寝物語 hachikun マブラヴunlimited、冥夜 (…なぁ、冥夜) (…なんだ?タケル) (…つまらない話、聞いてくれるか?) (なんだ?昔話か?そなたの昔話ははじめて聞くな) (…まぁな。でもよくわかったな。昔話だって) (月詠がな。男というものは女の懐で昔話をするものだと) (…つ、月詠さん…こっちでも同じかよ) (こっち?こっちとはどういうことだ?) (ん?ああ) (ああ、ではない。そういえばそなた、私の剣のことも知っておったな。やはり、それと何か関係があるのか?) (…あぁ、ある。実は今から話そうと思う事もそれなんだ) (…よいのか?それは重要な軍事機密に関することではないのか?) (あぁ、そんなことも言ったか……今だから言えることだが…すまん、それは嘘だ) (…いや、嘘なのは薄々わかっておった) (え、そうなのか?) (あたりまえだろう。…しかしスーパーエリートソルジャーの件が嘘であったとて、そなたは香月博士とも親しく機密エリアにも出入りしていた身だ。そのような事を私に話すのは危険ではないのか?) (危険、といえばそうかな…けど、それ以前におまえはきっと全部は理解できないと思う。だから、いいんだ) (…そうか。まぁよい。ならば、話すがよい) (…ああ)   (…そうか。そのようなことが…) (理解、できたのか?) (正直、信じられん。…だが、おまえの事を考えれば、確かに納得のできることではあるからな) (…そうか) (…すまなかったな、タケル) (え?) (以前、カガミスミカについて問い詰めた事だ。…辛かったろう。本当にすまなかった。許すがよい) (…) (私には、幼馴染みという存在はおらぬ。そしてこのような世界だ。おまえの感じている喪失感もわからぬし、ましてや見知らぬ場所に投げ出され、同じ名と顔を持つのにまったく違う人々の間で暮らす苦しみや悲しみなど、到底理解の及ばぬことだ) (…あぁ、かもな) (だが、想像はできる。おそらくそなたにとり、この世界全てよりその娘が大切だったのだろう。それを失ってしまったのだ。しかも月詠たちまでそなたを疑い…知らぬ事とはいえ、本当にすまぬ) (…いいんだ。今、おまえが…冥夜がここに居てくれるなら、それでいい) (そうか。……私でよければいくらでも甘えるがよいぞ) (ありがとう。冥夜) (…ところでタケル) (ん?) (その世界での私は、どんな女だったのだ?) (…そのまんま、おまえそのものだったよ) (どういう意味だ?) (まぁいいじゃねえかもう) (き、気になるぞ。別人かもしれぬが私は私だ。…まさか、とんでもない粗相でもやらかしたのか?) (……おまえはおまえのまま。いつもあの剣を帯びていてな。はじめて出会った時もあの剣、持ってたっけ) (四つか五つの頃なのだろう?戦争もない時代にか?) (御剣家は特別だったんだよ。あの世界じゃ二千年続いた巨大な財閥だった。天皇家ゆかりかどうかはわからず仕舞だったけど、たぶんそういう血筋でもあったんだろうな。古い家柄だし) (テンノウというのは皇帝のことだな。そうか…BETAが来ていたかどうか等、違いはあるが本質は変わらないということか。…ではあの訓練端末は?) (あぁ、そうだ。俺の世界のおもちゃさ。俺はああいうゲーム機や、シミュレータみたいな体感式の機械で遊んで育ったんだ) (子供時代からなのか。…道理でとんでもない腕前なわけだな。しかしそれは凄いな) (凄い?) (あぁ、そうだ。戦争を娯楽にするほど平和な世界から来て…よく耐えられたな、タケル。やはりそなたは特別だったのだろう) (そりゃ買い被りだ。みんながいなきゃ、俺はとっくに居なかった) (…なるほど。そうかもしれぬな。……さ、もう休むがよい。明日も戦いだ) (…ああ、そうだな。おやすみ、冥夜。月詠さんもね) (!き、気づいてたのか) (え?いつもどっかで聞いてるだろ月詠さん。違うのか?) (…まったくそなたは…あぁ、たぶんこれを聞いたら月詠も休むだろう) (そっか。…じゃ、おやすみ) (…ああ)   - おわり -