な端末であった。なぜなら、 「…………」  彼の身体に、少女が顔を|埋《うず》めていた。  少女の長い髪が広がっているため、見る角度によっては毛玉の妖怪か何かに喰いつかれているようにも見えた。だがもちろん彼本人の目線ではそうではなく、彼の身体の一部を少女のかわいらしい口がぱっくり|咥《くわ》えてしまっているのだった。少女の頭は小刻みに、あるいは大胆に動き回っており、時折その強すぎる刺激に耐えかねた彼の身体はビク、ビクと震える。本来そのような機能は彼には備わっていなかったはずで最初の頃は喘ぐ少女をいつもと同じ醒めた目で見ていたのだが、いつからだろうか?学習の果てなのか何かが変容してしまったのか、彼もまるで人間の少年のように反応しはじめていたのだった。  それは気持ちいい。  だがその瞬間、恐れなのか不安なのか無意識に彼は後退してしまう。少女が下半身に取り付き身動きがとれないにも関わらず、ビクッとはねた彼の身体は微妙に後退していく。  だが今彼の背中には壁がある。追い詰められていた。 「…………」  対する少女はというと、彼が時折反応するのを見て目だけで微笑んでいた。  背中が壁についてしまったのも確認しており、追い詰めた達成感にどこか満足そうであった。このまま彼を絶頂まで追いやらんとさらに動きを早めようとするが、なぜかその時、がしっと彼の両手に頭を掴まれてしまった。  なんだろう?いつもならこのままむしろ押し付けてくるのに、なぜ止めるのか? 「ちょっと休憩しよう。来客のようだ」 「!」  ユウキの部屋に来客なんて普通ない。つまりこれは「何かが起きた」という事だ。  少女はあわてて起き上がりティッシュをとり口元をぬぐったのだが、 「キョン」 「はい?」 「身|繕《づくろ》いはいらない。すぐすむから」 「え、でも」  部屋にあげるのなら、乱れた姿の女がいるのはまずいだろう。そう言いそうになった。  だが。 「何?」 「……ううん。わかった」  いらないと明確に命じられたのだから、する必要はない。半裸というか下手な全裸よりあぶない姿だったが、少女はユウキの命令に逆らう事をせず、ただその身体にしがみついた。  ユウキの方は、少女がおとなしく命令をきいたのに満足したように頭をなでた。  その時、ピンポーンとインターホンが鳴った。 「誰」  ユウキはそのまま動きもせず声だけで答えた。だがインターホンの方はチカチカと何かが動いているようで、ユウキの声をちゃんと拾い上げていると思われた。 『古泉です。朝比奈先輩も一緒にいます』 「!」  少女の身体がピクッと反応する。ユウキは何も言わない。 『中に入れていただけませんか、異常事態です。体調不良でお休みのはずのキョンちゃんですが家にいないって事に涼宮君が気づきました。現在気が狂ったように探し回ってます。ここにくるのも時間の問題だと思います。  私のヤマ勘だけど、キョンちゃんはおそらくこちらでしょう?お話をさせて欲しいんですが』 「今は無理。本日未明からの彼女の異常の根本原因は既に除去したが、未だ予断は許されない。隔離状態の解除にはまだ早すぎる」 『異常?どういう事?彼女に|本《・》|当《・》|に《・》何かあったというの?』 「……」  相手のその反応だけで少女には充分すぎたようだ。ユウキにしがみつく少女の力が少しだけ増した。  そしてユウキはそんな少女の頭を、大丈夫だよというようにぽんぽんと叩いた。 「詳しい説明は省略するが、本日未明、キョンは異世界における自分自身の同位体からの侵食を受け、一時的に肉体を乗っ取られた。このため一時的に混乱状態に陥った。電話で俺に助けを求めてきたので一時的に保護し、浸食側のキョンの所属世界における俺にコンタクトをとり協力してこれを分離、向こうの世界に送り返した。  本日のキョンの行動がおかしい理由は以上。中身が別人なのだから本人をせめるのはお門違いだ。  現在は隔離状態のまま異世界からの影響が残っていないかのチェックをしつつ休ませている。状況は以上」 『……なるほど、いくつか理解しがたい状況もあるようですが暫定的に理解しました。つまり当人にもどうしようもない異常事態が発生してしまったというわけですね。それならば今日いちにちの状況も理解できます。  ですが、それはそれとして今後の事などで緊急に確認したい事項があります。ここでお話していると涼宮君に発見されてしまう可能性もありますし、とりあえず入れてもらえませんか。これはSOS団の問題というより、涼宮君に関係する我々すべてに関わる問題ですから』  問いかけの形になっているが、ようするに要求だった。所属機関のエージェントとして交渉にきたという事だろう。  だが、 「それはできない」  ユウキはきっぱりと拒否した。 「状況は把握した。既に君たちと何の話をしようと事態は大きく変わらないと思われる。また俺の部屋はキョンを隔離するための部屋として現在利用されており、空間の情報操作を含むあらゆる加工が施されている。外部の人間を入れるには適さない。  これ以上の事態の急激な悪化を避けたいのなら、速やかにこの建物から立ち去る事を提案する」  この返答に対してインターホンの向こうは少しだけ沈黙した。そして、 『そうですか。ですが我々としてもこのまま引き下がるわけにはいかないのです』  そう言ってくるや否や、向こうで何かの音がした。 「警告する、強制的にロック解除して侵入するべきではない。それは情報統合思念体の意志に対する敵対行動であると見なされる。  これは|脅し《ブラフ》ではない。プライベートゾーンへの無断侵入者は問答無用で情報結合が解除される。このプログラムは俺の権限でも変更不可能」 『まさか』  インターホンの向こうでクスッと笑う女の声がした。同時に「だ、だめですよ」などと慌てる少年の声も聞こえている。 『敵対組織の一員を消すならいざ知らず、私や朝比奈先輩はSOS団の団員ですよ?私たちを不用意に消してしまえば事態はもう収拾不可能になる、あなたたちだってそれは望まないはずです。違いますか?』 「交渉のつもりなら今はよせ、古泉|一姫《いつき》。既に君たちは本件におけるキーパーソンとは見なされていない。俺個人はともかく情報統合思念体にとってみれば……止まれ、エレベータを呼んではならない」 『監視状態にあるのならそれを解除してください。もちろん危険は承知の上なのですが、それでもあなたなら止められるはずです』 「その情報は古い。乗り込むな古泉一姫。そのエレベータ内はもうプライベートゾーンだ。乗り込めばその瞬間、君の情報結合の解除が開始され──」  だが、ユウキの言葉が終わる前にインターホンの向こうから悲鳴が聞こえてきた。  何コレ、ひぃぃぃぃ、などと意味のない悲鳴がいくつか続き、やがて……。 「聞こえているか、朝比奈ミライ」 『……あ、ああ』  震えるような声が……実際ふるえているのだろう。朝比奈ミライの声が聞こえてきた。 『長門君、古泉さんに何をしたの?まさか』 「俺は何もしていない。再三の警告を無視したのでセキュリティにひっかかった、それだけですよ。朝比奈先輩、貴方の想像通りだ。既に古泉一姫はもうこの世に構成分子一個たりとて残っていない」  インターホンの向こうで息をのむ声がした。 「ところで朝比奈先輩、古泉一姫と二人ならいざ知らず、貴方ひとりなら中に入れても差し支えないですが、入りますか?キョンはまだ隔離中なのでお話はさせてあげられないが、かつて仲間だったよしみとして、また背景の組織によらず、今もキョンに対して好意的な貴方自身の誠意には応えるべきだと思うから」 『ひとつ確認していいかな?』  朝比奈の声は緊張していた。だが、何か『腹を決めた者』の決意が見えた。 『僕と古泉さんの扱いの違いはどうしてかな?古泉さんだって個人的にはキョンちゃんに好意を持っていたはずだ。もしかしたら僕より強かったかも』 「先ほどの反応そのものがその答えですよ。古泉一姫は俺の言葉をきかず、貴方はきいた。それだけです」 『僕は単に怯えただけだよ。古泉さんは「交渉なんだから強きにかからないと」と言ってたけど、君の口調から尋常でない異常事態が起きてるんじゃないかという不安もあったし』 「だから、それが理由ですよ」  ユウキはクスッと小さく笑った。|少女《キョン》と深い関係になってから身につけた表情のひとつである。 「貴方はちゃんと俺の言葉を聞いてくれてるじゃないですか。古泉一姫は違いましたよ、彼女は俺というよりむしろ、俺の肩ごしに情報統合思念体と会話しようとしていた。まぁ、対人インターフェイスとしての俺の立場を考えれば彼女の選択もあながち間違いじゃないんですが」 『……あー、それは』  確かに納得できるところがあったのだろう。なるほどね、とインターフォンの向こうは少し安心したようだった。 「だから先輩、貴方ひとりならいいんです。元SOS団のメンバー同士として普通に情報交換ができると思います」 『そっか。わかった、じゃあそういう事でお邪魔していいかな?』 「ええどうぞ、朝比奈先輩」 [#改ページ] 変わった者、変わらなかった者[#「 変わった者、変わらなかった者」は中見出し]  カワイイ系美少年の朝比奈ミライであるが、性別や外見の違いを除けば、その性格や有り様は女性である朝比奈みくると全くなんの違いもない。その点において長門ユウキと朝比奈は対照的だったがこれはむしろユウキ側の問題であった。つまり|少女《キョン》と深くかかわったがゆえに現在のユウキがある。だから両方の世界を客観的に|俯瞰《ふかん》できる者がもしいるとするならば、異端に感じられるのはもちろんユウキの方だったろう。  とまれ、今はそんな世界間相違の比較をする時ではない。  部屋の中には強力な結界が張られているようだった。だから、おしりも胸もまるだしになるほど盛大に着乱れた|少女《キョン》の痴態も、そこはかとなく漂う|牡《おす》と|牝《めす》の臭気も朝比奈には見えず、感じられもしないようだった。少女はまるでマジックミラーごしの光景でもあるかのように、昼寝中の飼い猫のようにだらしなく手足を投げ出してジッと朝比奈を見ている。  とはいえ、この少女の自堕落さもある意味仕方ないとも言えた。  そのままでいろとユウキに命令されているので迂闊に動けない。だが言うまでもなく自分の姿の浅ましさもよくわかっていたし、いくら朝比奈が認識できないと言われても、他人の、しかも男の目の前で扇情的な容姿をさらしているという事実は少女の目線では変わらないのだ。それはほとんど羞恥プレイに等しかった。  このままではとても耐えられない。  だから少女の意識はとっくの昔に思考停止を起こしていた。今の少女は単にそこに|在《あ》るだけであって、本当に昼寝の猫と変わらない、つまり見えても聞こえてもいるが、同時に何も見えてないし聞こえていない状況だった。彼女はいじめが最悪に酷かった頃、そうやって必要最低限以外の認識を手放す事で精神の安定を保つ技を身につけていた。  そうしている間にもユウキと朝比奈の会話は続いている。 「異世界のキョンちゃんか。不思議な事もあるんだなぁ。で、そっちの方は無事解決したんだね?」 「問題ない。既に『涼宮ハルヒ』によって開けられた世界間の穴もふさがれ修復されている。こちらのキョンが未だ予断できない状況にあるのは、単に『自分でない自分』に一時的にせよ乗っ取られた影響がどう出るかわからないから。もう少し時間が必要」 「そうか。それはよかった」  朝比奈は少し安心したように、ウンと頷いた。 「それでキョンちゃんは、いつ頃に復帰できそうかな?悪いけど、何とかして涼宮君の暴走だけは止めないといけないんだけど」 「もう遅い」  ユウキは静かに首をふった。 「キョンの救済と異世界間通信に手間取ったあげく、涼宮ハルヒコの暴走を引き起こすような|隙《すき》を作ってしまった事は俺の方の落ち度でもある。これについては申し開きのしようもない。  だが、今回の事態がなかったとしても遠からず同じ状況になった可能性が極めて高い。これもまた事実」 「そんなことは!」  だが、そんな朝比奈の反応にもどこか力がなかった。ユウキの言う可能性に本音では同意しているかのように。 「ねえ長門君」 「なに?」 「その……異世界の方には何か参考になるような事はなかったの?向こうの長門君の導きとはいえ、涼宮君自身がはるばる世界を越えてキョンちゃんを迎えにきたんでしょう?つまりそれって、ふたりはこの世界よりは仲がいいって事だよね?  そっちの世界での二人の状況で、こちらの現状打開の参考になるようなものは何かないのかな?」 「ヒントはいろいろあった。でもこちらに適用できるものはほとんどなかった」 「……?どういう事かな?もしよかったら一例でもいいから教えてくれないかな?僕もちょっと考えてみたい」 「……」  ユウキはそれに否定的な答えを返そうとした。  だがその瞬間、少女がユウキの腰にきゅっとしがみついた。 「……」  朝比奈から少女は認識できない。そして少女の方も、ユウキに止められている以上ふたりの議論に参加するつもりはない。いやそれ以前にそもそも少女はまともな思考すらしているかどうか疑わしい。  だが、少女はユウキの顔をみあげていた。まるで「話してあげて」とお願いするかのように。  そんな言葉以前の少女の表情をユウキは読み取った。そして「わかった」と朝比奈に告げた。 「向こうの世界とこちらでは、各人の立場やその他はほとんど違いがなかった。だが性別が全員こちらと正反対だった。涼宮ハルヒコは向こうでは涼宮ハルヒという女性。キョンと古泉一姫は男性であり、我々も女だった」 「…………は?」  あっけにとられたように朝比奈はしばし沈黙し、そして、 「性別が逆……ああ、そういう事か。なるほど」 「そう」  ユウキは大きく頷いた。 「知っていると思うが、俺にも貴方にも校内にファンクラブが存在する。このファンクラブすら向こうの世界にも存在する。  ただ、男主体のファンクラブなので女子の集団ほど陰湿な事にはなっていない。しかも向こうの『涼宮ハルヒ』と男性のキョンの組み合わせは非常に相性がよく、男性のキョンはほとんど揺らぐ事なく『涼宮ハルヒ』と結びあっている。このため嫌がらせの問題が存在しないばかりか、SOS団の運営自体も非常に簡潔明瞭で風通しがよい。何より『涼宮ハルヒ』の陰ひなたのサポートとして、また文字通りの『宇宙人未来人超能力者と一緒に遊ぶ団』としても正しく機能している。通常は『涼宮ハルヒ』がトップとなり、そして彼女が参加できない事態には男性のキョンが事実上のまとめ役をしている形だ。  確かにそれは理想的。参考になるものがあれば参考にしたいという貴方の考えはもっともだし、俺も理解できる。  だが、実際にはこれらの事象の違いは単に性別の違いによって発生している事もわかっている。  こっちに比べると向こうには本当に些細な問題しか起きていない。敵対組織とのいざこざも最終的には程よい刺激程度に収まっている。  しかしこれらの事象をふたつの世界の間で比較してみても、得られる最大の差異であり要因はやはり性別の違いだった。この状況が動かない限り、おそらく現状を覆す事はほとんど不可能と推測される」 「そうだね。たったそれだけの違いだけど、本当に大きな違いなんだ……」  朝比奈のためいきは、ほとんどうめき声に近かった。  性別。  全ての事象は何変わらない。ただ単に登場人物の性別がまるっきり正反対、ただそれだけ。  だが、確かに彼らのSOS団において、それは革命的とも言える状況の違いを意味していた。 「でもさ」  と、朝比奈にはまだ続きがあったようだ。 「これは本当にもしもの仮定だけどさ」 「?」 「かりにその通りだったとして、じゃあこの際ダメもとでそっちを合わせてしまう事はできないのかな?つまり、性別を逆にしてしまうって事」 「……」  この朝比奈の提案にはさすがのユウキも目を見開いた。 「貴方の任務にはそんな事はないはず。そもそも貴方の未来においてそのような史実はないのではないか?」 「知ってます、でも!」  だがそんなユウキの言葉を朝比奈は突き返すと、 「それで少しでも救われるのなら。キョンちゃんへのいじめもなくなって、涼宮君の暴走も抑えられれば」 「……未来はたぶん変わらない」 「だろうね」  即答だった。朝比奈は微笑んでいたが、微かに震えているようだった。 「でも……同じ破滅でも、小さな救いがたったひとつ残るなら」 「……」  おそらく、朝比奈の組織の方にも異常が起きているのだろう。  この事態で古泉と共にいた事、そして既に始まっているらしい時空連続体の歪み。そこからユウキは推測し、もしかしたら既に、朝比奈が未来と孤立してしまっている可能性も考えた。  だがユウキはそれを指摘しない。ユウキの側だって次の瞬間にそうなってもおかしくないのだから。  ユウキはしばらく俯き、そして顔をあげた。 「わかった」 「え?」 「小さな救いの可能性がひとつだけ残されている。そのために我々は力を尽くす選択をとる。多くを失う事になるが、小さな希望を未来につなぐ事だけは可能だろう。  それが貴方の望む未来には結びつかないとは思うが……情報統合思念体はともかく俺個人は貴方に謝りたい。ごめんなさい」  頭をさげるユウキに、いいよいいよと朝比奈は微笑んだ。 「長門君。……その内容を聞いてもいいかな?」 「話してもいい。だけど貴方が聞いても意味がないし、おそらく原理は理解できないと思う」 「そう」  朝比奈は立ち上がった。この部屋を辞すつもりらしい。 「ひとつだけ確認するけど、君たちのとろうとしている選択ってたぶん、|世《・》|界《・》|が《・》|滅《・》|ん《・》|で《・》|も《・》キョンちゃんを無事確保するって事だよね?」 「……」  意味がないという言葉の通り、ユウキは何も言わなかった。 「沈黙もまた答えってやつだね。お邪魔しました」  そう言うと朝比奈は背を向け、そして部屋の出口に向かった。  そして出口でひとこと。 「ああそうだった」 「?」 「僕には見えないし感じ取れないけど、キョンちゃんまたね。長門君に返答を促してくれてありがとう」 「……」  ユウキが目を細めたのに朝比奈はクスッと笑うと、 「どういう技術で隠してるのか知らないけど、その隠してるキョンちゃんとアイコンタクトしてたら意味ないと思うんだ。どこにいるのかもわかっちゃうでしょ?」 「……」 「じゃあまたね。……ああそれと、僕の方でできる事ない?約束はできないけど、でも可能な限り手伝うよ」 「……口裏合わせを。古泉一姫が動き回っているらしいが掴まらない、という事で。一晩ほど時間が稼げるとこちらの準備も整う」 「わかった。じゃ、おやすみ」 「おやすみなさい」   「もうしゃべってもいい」  朝比奈が去ってしばらくしてから、唐突にユウキは言った。 「……」  だが少女は何も言わなかった。それどころか、うるうると物欲しそうな目でユウキの顔を見上げるばかり。言いたい事はたくさんあるだろうに何も言おうとはしない。  その沈黙っぷりにユウキが「どうしたの」と問おうとしたのだけど、 「……」  少女は人差し指をユウキの口にあてた。何も言わないでという事らしい。 「今夜は、ユウキもお仕事?」 「いや、俺はここにいる。現在すでに重要な作業は情報統合思念体が行っている。端末がするべき作業も他の個体が受け持っている」 「ユウキは私のおもり?」 「守護」  そう、と少女は答えた。  家に帰りたいとか家族はどうなるとか、世界の行く末とかそういう事を少女は一切口にしなかった。口にしたところでどうにもならない事、自分には何もできない事など、そういう一切合切を飲み込んだ上でとっくの昔に彼女の思考は止まっているからだ。  それはそうだ。世界がひとつ失われようとする時、少女ひとりの力がいったい何の役にたつというのか。家族やら親しい人たちも救えないのかと嘆いたところで、いたずらにただユウキたちを困らせてしまうだけ。  自分にできる最良の事、それは何もしない事。ユウキの命令をよく守り、おとなしくしている事。  だが|少女《キョン》は知らない。  そんな彼女の一挙手一投足がSOS団の、ひいては世界の何割かを確実に動かしていた事を。彼女自身が知らぬとはいえ、彼女もまたあの異世界よりやってきた男性版のキョン同様に影響力を駆使できる存在だったのだと。  いや、それもまた今さらだろう。今となってはどうでもいい事だ。 「続き、していい?」 「ああ、構わない……いや」  続きをと言いかけたユウキだったが、もう少女が臨界点に近い事にすぐさま気づいた。  考えてみれば、結界でごまかしていたがそもそもユウキだって下を履いていない。少女はそれをずっと目の前にしていたわけで、おそらくひたすら耐え続けていたのだろう。  ぽん、と少女を仰向けに押し倒した。膝をたててMの字に開脚させる。  既に腰までとろけきっているのか、さすがに恥ずかしがるはずの状態になっても少女はろくに逆らわない。ただ何故かモタモタと手で隠そうとしてきたので、その申し訳のような抵抗をぺしっと軽く叩き、そして両脚の後ろに追いやった。  少女の上にのしかかる。いつもの体勢なので狙いも確かで、少女の身体がピクッと反応する。んん、と押し殺した甘い声が少女の口から漏れた。  いつもそうだ。少女は声を上げたり息を荒げるのをクールでないと思っているようで、押し殺した反応をする。生理反応なのだから気にせずともよいとユウキは何度かいったのだけど、なぜかいつもそこだけはまっ赤になって反論される。  面白いのでそのままやらせている。どうせ感極まると抑えきれなくなるのだし。  奥まで届いた。  少女の身体は侵入者を強烈に締め付けはじめていた。もう何度ユウキを受け入れたか知れないそこだが圧力はいよいよ高く、またまるでユウキ専用にあつらえたかのように彼をがっちり咥え込んでしまっていた。ユウキは少女以外とこういう行為をした事がないのだが、まるで無数の小さな手に直接しごかれているかのような強烈な快楽すらそこは備え始めていた。  あまりの刺激に、ついユウキの腰が引けそうになってしまった。が、 「ん、んんんっ!」  少女はユウキが逃げられないよう、脚を絡ませてユウキの腰を捕まえていた。  くぅ、とユウキの口から苦悶とも絶頂ともつかない声が漏れた次の瞬間、彼は豪快に少女の中に放っていた。 「……」  強烈な絶頂と、放出がもたらす開放。ゆっくりと沈静化。  だが。 「……」  深々と刺さったままのそれは再び大きくなった。  これもいつもの事だった。一度目は動く事もできずに放出させられ、二度めからやっと普通にできる。これを避けるために風呂場や少女の口で一度出してからという事も試したのだが、根本的な解決法は未だわかっていない。  だが、かまわない。少なくとも今は。  ふ、とユウキは笑った。  そして少女の身体を押さえ、そしておもむろに腰を豪快にふりはじめた。 「!?」  その打って変わった粗暴なほどの苛烈さ。少女の防波堤がたちまち決壊して悶絶と歓喜の声をあげはじめるのに、ほとんど時間を必要としなかった。    そんなふたりの刹那を見守るように、窓の外には上弦の月が静かに輝いていた。   (おわり) [#改ページ] あとがき[#「 あとがき」は中見出し]  お読みいただきありがとうございます。  本編は『ひだまり』直後の長門(男)視点の話です。キョン(男)が去ったあとしばらくして歌を切り上げ、そのまま男と女の時間にもつれ込もうとしたところに来訪者……という流れになっています。  まったくもってハルヒとは全然関係ない話ですみませんです。    それと、やっぱりまずいかなこれは。直接的な単語の使用は避けているし、ぎりぎりR15であろうと思ってるんですが……アウトかなぁ。  まぁ、ちょっと私にはよくわからないので、このあたりは運営元様次第という事で。もし削除となれば別のところに行く事になるでしょう。    それでは。ありがとうございました。 [#改ページ] 固有の設定について。[#「 固有の設定について。」は中見出し]  詳しくは『金魚鉢』などを参考にしてください。とりあえず対応は以下のようになっています。   『長門ユウキ』  本SSの主人公。  長門有希の男性版だが、人間の少女と事実上の愛人関係になるという異常事態が彼の人格の急成長を促している。態度や言葉遣いなどのあらゆる面に本来の長門らしい姿を残すものの、その人間くささとアクティブさは全くもって比較にならない。  ただし、その急成長と引き替えにいくつかの性能を落としてもいる。特に性に関する機能は少女によりとことんまで開発されまくっており、ややもすると彼の深刻な弱点ともなっている。   『|少女《キョン》』  あえてキョン子という表現は避けているが、その通りの人物。長い髪をもつ華奢な美少女、しかし超のつく貧乳。  長門ユウキ親衛隊や朝比奈ミライファンクラブに抹殺対象としてやり玉に挙げられ、凄まじいばかりのイジメを受けた不幸の少女。長門ユウキに助けられたが、この事が涼宮ハルヒコの嫉妬とストーカー化を加速する事になり、さらにさらに不幸は深刻化。自らユウキに所有され『人間のサンプル』として自身を提供する代わりに全面的に守られるという契約を交わす事になる。しかしこのために他のSOS団メンバーとの間に溝ができ、さらに事態はとことんエスカレートしていく。  見た目以外で男キョンと露骨に違う点として、Mな性格がある。長門に束縛され命令される事を大変好む。ユウキもそのへんを心得ているので、急いで何かをさせたい時は細かい理屈は後回しにとりあえず「命令」してしまう。  この性格ゆえ、ユウキに従うという事は情報統合思念体側の陣営に取り込まれてしまったのとほとんど同義であった。これもまた古泉や朝比奈を慌てさせたり、涼宮ハルヒコの暴走を加速したりする一因にもなっている。  だがこの性格ゆえにイジメに耐えきったのも事実。普通の子なら登校拒否に陥るか、それ以前にボロボロになって間違いなく精神を損なっていたに違いない。 (本編の男キョンも、主人公ゆえに描かれないが性格はダウナー系。あれで女ならこの女キョンのような性格になるのかもしれない。てーか、そうじゃないかなと思って性格デザインしたわけですが)   『朝比奈ミライ』  朝比奈みくるの男性版。ショタっ気全開の美少年である他は性格その他、オリジナルの朝比奈みくるとほぼ同義。ただし男性であるぶん、特に女性であるキョンの目には、男キョンから見た朝比奈みくるに比べると頼れる存在とは見えているようではある。   『古泉一姫』  ノーコメント。  貧乏くじひかせちゃいましたが、彼女だって決して悪人ではありません。全ては作者が本編の古泉をあまり好きでない事に由来します。ごめんなさい。