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外に出るまで

 さて、さっそくだが外に出なくてはならない。
 こうなると変な時間なのはむしろ好都合だろう。家人は皆まだ眠っているし、起きたところでちょっと外出と言えばすむに違いない。深夜と違ってもう早朝に近いから、おそらくごまかしようはある。
 さて、と服を選ぼうとして少し悩んだ。
 中性的なジーンズにしようと思ったのだ。ワンピースとカーディガンとシンプルにまとめる手もあったんだが、自分の姿なんて行動中は見えないわけで、股間がスースーする恰好は正直ごめんだと思った。
 だったのだが。
「……」
 ぎゅう、と締め付けるような超のつくスリム。行動が制限されるというほどではないが、やはり少し窮屈。
 どれ、と姿見に向かってみる。
「……これはダメだな」
 スカートはエロい、パンツルックだとエロくないだろうと迂闊にも思った俺だったが、もちろんそれは単に俺の人生経験が足りないだけだと速攻気づかされた。いやもう本当に。
 つーかエロい。エロすぎる。
 何より下半身の体型がモロである。思春期の性少年にとっちゃポーズ次第じゃ全裸よりやばい。これはさすがに却下だろう。股間のもりあがりまで何となくわかるに至っては自分の股間で興奮しそうになり、次の瞬間そのキモさに吐き気がするという非常に情けない経験までしてしまった。畜生なんでこんな目にあうんだハルヒのバカヤロめ。帰ったら絶対とっちめてやる。
 だが、ふとワンピースに目をやったところでちょっと考えを変えた。
 細かい横縞の入った無彩色のニットのワンピース。ワンピというより長めのVネックだが、これだとパンツルックの腰まで隠れる事になる。これと一番ゆるくて黒っぽいジーンズと組み合わせるとちょうどよくないか?
 さっそく試してみる。よし、まぁいいだろう。
 できれば化粧などもしたいところだが情けない話俺にはよくわからないから省略。まるで子供のようなサイズにめまいを覚えつつも靴下までしっかり履くと、今度はドレッサーに向かう。俺の方の記憶だと書架のあるところだがここがドレッサーになっていて、書架はベッドサイドに移動している。ふむ、こういうところはやっぱり少しずつ違うんだな。
 とりあえずあまり時間がない。ブラシと櫛を駆使しておおざっぱではあるが髪を整える。ここでこの手順を省略すると綺麗にまとまらなくてむしろ大変だからな。面倒なことこのうえないが、それでもおそらくこっちの俺は切るつもりがないんだろうな、なんて事を考えたりもする。
 よしできた。ポニーテール完成だ。
 さて、と時計を見たらもうやばい。携帯とお金を持つと速攻で部屋を出た。抜き足差し足で家の中を通過し、玄関にさっくり到達する。
 追撃者の気配なし。みんなおやすみ中。説明の手間が省けてホッとする。
 一目で自分のだとわかったが同時に脱力しそうになったお子様サイズのスニーカーを履くと、口だけで「いってきます」と皆に挨拶をするとゆっくりドアをあけた。で、静かにまた閉める。
 んでもって門の外に目をやった俺だがその瞬間、真っ黒い影がそこにいて思わず悲鳴をあげそうになった。
「……」
「……」
 てか、そのデカい影はなんと長門だった。
 もうだいぶ周囲も明るく、長門の顔もよく見えた。男子制服を着ている。今の俺が小さいので異様にバカでかく見えるが、おそらく男の俺とそう大きくは変わるまい。逆に俺が長門くらいしかないから、両者の身長が入れ替わったと思えばいい。
 だが…………なんというテライケメン。
 元々長門はかなりの美少女だった。それも一般的には高嶺の花に属するようなタイプだったりする。俺は色々とありすぎてそれほどには思ってないんだが、それでも可愛いという言葉を割り当てるなら、朝比奈さんとは対極の意味で美少女に属するとして間違いなく長門を推薦したろうほどには彼女は美少女だったのだ。
 それが増幅されていた。とんでもなく。
 男となる事で中性的な美をさらに増幅させたせいだろう、まるでギリシャ彫刻の美少年のようになっちまっていた。むきむきかどうかは知らないが筋肉もそれなりにあるのが制服ごしにもわかるほどで、ますます彫刻じみている。そのまま立たせて全身の型をとりたくなるほどにいい男だった。いやいや本当にすごい、こいつ本当にあの長門なのか?
 だが、である。俺は別の意味でそれどころではなかった。
 長門が長門であると認識された瞬間、俺の心臓がはっきりわかるほどドクン、と大きく脈うった。きゅっ、と一瞬だが息苦しくなった。
 なんだと驚く間もなく心臓はドクンドクンドクドクドクドクと激しくビートを打ちはじめて、自分の顔が真っ赤になっているだろう事まではっきりとわかった。
 な、なななんだ、なんなんだ?え?え?
「歩ける?」
 そんな俺の状況を知ってか知らずか、この長門(男)は覗き込んでくる。てかやめろ見るな!
「……っ!」
 息苦しい、きつい。なんだこれ、なんなんだこれ!
「落ち着いて」
 長門(男)の声が耳に響いてくる。
「呼吸を整える必要がある。強引だけど少しだけごめん」
 何をする気だと問い返そうとしたその瞬間、俺の意識は強制的に落とされた。



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