いもうとがほしかった男 hachikun とらいあんぐるハート3、いわゆる体験もの (一部修正をかけました。2010/1/7)   ──どうして俺は、高町恭也じゃないんだろう?   どうして俺は、この子のお兄ちゃんになれないんだろう?   もし俺が恭也なら、恭也よりほんのちょっとだけ、でもたくさんの時間をなのはのために使ってやるのに。   もし俺が恭也なら、この子のためになんでもしてやれるのに。   もし俺が恭也なら、この子を片時だって泣かせておかないのに。   こんなにも──こんなにも愛しいのに。   ──神さまって奴は、どうしてこうも残酷で理不尽なんだろうか?   ああ……胸が痛い……──(SS本編より)    なのは狂いのとらハファンが海鳴にいっちまう話。とらいあんぐるハートシリーズ全作ネタバレあり。    アダルトな高町なのはなんてあり得ない、と言い切る熱狂的ファンの貴方へ──。  ロリコン描写あり。苦手なひとは避けてください。 [#改ページ] プロローグ[#「 プロローグ」は中見出し]  俺はロリオタらしい。  自慢にもなんにもならないが事実だから仕方ない、俺は自称も他称も含めて完全無欠なまでにロリオタである。部屋を変なグッズで飾ったりするタイプではないが、やはりロリオタはロリオタである。恥ずかしい話だが。  たぶんなんだけど、こうなった原因は小さい頃の生活環境だと思う。俺は親戚一同の中でひとりだけ歳下で、当然ながらイトコも年上の女ばかり。おもちゃにされたりパシリにされたりして育ったために、軽い女性不信というかそういうものがある。そんな俺の唯一の願いが「歳下の女の子に『おにいちゃん』と呼んでほしい」ってことなんだよね。  え?風俗いけって?いや、プレイとかじゃないんだよ。そもそも子供にそういう意味の興味はない。単に呼んでほしいだけ。身内の歳下の女の子、それも可能なら肉親につながるような女の子に『おにいちゃん』って呼んでほしい。それだけなんだ。  そんな想いを持ったまま、俺は気がつけば大人になっていた。  仕事仕事で暮らしていた。無能な俺はいい仕事なんかにはつけなかったけど、それでも平凡なおっさんにはなれた。独身だけど平和。年齢イコール彼女なし時間っていうまぁ情けない状態。だけど、それでもいいって最近は思っていた。  そんなある日、俺はとあるパソコンゲームと出会うことになった。  『とらいあんぐるハート3』  パソコンのノベルゲームなんてものに手を出したのははじめてだった。だけどそこには「安らぎ」があった。パソコンの画面だけのバーチャルな世界ではあるけど、歳下の可愛い女の子と仲良くできるまったり空間がそこにあった。  旧作も買ったが、これもよかった。  一番お気に入りは高町なのは。3に出てくる妹キャラだ。この子には熱狂的にはまった。この種のゲームに耐性のなかった俺は本当に夢中になり、昼も夜も余暇を惜しんでは幸せ空間にはまっていた。攻略ルートがないことに悶え狂い、さらには続編を買ってそれで嘆いた。成長して他の男のものになってしまうなのはに涙し、おにいちゃんはなぁと馬鹿みたいに泣いた。  ああ、それにしても。  こんな可愛い子にお兄ちゃんと呼んでもらえたら……どれほどに幸せだろう?  自分がおかしいのは承知していた。ゲームの架空の世界に恋するなんて頭が変としか言いようがない。  だけどその想いは止められそうもなかった。    だからなんだろうな。その事件が起きてしまったのは。 [#改ページ] 鳴動[#「 鳴動」は中見出し]  目覚めた時、そこが自宅と違うのにはすぐに気づいた。  俺の住んでる安アパートではない、見たことあるようなないような和室だった。地味というより渋い。真新しい畳の匂いがして、和室特有の落ち着いた雰囲気のいい部屋だった。  思わず、ぽかーんとしてしまったのは言うまでもない。 「……なんだこりゃ?」  自分の声もまるで他人のようだった。そのくせどこか違和感、いや既視感もあった。  いったい、何がどうなってるんだ?混乱しつつ周囲を見回していると、  ──とんとん。入口を軽く叩く音。誰だと言おうとしたんだけど、 「恭ちゃん、恭ちゃん起きてる?」  まだ朝早いせいか押し殺したような声で、忘れようにも忘れられない声が聞こえてきたんだ。  ──はい?高町──美由希の声?  ンなばかな! 「恭ちゃん?恭ちゃんどうしたの?具合でも悪いの?入っていい?」 「!」  だんだん大きくなる美由希の声に、あわてて我にかえった。  この事態はどうあれ騒ぎを起こすのはまずい。周囲が把握できるまで穏便にすまさなくちゃ。  これが本物の高町美由希で今が朝なら事情はわかる。ようするに兄が朝の鍛錬に出てこないので心配して見にきた、そういうことなんだろう。  とりあえず誤魔化そう。高町恭也の部屋に別人がいたなんてばれたらえらいことになる。それでなくてもこのゲームの女性キャラは異常に強ぇ女揃いだ、へたすりゃ全員に冗談でなく叩き殺されるぞ。 「美由希」  後から思うとこの時の俺はまだ半分寝ぼけていたんだろう。他人ならそもそも声で気づかれるはずなんだ。憂慮すべきだったのに、俺の思考はそこまで及んでなかった。 「すまん、今日は少し急用ができてな、悪いが鍛錬は休みにしてくれないか」 「え?大丈夫なの恭ちゃん?」  すーっと襖が開き、あまりにも見慣れた顔がひょっこりと覗いた。  ……うわぁ、本当に高町美由希だよ。ど、どうなってんだこりゃ!  俺はまるで銀幕のスターが目の前に現れたような気分で、一瞬完全に我を忘れてしまった。 「……恭ちゃん?もしかして寝ぼけてる?」  俺のおかしな反応を、彼女は寝ぼけてると勝手に解釈したらしい。むむ、と首をかしげたりなんかしているさまは結構可愛い。  ……俺、ゲームごしとはいえこんな子に眼鏡プレイさせてたのか。なんか罪悪感てんこもりなんすけど orz  いや、これで俺が色ボケの高校生とかなら熱狂したのかもしれない。  だが残念ながら中身の俺はいい大人だ。同年代のイトコの女の子に変態プレイなんて強要できるのはゲームの中だからの話であって、目の前に現実として立たれるとはっきりいって弱々だ。自分がいかに汚れた大人であるかをしみじみと感じてしまう。  まぁもっとも、俺は美由希ルートじゃほとんど純潔で通したけどな。20回は少なくとも遊んだはずだが、ほとんどの場合は師弟関係のまま済ませていたと思う。彼女は好きだがそれは身内への想いに近いわけで、やっぱり恋人関係は抵抗があった。  あぁいかんいかん、なんか言ってやらねば。 「すまんな美由希──なんだかよくわからないが非常に眠い。夜更ししたつもりもないんだが、見えない疲労でも溜っていたのかもしれないな」 「もう、他人事みたいに恭ちゃんは」  呆れたように美由希は言い、ためいきをついた。 「どこか痛いとかはないんだね?膝は?」 「ああ、大事ない」  じくじくと疼くような痛みがあったが、これは昨日今日のものではない。自分でもわかった。  そっか、と美由希は頷いた。 「恭ちゃん、最近忍さんたちとよく遊んでるからね。そのせいかな」  なんだか、ちょっと恨みがましいように聞こえるのは気のせいだろうか。私ももっとかまって、と全身が訴えているようにも思える。  うぅ、彼女の気持ちもわかってるだけに罪悪感がちくちくと疼く。思ったよりはるかにきついぞこれ。  高町恭也がいかに罪つくりな鈍つく野郎なのか、俺は改めて実感した。 「ごめんな美由希」 「え?」  不思議そうな顔で美由希は俺の顔を見た。 「いつか埋め合せはする、だが今日だけはひとりで鍛錬してくれるか?無理はするな、いつものペースでな。頼むぞ」 「あ、うん」  美由希はちょっと困ったような、そして不思議そうな顔で頷いた。 「どうした?」  問いかけた俺にちょっと苦笑いすると、 「なんか今日の恭ちゃん──いつもより雰囲気優しいね」 「は?」 「うんわかった。今日はひとりでいくね」  そんな返事を透明な微笑みと共に返したかと思うと、襖がすっと閉じた。    しばらく、俺はぽかーんとしていた。  だんだんと頭が冴えてきた。俺は机の側にいくと引出しから鏡をとりだし、じっと自分の顔をみた。 「……高町恭也だ」  は、はは。いったい何が起きてるんだ?わけがわからない。  何がいったいどうなってこんな珍妙な事態になっているのか。俺は現実の人間で、高町美由希はゲームのキャラだ。それにこの部屋だって現実のわけがない。  妙に違和感があったのも道理だ。俺はゲームごしにしかこの部屋を見たことがないんだから。  気づくと、力なく畳の上にへなへなと座り込んでいた。  遠くからカチャカチャと音がする。たぶん台所。ここが高町家ならレンか晶が朝食の支度をしているんだろう。一人暮しの長い俺にはひさしく聞いたことのない音だった。いい匂いもしはじめている。 「──ちょっと待て」  ふと事態のやばさに気づいた。  俺は確かに高町恭也になっちまってるようだ。だが本物の恭也同様に振る舞えるかというと、どう考えてもノーだろう。さっきは美由希をうまく誤魔化せたわけだが、あれは寝起きという状況を利用した偶然の産物であって、普通に会話していたらあっというまに中身が別人であると気づかれるに違いない。  それはまずい。  最悪、今がとらハ3本編の時間軸だったら大変なことになるぞ。どのシナリオであれ、一度も高町恭也が戦わずにすむシナリオなんてないんだから。  俺という異物を飲み込んだがために……とんでもないことになっちまうかもしれない! 「くそっ!」  急いで着替えた。  恭也愛用の時計を身に着けふとんを畳んだ。こういう日常シーンはゲームにはないから適当になったがこれは仕方ない。  とにかく急がなくては。  高町母やフィアッセが戻ってきたら万事休すだ。俺が恭也でないと気づいたら大変なことになる。家中巻き込んで大騒動……ですめばいいが、正直何が起こるかまったく予想がつかない。  そしてそうなったらきっと──なのはちゃんを泣かせてしまう。 「……」  いつかの番外編で見た泣き顔のなのはちゃんを思いだし、俺は胸が痛くなった。  冗談じゃない!俺はあの子が好きなんだ!あの可愛い笑顔が見たいんだよ!お兄ちゃんって呼びかける声が聞きたい、ただそれだけなんだ!  それなのに……なんでこうなるんだよ!  俺が彼女を泣かせてどうすんだよ……畜生っ!!    と、とりあえず逃げなきゃ!  服にいくばくかの金があることを確認した。OK。  そして「用事で出かけます。探さないでください」と一筆したためて机の上に起き部屋を出た。 「おししょー?こんな時間におでかけです?」  背後からレンとおぼしき声が聞こえたが、 「すまん、ちょっと出てくる。朝食すませといてくれ」  あ、はい、わかりましたとか言ってる声に背中ごしに手をふり、俺は外に出た。    俺を恭也と信じきっているその声に、胸が激しく痛んだ。 [#改ページ] 邪念[#「 邪念」は中見出し]  格子戸をあけて外に出た。  空は快晴だった。比喩でなく夢にまで見た海鳴の空。俺のアパートのある土地じゃ二度と見られなくなった、どこまでも蒼くて美しい空がひろがっている。 「……」  ふと、涙がこぼれた。  何してんだろ俺。突然にこんなとこにやってきて右も左もわからず。  俺の愛しいあこがれの君は背後の家の中。でも俺は近づけない、近付いちゃいけない。 「……はは」  情けなさに涙を拭ったその時、 「高町……先輩?」 「!」  その声その呼び方……神咲那美さん桜並木再会前バージョン!  おそるおそる顔を向けると、そこには巫女姿の神咲さん、そしてなぜか警戒しまくりのチビ狐、久遠がいた。    神咲那美という女の子は、本来はシリアス系の美少女だと思う。  もともと顔の造型といい物腰といい大した|別嬪《べっぴん》さんなんだが、実際に目の前にすると本当に美しいひとだとわかる。普段のドジ子さんなとこがなければその巫女姿とあいまって、大変な人気キャラとなることは言うまでもないだろう。まぁ今でもかなり人気あるらしいけどな。  かくいう俺もヒロイン中では二番めに好きな存在だったりする。ちなみに一番は忍とノエルなわけで、だから俺にとってとらハ3の基本ルートは忍&那美ルートなのだ。ここだけの話。  さて、解説はいい。 「神咲さんですか」  俺はなるべく落ち着きはらい、恭也っぽく返事を返した。まさかここで疑われるわけにはいかないからな。  だけど俺の認識はいきなり甘かった。 「……あぁやっぱり。なんてこと」 「はい?」  神咲さんは悲しげな、それでいて厳しい顔で俺を見た。 「あなた」 「……は?」  なんで神咲さんが、高町恭也を他人行儀風に「あなた」なんて呼ぶんだ? 「高町先輩に取り憑いてるあなた。ちょっと質問いいですか?」 「!?」  ──はい?  な、なななななななんで見破られてんだいきなり!?  だけど神咲さんは、困った顔を崩さない。「びっくりって顔ですね」なんてためいきをついちゃったりはしているけど。  どういうことだいったい? 「私はこの通りの人間ですから。浮遊霊や何かが取り憑いた人を見分けるのは得意なんですよ?」 「あ」  そっか、そりゃそうだよな。  畜生、那美ルートなんて猿のようにプレイしたってのに、なんでこんなことに気づかないんだろ俺。  神咲さんはそんな俺の顔に何かを感じたのか「ええ、そうですよ」と頷いた。 「後であなたともきちんとお話させていただきますね。高町先輩に取り憑かれたままですと色々と困っちゃいますし、高町先輩のお身体にも、そしてあなた自身にもきっとよくないですから。  ですけどその前にお聞きしたいことがあるんです」 「はぁ」  どうやら除霊行為は後回しのようだ。彼女ともあろうものが……何があったんだろ? 「どういうことかな?俺にできることなら手伝うが」  つい俺もそんな答えを返してしまっていた。  神咲さんはそんな俺をちょっと驚いたように見て、そして、クスッと少しだけ笑った。 「実はですね、さっき物凄い霊気が降ってくる感じがしたんです」 「ほう?」  なんだろう?彼女ほどのひとが凄いというくらいなら、さぞかしとんでもない代物なんだろうが。 「寮で寝てたわたしとこの子ですら飛び起きたくらいの強烈な霊気です。何事かとここまでとんできたわけなんですが」 「で、そこに俺がいたと」  神咲さんは真剣な顔で頷いた。 「高町先輩は心身ともに強い方です。ですから、それに取り憑いてるあなたにもきっと強い力があるんだと思います。ですが」 「……ですが?」  俺の言葉に、神咲さんはハイと答えた。 「あの霊気、ものすごく強かったんです。桁外れといってもいいくらい。  それに空から降ってきたのも気になります。くお……いえ、わたしの知っているその手の存在というと変化の一種になりますけど、それに近い強烈な波動でした。  あれほどの強い念だと、誰かにとりつく必要もないと思うんです。単独の存在として活動している可能性が高いんです。あなたのような形は……そうですね。よほどの理由がないととらないでしょう」 「はぁ」  なるほど。そういう理由なら俺は疑いから外れるよな。俺、どう転んだってそんな強い力なんかあるわけないし。  だけど神咲さんとの次の会話は、そんな俺の顔色を変えるに十分だった。 「それに……ちょっとイヤな感じの波動だったんですよ」 「は?」  神咲さんはなんとなく、薄気味悪そうな顔をしている。 「ひとつの意志を感じたんです。ものすごく強い意志です。そのためなら他の何もいらない、それほどに強いひとつの思念でした。  あなたの事ももちろん放置できませんけど、あれはちょっと……その、大変よろしくないというか風紀上問題があるというか。邪念というほどのものではないかもしれないけど、やっぱりちょっとまずいというか」 「はぁ」  妙に口を濁す神咲さん。  なんだかな。なんかイヤな予感がするのは気のせいだろうか? 「危険なものではない、と?」 「危険ではないと思います……ある意味危険ですけど」 「はぁ」  わけがわからん。 「それって、どんなものです?なんなら俺も捜索手伝いますが」 「……いいんですか?」  顔をあげる神咲さん。 「あの、わたしのお仕事はあなたのような方を成仏させてあげることなんですよ?それに高町先輩は親しい方でもありますし、決して見逃してあげたりはできません。それでもいいんですか?」 「当然」  神咲さんの力になれるなんて光栄だ。  いや神咲さんだけじゃない、高町家の皆や忍やノエルだってそうだ。俺の本来いる世界には彼女たちは誰もいなくて、この町もない。本来ならばどんなことをしたって出会うはずのない人達なんだ。  どんなに焦がれようと、決して届かない存在。どんな星よりも遠い人々。  彼女たちのためになれるというのなら……いったい何を惜しむというのか。 「あーいや、それはむしろ俺の方から頼みたいです。  それにですね、実は俺もちょっと困ってまして」  神咲さんに話しつつ、俺はだんだんと自分の立場も理解できはじめていた。  この現実が昏倒した俺の妄想なのかSFじみた何かなのかはわからない。だけど問題なのはそのことじゃない。  どうしてここに来たのか、そしてどうすればここから去れるのか。そのほうがはるかに問題だろう。  神咲さんは特別な能力の持ち主だ。恭也に好意も持っている人だし、俺をひとめで見抜いた人だ。相談にのってくれるかもしれない。 「俺はここに間違ってきちゃったみたいなんですよ。この身体の持ち主、高町恭也にも申し訳ないし、なんとか戻りたいんですが状況すらもまるでわからないときた。  しかもこのままじゃ、なの……いえ、高町家の人にもとんでもない迷惑がかかっちまうんです。  神咲さん、神咲さんの問題解決に協力しますから俺を助けてくれませんか?」  やべえやべえ、もう少しでなのはちゃんって言っちまうところだった。 「ええ、いいですよ。そういうことなら」  にっこりと神咲さんは笑ってくれた。 「あなたがどこで亡くなられた方なのか、どういう残念をされているのかは知りませんけど、できる限りお力になりましょう。  でも珍しいですね。そこまで意志がきちんとしているのに残念されているなんて」 「はぁ」  いや、死んでないんだけどな俺、たぶん。 「で、話を戻すけど……イヤな感じの波動ってなに?」 「それがですねえ」  困ったように神咲さんは顔をそむけると、 「……『おにいちゃんと呼んでほしい』って」 「……は?」 「いえ、だからその……『おにいちゃんと呼んでほしいよー』っていう内容の波動でした。それがこう、空からどーんと物凄い勢いで落ちてきまして」 「……」 「えっと、あのー……どうされました?」    ぴき、と全身が固まった気がした。   「そ、それはまた……ずいぶんとワケのわからない波動ですね」  わけがわからないっつーか……まさか。  神咲さんはそんな俺に気づかない様子で、そうなんですよねーと苦笑した。 「まぁ、なんとなく背景とかは見えたんですけどね。物凄く強い思念でしたし。  子供の頃、年上の方にさんざんな目にあわされた方で妹さんが凄く欲しかった方みたいなんです。そんなイメージがいっしょになってこう、ぐるんぐるんと物凄い渦を描いてました。  あんなのが街中で発動しちゃったら大変です。それ自体は性犯罪っぽい匂いとかはなかったと思いますけど、普通のひとがそれを受けてどう反応するか。おかしな方向にいっちゃう人が続出したら大騒ぎになっちゃいますしね。  ……あの、どうされたんですか?」 「は、はは……ははははは」   まさかとは思うが……それ、俺か?  『なのはちゃんに「おにいちゃん」と呼んでもらいたい』って、その気持ちがこんな事象まで引き起こしたっていうのか?    うそだろオイ。頼む、誰か嘘だといってくれ。    「……あの、まさか?」  そんな自問自答をしていた俺は、神咲さんが不審そうな顔をしているのに気づくのが遅れた。 「あ、は、はい!」 「もしかして」 「え?……!」  神咲さんの方を見た俺は、彼女がジト目で見ているのに気づいた。 「もしかして……あなたが高町先輩に入ったのって」 「あ、あれ!」  こんなのにひっかかるわけないよなと内心思いつつ、咄嗟に空を指さしてみる。  すると。 「え?え?」  神咲さんどころか狐までひっかかって空を見ていた。あまりの間抜け、もとい平和さに脱力しそうになったが、それどころじゃないと気をひきしめる。  とにかく逃げなくちゃ! 「くうん!」 「あ、ちょ、ダメです!逃げないで!待てぇ!」  そんな可愛い声が背後から追いかけてきたが、もちろん俺は全力疾走に切替えた。  その瞬間だけ、鍛え上げた恭也の肉体であることを内心感謝して。 [#改ページ] 流転[#「 流転」は中見出し]  |運痴《うんち》っぽい神咲さんはともかく、あの久遠から逃げきれたのは僥倖だろう。どうしてか久遠は追ってこなかった。  俺は久遠もかなりお気に入りだった。だから彼女の能力はリプレイの中で研究していたけど、おもちゃ箱のシナリオの方でかなり高速に走れるのも知っていた。だから追ってこなかったのは意外だった。  もしかしたら、神咲さんが怪我でもしたのかもしれない……そう思うと俺は、良心がずきずき痛むのを止められそうもなかった。 「ほんっと……何やってんだか俺」  臨海公園のベンチに腰かけ、やれやれとためいきをついた。  美由希、レン、そして那美さん。幸い出会ってないけど晶もフィアッセも俺は大好きだ。この海鳴の町そのものが俺にとっての憧れであり、町のドラッグストアのおかみさんまでもが俺にとっては愛しい人達だったんだ。  架空の町、海鳴。  この臨海公園だって、フィアッセや美由希と買い食いしたり忍と談笑したりした思い出の町だ。それはゲームという枠組の中の幻であって俺は恭也の背後霊状態でそれを見ていただけかもしれないけど、だけど、それでも俺にとっては幸せだったんだ。  さびしい男?現実でかなえられないモテない男の悲しい妄想?あぁ、その通りだよ。  だけどそれは関係ない。  だって俺はこの町が好きで、あのひとたちが好きだ。その気持ちに偽りはないし、現実にあろうがなかろうが関係ない。好きっていう気持ち自体は変わりないと思うんだよ。そうだろ? 「……アリサちゃんのお墓参りでもしとくか」  俺はここにいるべき存在じゃない。だけど、なのはちゃんと一緒に泣いたのは事実。彼女とのわかれが悲しかったのも事実だ。そして俺は今ここにいる。  天国のアリサちゃんには迷惑な話かもしれないけど、花なら一輪多くても悪いことはないだろう、そうだろう?  少しずつ強くなる陽射しの中、どれ、と俺はベンチから立ち上がろうとした。  その時、それはやってきた。   「きょーや♪」    思わずギョッとした。やばい、と全身に寒気が走った。だけど同時に期待に胸が震えた。  だって、彼女のその呼び方──『恭也』は──。  俺が俺の最も愛するルート、つまり忍ルートかノエルルートのどこかにいることを意味したからだ。  月村忍。そしてノエル・エーアリヒカイト。  俺が誰よりも熱狂したヒロインふたり。  振り返る。そしてそこには──。 「やっぱり恭也だ♪どうしたのこんな時間にこんなとこ……ろ……で……」 「……」  あぁ、やっぱり。  幸せそうに声をかけてきたのは忍だった。忍ルートやノエルルートでそうであるように、満面の笑みを浮かべて子犬のように彼女は現れた。ほんと、可愛いったらありゃしない。  だけどその笑顔は俺の顔を見た途端、一瞬で怪訝そうなものに変わった。 「……あんた、誰?」  声のトーンが一気にさがり、目線がきつくなる。まだ赤い瞳にはなってないが、あの月村安次郎と対面した時とほとんど変わらないほどの凶悪な顔だ。  ああ、なんてことだ。まさかこの子のこんな恐ろしい目線を、しかも恭也の身体で体験してしまうなんて。  そしてそれはそれだけ、彼女に悲しい思いをさせているということでもあった。 「あんた何者?どうして恭也の身体を使ってるの?答えなさい!」  正直に言おう。俺はこの瞬間、冗談でなく死を覚悟した。  だけど、ここは退けない。  この海鳴が忍・ノエルルートに乗っかっているんなら彼女らは神咲さんともかなり親しいはず。さらにいうと機械工学系の忍と違い、彼女の叔母である綺堂さくらは、霊的現象とかそっち系とのかかわりも小さくない。初代とらハやおまけディスクでそれを見ていた俺にはそれがよくわかる。  神咲さんの言葉が正しいんだとしたら……俺の問題を解決するためには、どうしても忍の協力、そして忍の背後にいるさくらの協力が必要不可欠なんだから。 「わかった」  俺はきちんと折り目をただし、姿勢をただし座り直した。 「月村さんその通り、俺は高町恭也じゃない。そして今ちょっと困っている。問題解決のためにも全てを話すから、話したうえで貴女の助力を借りたい。貴女と、貴女の叔母さんである、綺堂さくらさんの助力をだ。  どうだろう、ぶしつけですまないが俺の話を聞いてもらえないだろうか」 「……え?」  怒り心頭という感じだった忍の顔はその瞬間、困惑に変わった。 「どーいうことよそれ?なんであんたがさくらを知ってるの?」 「知ってておかしいのか?彼女だって海鳴にいたことがあるじゃないか。君だって昔、彼女の親しい人達に逢ったことがあるはずだ。違うかい?」  そうだ。忍は初代とらハのメインキャストの大部分に出会っているはず。ずいぶん昔のことだが。 「……」  黙ってしまった忍に、俺はもう少し語った。 「実はここにくる前、神咲さんにも逢ったんだ」 「那美に?」  俺はてっとり早く今の状況、そして今朝からのことを話した。なのはちゃんへの想いのことも含めてだ。 「……」  敵意は少し消えたようだ。  だけど少し、いやかなり忍の視線は軽蔑的なものに変わった。敵対者をみる目つきから「この薄汚いロリオタ野郎、さっさと私の恭也を返せ」といわんばかりのものに。  それは悲しいけど仕方ない。だいたいにして基本的にこの手のゲームヒロインに憧れる男というのは、まちがいなく彼女らが蛇蝎の如くに嫌うタイプの人間ばかりなんだから。そこの君も、そこのあなたも、そして俺もそうだ。あなたが愛するヒロインたちがもしあなたを見たとしたら、おそらく好かれる人なんて百パー存在しないだろう。賭けてもいい。  だけどもっと悲しいのは、俺はその軽蔑の視線に慣れていたことだろうか。好きな女の子にそんな目で見られる辛さはあったけど、それだって初めてというわけじゃない。  悲しいことに「慣れてしまっている」というのは、単に悲しい以上に悲しいことじゃないかと思う。俺はもう、それが悲しいことだと頭で理解しているだけで実感もできなくなってしまってはいるのだけど。  忍は背後で待機していたノエルに声をかけた。 「ノエル、那美に連絡とって。久遠も連れてすぐうちに来いって。あと──いい、さくらには私が連絡するから」  そして俺の方に向きなおり、言った。 「いいわ、協力したげる。  恭也を取り戻すために、あんたなんかとっとと恭也から追い出してやる。私はそっち系得意じゃないけどさくらは違うんだからね、お望み通りに跡形も残さず消してやるわよ。  ノエル、これ車に積んで。ああ、様づけなんかすんじゃないわよこいつ恭也じゃないから。少しでも怪しいそぶり見せたらふん縛っちゃいなさい。手加減はいらないわ、死ななきゃいいんだから。  なんなら意識落としてから運んでもいいわよ?」  俺はその時、月村忍という女の子が嫌いな人間にどういう表情をしてどういう目をするのかを知ることになった。  俺はただ、苦笑して両手をあげるしかなかった。 [#改ページ] なのは〜いもうと〜[#「 なのは〜いもうと〜」は中見出し]  妹がほしい。そう思ったのはいつだったか。  かなうはずのない願いだった。昔は思っていたんだけど、老いた母親が病気で子宮を摘出することになり、それは決定的になった。すくなくとも実の妹については、俺には二度とかなわぬ永遠の夢になったんだ。  あぁ、モニターの中で彼女が踊る。  彼女の目はもちろん俺になんか向いていない。高町恭也にとっても彼女は妹、それ以上のものではないから。その瞳は遠い未来の愛しい誰かのために向いているのであって、決して俺の視線と交錯することなどありえない。  あぁ──愛しさでどうにかなりそうだ。  敬愛するナボコフ先生、俺は異常でしょうか?決して手の届かない、届くはずのない少女を愛してしまった俺は、アナベルとロリータを重ね破滅の道を歩いたハンバート教授のように、唾棄すべき異常者なのでしょうか?生きる価値もない社会のゴミなんでしょうか?  あぁ──でも。彼女が泣いている。  大切な友達がいなくなってしまったとあの子が泣いている。友達が、きょうだいが彼女を慰めている。だけど彼女の涙は止まらない。  お願い泣かないで。君が泣くと俺まで泣いてしまうから。  ねえ先生、俺は──あの子を慰めてあげたい、それだけなんです。  親友をなくした彼女、その涙に俺は泣いたんだ。  やさしい気持ちで泣く彼女がとても悲しくて。勇気をもって別れを選んだ彼女が切なくて。純粋な心がとても愛しくて。    あぁ──そうか、そうだったのか。  だから俺は高町恭也になったんだ。  なのはちゃんの涙をふいてあげたい、ただそれだけのために俺は高町恭也になりたかった。あいつのかわりになのはちゃんの隣にたって、頭をなでてやりたかった。泣きじゃくる小さな彼女が少しでも笑っていられるように。とても暖かいけど男性のいないあの家で、恭也よりも少しだけ、いい父親代わりをしてあげたかった。  ただそれだけのために──。  欲がない?はは、何を馬鹿な。  彼女の微笑み以上の御褒美なんて、一体この世のどこにあるというんだ?    目覚めた時、そこは月村邸の中と思われた。  思われた、というのはゲーム内の描写しか知らなかったからだ。俺は大きなソファに埋もれるようにして眠っていたわけだが、その見知らぬ部屋を見渡した時、俺はその窓の形に見覚えがあるのに気づいた。  ──そう。  この部屋は、忍のご両親がなくなった時、ノエルとそのことを話した部屋なんだろう。窓と椅子の描写しかなかったからよくわからないけど。 「お目覚めかしら?」  目の前には美しい落ち着いた物腰の女性……そう、綺堂さくらがいた。 「……さくら、さん」  思わず彼女を呼び捨てにしかけて、そしてあわてて「さん」を付け足した。  そう。  俺は彼女の昔を知ってる。相川真一郎や野々村小鳥を先輩と呼んだ、ヘアバンドの可愛い女の子としての綺堂さくらを俺はよく知っている。 「……」  はたして、そんな俺をどう見たのか、さくらはクスッと笑った。 「こんにちは、恭也さんでない恭也さん。それとも先輩でない先輩、とお呼びしたほうがいいのかしら?その感じだと」 「!」  悪戯っぽく笑うさくらに、俺は内心冷汗をかいていた。 「どうしてわかったか、なんてのは聞かないでね。きっと『先輩』はその方法を御存じだと思うし」 「──ですね」  たぶん久遠の夢移しか何かだろう。真意を探るために俺の記憶を見たのか。 「最初に謝っておくわね」  さくらはちょっと困ったようにつぶやいた。 「忍はたぶんもう顔を見せないわ。あなたが消えて本来の恭也さんが戻ってくるまでは。  あの子ね、頭ではわかってるけど納得できないのよ。恭也さんをあなたがその……乗っ取ってしまったような状態だから」 「はい」  たぶん、このさくらだって俺に相対なんかしたくないんじゃないだろうか?ただ彼女は大人だから、あえてその貧乏くじを引いてくれたに違いない。  そんなそぶりすら見せず、優しく笑ってくれてるけど……。  一瞬だけ、胸がきしむような喪失感を味わった。でもそれを俺は隠した。 「……」  さくらはそんな俺を憐れむように見た。 「あなたの立場には同情する。  あなたはこの世界を我が事のように知っている。それどころか誰よりも愛してすらいる。なのに、この世界にはあなたの居場所はない。あなたは結局のところただの|客人《まろうど》であって、ここの人間ですらないから。  それはとてもつらいことよ。私ならきっと──そんな状況には耐えられない」 「……」  返す言葉もない。俺は頷いた。  さくらはそんな俺にまた微笑み、そしてゆっくりとつぶやいた。 「あなたが元の場所に帰れるよう手配しているわ──ごめんね、もう少しだけ待ってちょうだい」 「いえ」  どんな方法で俺を返すというのだろう?俺自身、どういう原理でこの世界にやってきたかもわからないというのに?  さくらは立ち上がった。もう自分の仕事はすんだということだろうか。踵をかえし、出口に向かって歩きはじめた。  でも、途中で一瞬だけ足を止めた。 「──ひとつ聞いてもいいかしら」 「はい」  何を聞こうというんだろうか? 「あなたの知ってる私の過去では、私はなんて呼ばれて、なんて返してたのかしら?いくつもの展開があるみたいだけど、その中からひとつ選んで言ってみて」 「……」  誰の呼称とは聞かなかった。俺はただ答えた。 「さくら、先輩、だな。ちなみに結婚後は先輩が下の名前のさんづけに変わったみたいだ」 「そ」  さくらは長い間、躊躇するかのように立ち止まっていたのだけど、 「その時、私は笑ってたのかしら?」 「幸せそうに笑ってたよ。爺さんになった真一郎とふたり」 「……」  真一郎、の名前のところでピクッとさくらは反応した。  俺の知る限り、とらハ3の本編で真一郎の名前は一度も出てない。そして鷹城唯子の話から総合すると、真一郎は本編時点では野々村・鷹城コンビと未だに『|複雑で微妙な仲良し関係《とらいあんぐるハート》』状態で、いまだ結婚してはなさそうだった。そして、さくらの姓も綺堂のまま。  だから俺はそのまま続けた。 「俺の知る歴史は色々と分岐があるから、さくらさんの望む答えがどれかはわからない。だからこれは俺の勝手な妄想かもしれない。ピントずれてたらごめん。  あの──言ってもいいかな?」  さくらは、こちらに顔を向けずに小さく頷いた。 「がんばれ『さくら』。  誰かを選べば誰かが泣く。だけど俺はあなたが好きだった。えこひいきかもしれないけど、俺はあなたに幸せになってほしい。あなたは周囲と波風たてるのを嫌がる性格だけど、別にわがままに欲しいものを追いかけてもいいじゃんか。  だから……がんばって」 「……そ。ありがとう」  それだけを言うと立ち去ろうとした。だけど俺は続けた。 「俺からも質問いいかな」 「なんですか?『先輩』?」  意図的に『先輩』と言ったのは、ちょっぴり嫌味まじりか。俺は苦笑いした。 「大人バージョンの耳、見る機会がなかったのは残念だよ。ヘアバンドしなくなったってことは、大人になって隠すのがうまくなったの?それとも、隠しかたを誰かに習った?猫のお友達あたりに」 「──」  さくらはしばらく躊躇してから、 「ぶしつけですよ先輩。まぁ……ご想像におまかせします」 「ちぇ」  くすくすとさくらは笑いつつ、部屋を出ていった。  こっちに顔を向けなかったから、表情まではわからなかったけど。    しばらくはただ、静寂があった。  窓の外は晴天だった。俺は何をするでなく、ただ椅子に座り続けていた。 「……ほんと俺、なんのために海鳴までやってきたんだろうね」  内心苦笑いするしかなかった。  結局俺は誰の役にもたってない。ほんの数時間でたくさんのひとに迷惑をかけて、そして今もかけつづけている。ただの異分子。  よくあるファンの二次創作物だとこういう時、ヒロインのひとりと恋に落ちたりとかするんだろうなぁ。俺の身体は恭也のものだし、こんなおいしいシチュエーションもないだろう。  だけどもちろん、現実にはそんなことはありえない。  ガワが同じでも中身が別人なんてこと、家族や恋人にわからないと思う奴は発想が貧困すぎるんだ。普通の奴でもおかしいとすぐに気づくだろうし、そもそもこの海鳴の面々はそういう方面に目のきく奴が多すぎる。おそらくこの町は、宇宙人がやってこようが杖を携えた魔導士が現れようが冷静に対処できる。そういう面子が揃っているに違いない。  事実俺のこの状況がそうだろう。  俺は今、月村邸のどこかに事実上隔離されている。誰が考えたかは知らないが賢明な判断だろう。俺をこの町に取り込むつもりならいざしらず、影響なく追い返す算段があるのなら、おもしろおかしい騒ぎを起こしたり知人友人をこれ以上困らせる前に隔離してしまったほうがいいに決まっているんだから。 「……おや?」  ドアの向こうで話し声がする。  押しとどめるような声、たしなめるような声、そして何かをふっきるような声。いくつもの声がドアに近付いてくる。 「──まさか」  その中にひとつの声を聞いた俺は、魂が震えるのを感じた。 『だって、お兄ちゃんなんでしょ?』 『そりゃそうだけどね、なのはちゃん。あれは恭也であって恭也じゃないんだよ?あれはね、なのはちゃんみたいな年頃の女の子が好きな変態ロリコン男なの。なのはちゃんの大好きな恭也とは別人なんだよ?』  こら忍、おまえ、なのはになんてこと教えるんだ!  俺は思わず、扉ごしに忍に声をかけていた。 「忍、なのはに変な言葉を教えるんじゃない」  扉の向こうで一瞬、絶句するような声が聞こえた。 『立ち聞きしたあげく、なにが忍よ!なれなれしく言わないで気持ち悪いわね!  だいたいニセモノのくせに恭也みたいなこと言ってんじゃないわよ!』 「俺のことなんかどうでもいい!なのはに変なこと教えるのはやめろと言ってるんだ!  おまえ分別のない人間じゃないだろ!なのはの年頃を考えてくれ!」 『……』  扉の向こうでしばらく沈黙があった。そして、 『……なんで……なんでそんなとこだけ恭也そっくりなのよぉ……』  泣いているような声が聞こえた。 「すまん」  それ以外に言える言葉なんてなかった。  俺が本物の恭也なら、忍を泣くまま放置なんてしなくていいのに。だきしめてやって涙をふいてやることもできるのに。  ──俺だって忍が好きなのに。恭也の気持ちには負けるのかもしれないけど。  くそ……泣くもんか。  そんなこんなをしていると、 『おにーちゃん、入っていい?』  そんな言葉が聞こえてきたんだ。    なのははどういうわけか、白い制服姿だった。  夢にまで見た俺のちっちゃな女神。高町なのは。  かわいくて泣き虫で、怒った時の迫力だけはちょっぴりお母さん譲りで。そんな女の子がなのはだ。白い服がとてもよく似合って、純潔で純朴で。  だけど──この子は。  あぁ──彼女に出会えるなんて。ニセモノとはいえ恭也として、この子の前に立てる日がくるなんて。  あぁ……愛しい。この気持ちをどう表現したらいい?  溢れる愛しさでどうにかなってしまいそうだ。 「おにい……ちゃん?泣いてるの?」 「!」  ああ、すまんと言って俺は涙を拭った。  あれほど憧れていた『おにいちゃん』という言葉なのに、それは俺の琴線を揺らさなかった。それは不思議なほど自然に、俺の中にスッと入ってきて、そして俺をちょっとだけ癒してくれた。だけど、それだけだった。  だけど。  困ったように俺を見上げるなのはの顔は、俺の魂の底までも揺るがした。  ──ああ畜生、言葉がでない。  なのはに逢えたら、もし逢えたら言いたいことがいっぱい、いっぱいあったのに。  胸がいっぱいで、何も言葉が出てこないんだ。 「──あれ」  と、その時だった。くらり、と世界が歪んだような気がした。 「存在が揺らぎはじめた。もうすぐね」  その声がしてはじめて、部屋の入口にさくらと忍がいるのに気づいた。なぜか神咲さんまでいて、悲しそうな顔でこっちを見ている。  忍は複雑そうな顔でこっちを見ていた。不思議なことに敵意はもうないように思えた。軽蔑とも憐憫ともつかない、何かよくわからない表情でこっちをじっと見ていた。  いや、どうでもいい。それより今はなのはだ。時間がないのなら|尚更《なおさら》に。  あぁ──視界のあちこちが歪みだす。もう長くはいられそうにない。 「なのは」 「あ、はい!」  ん?なんでいきなり畏まってるんだ? 「……赤い服の親友はいるか?可愛い外国人の女の子だが」 「え」  アリサ・ローウェルのことを聞いてみる。ちょっとぼかしてだが。 「……フィアッセのこと?」 「違う。もっとずっと歳下で学校は違う。そしてその子は、久遠が何者かも知ってる」 「……いないよ?」  不思議そうになのはは言う。みると、ツインテールの片方がちょっと崩れている。  俺はその髪を直してやろうと手を伸ばした。 「あ」  ちょっと怯える子猫のように、ぴくんとなのはの身体が揺れた。だけど抵抗もなにもなかった。  反応のひとつひとつまでいちいち愛らしい。あぁ、なんて可愛いんだ。    どうして俺は、高町恭也じゃないんだろう?    どうして俺は、この子のお兄ちゃんになれないんだろう?    もし俺が恭也なら、恭也よりほんのちょっとだけ、でもたくさんの時間をなのはのために使ってやるのに。    もし俺が恭也なら、この子のためになんでもしてやれるのに。    もし俺が恭也なら、この子を片時だって泣かせておかないのに。    こんなにも──こんなにも愛しいのに。    ──神さまって奴は、どうしてこうも残酷で理不尽なんだろうか?    ああ……胸が痛い。    「うむ、こんなものか」  我ながら不細工にしかできない。俺は恭也じゃないから。  でも、さっきより少しはましだろう。 「なのは」 「……なあに?おにーちゃん?」  きょとんと首をかしげるなのは。  きっとこの子は何も知らされてない。「今ちょっと恭也が変なのよ」くらいのことしかきっと知らされてない。中身が別人だなんてことまではきっと教えられていない。さくらや忍がそんな真似をするとは思えないから。  だからあくまで、俺も恭也として接したほうがいいだろう。  俺は椅子から立ち、そしてなのはの目線までしゃがみこんだ。  眼前でみると、さらにうっとりするほどなのはは可愛かった。小さな身体は子供そのもので、その幼児体型を白い制服がすっぽりと包んでいる。成長してもあまり大きくならないはずの胸元も、近い未来に「リリカルまじかる」なんてしゃべる事になるだろう薄い愛らしい唇も、今は何も知らず未来の可能性だけを秘めている。  抱きしめたくなる気持ちを必死におさえて、俺は語りかけた。 「一度しか言わない。そしてたぶん今この時のことを俺は忘れてしまうと思う。だからなのは、よく聞いてくれ」 「おにーちゃん……わけがわからないんだけど」  困ったように笑うなのはに、わからなくていいと俺も苦笑いした。 「近い未来に、おまえは色々な経験をすることになる。楽しいこと苦しいこと、そして悲しいこと。愛しさに胸がつまるようなこともあるかもしれない。そんなたくさんのことがやってくる。おまえがどう避けようとそれは必ず。  だけど、立ち止まっちゃいけない。  おまえは俺と違う。きっと誰よりも幸せになれる。だからいつも前を見ていろ、決して足踏みしたり後ろを見ちゃいけない。  これでもかというくらいに幸せになれ。兄が焼き餅を焼くくらいに、レンや晶が苦笑いするくらいに。そして、フィアッセやかーさんが祝福してくれるくらいに。  ……いいな、なのは」 「うん……わかった、おにーちゃん」  どこか神妙な顔でなのはは答えた。 「でも、おにーちゃんも忍さんと仲なおりして。忍さんすごい怒ってるよ?」 「それは大丈夫だ。もう少ししたらきっと元通りだからな」 「そうなの?」 「ああ」  俺がいなくなればいい。それだけだ。  そうすれば、戻った恭也に忍がだきつき万事めでたしだろう。心配することは何もない。 「さ、なのは。いきなさい」  俺が消える瞬間にどうなるかはわからない。だけど、きっと俺は倒れることになるだろう。  なのはにそんな光景を見せて、心配させるわけにはいかない。  だけど。 「いや」 「──え?」  俺は耳を疑った。  なのははとてもいい子だ。よほどの事がなきゃ、兄や母、姉たちのいいつけを破るようなことはない。そういう女の子だ。  それが、なぜだか俺の言うことに逆らった。なぜ? 「ねえ、おにーちゃん」  なのはの声が少しブレはじめた。終わりが近いみたいだ。 「今のおにーちゃんは、おにーちゃんじゃないんでしょ?もう少ししたら元のおにーちゃんに戻ってなにもかも忘れてるって、さくらさんが言ってたけど」 「ああ、そうだが?」  何を言いたいんだ?  なのはは俺の顔をじっと見たまま、 「さくらさん忍さん那美さん、ごめん、みんなでてってほしい」  どういうわけか皆を追い出しにかかった。でも。 「ダメ。桃子さんたちに無理いってなのちゃん連れてきたんだから。今のこいつとふたりっきりにするなんてできないよ」  当然の反論を忍がしてきた。でも、 「忍さん」  なのはは振り向き、忍の顔を見た。 「!」  俺からはなのはの顔が見えない。どんな顔をして彼女たちの方を見ているのかはわからない。  だが皆、一様に驚いた顔をして……そして、 「忍」 「さ、さくら、でも!」 「……」  さくらが忍に何かいって、そして忍は渋々顔で、  ……そして、みんな出ていってしまった。 「……なのは?」  みんな出ていったのを確認すると、はぁ、とためいきをついてなのははこっちを見た。 「えっへへへ」 「えっへへへじゃない。どうしたんだ?」  ちょっと苦笑い風に、でもにこにこ笑うなのは。  その笑いはどこか歳相応のようで、そうでもなさげな空気をまとっている。 「……なのは?」 「あのね、おにーちゃん」  にっこりとなのはは笑った。笑ったかと思うと、 「!」  ひし、と俺の身体にだきついた。  柔かい身体だった。こんな子供でもすでに女の子として発育をはじめているのか、どこか柔らかでフワフワした身体でもあった。  女のものではない、ひなたの匂いがした。 「ど、どうしたんだ?なのは?」  沸き上がる愛しさに逆らうように、俺は言葉を紡いだ。  えっへへへ、となのはは俺の胸に顔をうずめたまま笑った。 「おにーちゃん、優しいけどベタベタ甘えたら怒るんだもん。  でも、今のおにーちゃんはそうじゃないよね?」 「……あぁ」  そう答えるしかなかった。  そうか。そうだよな。  この子はまだ甘えたい年頃なんだ。なのに母親も姉も、そして姉的存在たちもいつも忙しい。みんな優しい存在ばかりだが、べたべたと無条件に甘えさせてくれる存在だけは、高町の家には存在しない。時間がないから仕方のないことだが。  そして、唯一甘えられるはずの兄は溺愛系だが嘘吐きでひねくれ者ときた。本当なら溺愛したいほどにこの子が可愛いのに、わざとそっけなく相対する。この子もそれがわからないほどに子供ではないから、それを好ましく思ってもいる。  だけど、ただ甘えたい時だってあるだろう。 「なのは」 「ん?」  もう風景もぐらつきはじめている。時間がない。 「もうすぐらしい。最後にしてほしいことはあるか?」 「……」  なのはは何も言わずに俺の胸に、ごろごろと胸をうずめた。 「おにーちゃん」 「ん?」 「──だいすき」 「……あぁ、俺もだ」  いかん。また涙がこぼれた。  わかってる。この子が大好きと言ってるのは俺じゃない。高町恭也だ。俺は単に当て馬であって、なのはは俺の立場すらわかっちゃいない。ただ俺が甘えられる状態にあると気づいて、普段できないことをしているにすぎないんだ。恥ずかしいからと忍たちを追い出してまで。  あぁ──なのに魂が震える。愛しい、愛しいよと行き場のない心が泣いている。  俺の愛しい小さい女神。決して届かない夢の化身。君はなんて愛らしくて……そしてなんて残酷なのか。 「……」  何も見えなくなってきた。視界の全てが白に染まっていく。 『おにーちゃ……き、きょう、や、』 『わ、な、ななななのはちゃん!何やって……』  エコーがかかったような声で、なぜかどもっているなのはの声がする。それを非難する誰かの声。  わけがわからない。  ──唇に何か触れた感触。  それが俺の、最後の感覚になった。 [#改ページ] エピローグ(Real)[#「 エピローグ(Real)」は中見出し]  目覚めた時、そこはいつものパソコンの前だった。 「……寝てたのか」  ものすごく変な夢を見た気がする。  夢の中で海鳴に行った気がする。そこでとても幸せな、そして悲しいことがあったような気がする。 「わけわかんねー……つか現実に夢オチなんてありかよ」  しみじみとひとりごとを吐いた。  目の前にはパソコンのデスクトップがある。画面を飾る主義でない俺のそれはとても無機質で、退屈なデスクトップだといつも言われる。  ひとり。町のボロアパート。ごみごみした世界。  あの海鳴とはまったく違う現実の世界だった。 「腹へったな。何か食うか」  買い置きも食材もない。今日は外食にしよう。  本来なら出勤する時間だけど、なぜか今日は休みたいと思った。心のどこかが激しく疲労を訴えていて、とてもじゃないが仕事になりそうな精神状態とはいえなかった。  そんなしみったれた気分は……何年ぶりだろうか。  はぁ、と、ためいきをついた。  山になったSPAMメールと醒めたコーヒー。それだけが俺の目の前に鎮座していた。  ふと横の壁をみる。 「……」  そこには、どこかで貰った『りりかるなのは』のポスターがある。俺の好きな初代の奴だ。幼い、だけど本編より少しだけ成長したなのはが笑顔をふりまいている。 「……」  涙がなぜか、ぽろりとこぼれた。  窓の外は雨上がりなのか、星空がきれいに見えていた。 [#改ページ] エピローグ(Uminari)[#「 エピローグ(Uminari)」は中見出し]  そこは、どこにもないどこかの遠い町。夜のアットホームな団欒の場。  あふれんばかりの料理。料理自慢のふたりの娘が手によりをかけた傑作の数々だ。この家唯一の男で皆の好意を一心にうける『もうひとりの中心人物』が少し体調をくずし、それが回復したことを記念するものだった。  で、どういうわけかプンスカ怒っている母親。 「もう、病院にいくなら行くってちゃんと言いなさい恭也。忍ちゃんがみつけてくれたからよかったようなものの、そのまま海浜公園で行き倒れてたらどうするつもりなのよもう!」 「|面目《めんぼく》ない」 「面目ないじゃないでしょ!ちょっと反省なさい!」 「あのー桃子さん、も、もういいんじゃないでしょうか?恭也も反省してるみたいですし」  なにげに混じっている忍が、珍しく困ったようにとりなしている。 「ま、まぁ、おししょーが倒れるなんて普通ありえないことですし」 「だよな。倒れるどころか風邪ひいたとこすら見たことないし」 「そうだよかーさん。それに責任は私にもあるよ。朝、恭ちゃんの調子がおかしいのに気づいてたのに病院いけって言ってなかったんだし」 「だよねー。恭也、病院大嫌いだもの。  海浜公園にいたのだってきっと、いかなくゃ、でも行きたくないってきっと思ってたからなんだろうし」 「くー」  住人たちの弁護に、ま、それもそうねと母は気をとりなおす。 「ま、今は食べなさい。しっかり食べてしっかり寝て、ちゃんと元気になるのよ恭也、わかった?」 「──了解した」  微妙に変な恭也の返答に、皆は口々にクスクス笑った。──ひとりだけを除いて。 「あれ?なのちゃんどうしたの?」 「んー、もうおなかいっぱい。ごちそうさま」 「なのはどうしたの?体調悪いの?」 「なんでもないの……心配ないよ」 「そう?具合悪かったらすぐ誰かに言うのよ?お母さんじゃなくても他の誰でも」 「うん」  なのははにっこりと笑った。皆もちょっと心配ながらに微笑んだ。 「……」  だけど忍だけは、ちょっと複雑な顔でなのはを見ていた。    なのはは縁側に座っていた。  周囲はもう夜で、空には星がきらめいていた。なのはは星空をただ静かに、じっと眺めていた。 「……」  そして、ぼそっとつぶやいた。 「思い出をたどる方法はくーちゃんだけじゃないんだよ、おにーちゃん」  小さく紡がれたその声は、どこかなのはの外見よりも大人びている。 「ここは現実だよ、おにーちゃん。  おにーちゃんにとってみたら夢の世界だったかもしれないけど、だけど違う。だから、何もかもおにーちゃんの知ってる通りってわけじゃないんだよ?」  くすくすと笑うなのは。その穏やかな笑顔はどこか危険なものすら秘めているように見える。 「……」 「なのは」 「あ、おにーちゃん」  ふと気づくと、兄が廊下の奥からこっちを見ている。 「何か物音がしなかったか?誰かきたのか?」 「ううん、誰もこないよ?なのはのひとりごと」 「……そうか」  いまいち納得いかない、という顔をして恭也はつぶやいた。 「それよりどうしたの?」 「いやそれがな……忍はなぜだかおかんむりだし美由希たちは今日の訓練は中止と言ってきかないし……正直わけがわからん。  だいたい俺は今日いちにち、何やってたんだろうな?情けない話だが全然覚えてないときた」  ふう、とためいきをつく恭也。 「くすくす……おにーちゃんらしくないね」 「まったくだ」  はぁ、と情けなさげにためいきをつく恭也に、なのははにっこり笑った。 「ねえおにーちゃん、お風呂はまだ?」 「ん?あぁまだだ。なのは、入るなら先入っていいぞ」  しかしなのはは、そんな恭也の言葉に首をふった。 「ねえおにーちゃん、いっしょに入ろうよー」 「……は?」  恭也は一瞬、何をいわれたのかわからないようだった。 「なのは……おまえはもうそんな歳じゃない」 「えーそんなの関係ないよー。だってきょうだいだし」  ちょっとだけ恭也に近付き、かわいく上目使いに見あげるなのは。 「……だめだ」 「え──?」 「……その」 「……」  うるうると涙目をしてみせる、なのは。 「……わかった」 「やったぁ!」  子供らしく兄にとびつき喜ぶなのは。やれやれとためいきをつく恭也。  なんだかんだいって恭也はこの末妹には甘い。かなり甘い。  だがなのはは、自分の目指す『理想の優しい兄』にはまだ恭也が少しだけツンデレすぎると感じてもいる。  そして実際、こっそり盗み見た忍とのラブシーンでは、なのはが見たこともないくらいに甘かった。  ようするに高町恭也という人物は、異性として好きな相手にはベタ甘になる人物らしい。 「……あんな風になりたいなぁ」 「ん?何かいったか?なのは」 「ううん、なんでもないよおにーちゃん!」 「?」  あと数秒もすると忍がやってくるのだろう。一緒に風呂なんかダメダメ!とか言いながら代わりに自分が入ろうとして恭也にたしなめられるに違いない。 「さ、いこいこお兄ちゃん!」 「ああ」  歩きだすなのはの胸元が一瞬だけ、ずれた。    そこにはこの時間のなのはが持つはずのない、赤い宝石が静かに輝いていた。     (おわり) [#改ページ] あとがき[#「 あとがき」は中見出し]  いわゆる体験ものってやつでしょうか?この手のは初体験なのでよくわかりません。ジャンル名間違ってたらごめんなさい。  つか、むしろ少女愛小説めいてる部分が少し。  キモかったらごめんなさい。実は精神的少女愛って好きなテーマなんですが、ひたすら少女を謡いあげると性犯罪者よばわり間違いなしの世の中ですから。    以下、とらハ関連オリジナル設定   『高町なのはを巡る状況』  忍シナリオと並行してイデアシード事件発生。これによりとらハ本編とはいくつかのシチュエーションがずれてしまっている。  久遠は餌付け直後になのはと共闘することになる。また様々な要因、特になのはの魔法使いとしての基礎構築時に久遠事件と関わってしまった事が影響してなのはの魔力等がPC版より高く、結果としてレイジングハートは壊れずに残ることになり、しかし代償としてクロノと恋人モードにはならなかった。  祟りの封滅はなのは・那美混成軍で行われたが、レイジングハートの影響で封印が早く解けてしまったため、薫はそれに関わっていない。  またこの事件により、那美はなのはの秘密を知っている。  イデアシード事件のレイジングハートはアニメと違い願望器タイプのアイテムだが、なのはと共にあるうちに、アニメでそうであったように願望器型としての進歩を重ねていく。なのは自身にもそれは現れていて、この世界のなのははアニメの砲撃タイプでなく、むしろ魔女のイメージに近い能力を磨き続けている。   『ノエルと本編ストーリーについて』  まだ壊れてません。これは忍ルートの途中だからなのですが、同時にこれは「忍が恭也を探しにきた」事実と矛盾します。忍ルートでは忍には危険が迫っており、名前呼び捨て状況だとふたりは定時連絡をとっているはずで、忍は恭也に単独外出を規制されているはず。  この理由は簡単で、朝の定時連絡を恭也がしていない(厳密には、中のひとである主人公はそれを知らない)から。しかも電話かけても出ない(主人公は時計しか持って出ていない)から。胸騒ぎがした忍はノエルに戦闘用の警戒をさせつつ出てきた、という次第。  また、イデアシード事件が同時に起きていてそれが月村安次郎の行動にも影響を及ぼしている。実行部隊の一部がイデアシードに巻き込まれたため、イベントの進行が遅れている模様。    以下、とらハと無関係な引用。   『ナボコフ』『ハンバート』『アナベル』『ロリータ』  ロリータ・コンプレックスの語源である小説『ロリータ』の原作者、ウラジミール・ナボコフ。ハンバートは主人公の名、アナベルは主人公が幼少時代に愛し合った少女で、ロリータは彼を後に破滅させた少女の名です。