夢を見た。
空が燃えていた。大地が赤かった。
無象の死体が転がる世界。死の蔓延した世界だった。
ひとりの少女。ただひとりの生き残り。死にかけた老人のそばにいた。
「──お祖父様、
「いかん。それは──」
だが老人は小さく咳こみ、……そのまま動かなくなった。
「……」
少女は泣かなかった。もう涙も枯れ果てたという顔だった。死んだ老人の手から大きな杖をとると、静かに立ち上がった。
──くる。
闇を照らす炎の中、ビルほどもある巨体に輝く双眸。
光の戦士を自称し、星々の民からも慕われる民族。
その名も『
赤と銀に彩られた特有の戦装束。ただひとりで宇宙戦艦なみの戦闘力をもち、生身で宇宙をも渡る異星の超戦士たち。
調停者、または正義の味方と呼ばれる者たち。
「──許さない」
少女の瞳に、はっきりと憎しみの炎がともった。
「何が正義の味方よ。何が光の使者よ……
この星を、わたしの
みんなみんなみんなみんなみんな、みんな!みんな!!殺したくせに!!!!」
絶叫が響く。応えるのは風の音だけ。
ぎりぎり、と音がする。少女のまわりで憎しみが魔力を帯び、空気が血の赤を帯び始める。
少女は知っている。
好戦的な彼女の民族は、確かに危険視されていた。それは知っている。いくつかの国が最近滅び、それが自分たちの国のせいである事、それも知っていた。
だが、だからといって星ごと滅ぼすのか。
なんの罪もない女子供、一般庶民まで全部道連れに、この星の森羅万象もろとも焼き尽くしたのか。
それが『正義の味方』のやる事なのか。
憧れていたのに。
大好きだったのに。
──信じていたのに!!!
「──『星辰の杖よ』」
ぶるる、と杖が震えた。
『星辰の大神殿に接続、適用範囲無制限。緑の呪文に割くエネルギーも全てこちらに回せ』
杖の振動が大きくなる。だが少女は動じない。
「───絶対、許さない」
この星の全てをもって、あの■■■■■■どもを叩き潰す。
少女はただの少女にすぎない。その身は細く小さく弱い。同年代の男の子にすら抗えない、そんな存在にすぎない。
魔力も弱い。しかも戦闘用の魔術なぞ全く使えない。少女にできるのはたったふたつ。『放出』と『吸収』。ただそれだけだった。
そんな彼女が、光の使者とまで称される宇宙の戦士なぞに勝てるわけがない。
だが。
「──わたしは認めない」
だが『星辰の杖』なら扱える。彼女は駆け出しとはいえ、その星辰の杖の巫女なのだから。
この杖は武器ではない。大きな魔力を流動させるための鍵にすぎない。神殿と組み合わせる事により星の運命(星辰)に干渉し命を育むためのもの。ゆえにその名を『星辰の杖』という。
だが、これを破壊のために使用したなら?
この大地そのものを犠牲にし、星をも砕く莫大なエネルギーを残らず破壊力に変換したなら?
生存者は少女ひとりだけ。巻き込むのは敵だけ。自分も死ぬだろうが、どのみち生き延びる確率は無にも等しい。
そして同族はもういないのだ。ひとり残らず彼らに殺された。
──ならば。
──どうせ死なねばならぬなら。
少女の傍らに死体が転がっていた。
首から上と右手がないそれは、ついさっきまで少女が姉と慕い、先輩と懐いていた存在のものであった。老人と少女をかばい死んだものだ。
少女はそれをちらりと見た。はじめて涙があふれた。
「……こんなものが、こんなものが正義だなんて!」
わたしは認めないと少女は震え、
慟哭とともに杖のまわりの空間が歪む。
エネルギーに気づいたらしい。戦士たちの巨大な目が一斉にこちらを向く。
だがもう遅い。少女は涙を振り払った。
「『
血を吐くかのように紡がれた禁断の起動呪文。復讐の狼煙。
刹那、闇が溢れた。