「……なんなんだ」
なんというか、妙な夢だった。
赤い惑星。死にゆく星にうごめく巨大な戦士たち。戦争により滅びた世界の夢。
──奇妙なことに、敵と思われる連中の姿は、子供の頃テレビで見たあの正義の味方にちょっと似ていた。
いやもちろん、手や目からビームなんて出てなかったし、あれが戦装束だなんて解釈は初耳だ。あれは、ああいうイキモノだったはずだ。
「……」
まぁ外観なぞは瑣末だろう。あれがウルト◯マンじみていたのはたぶん衛宮士郎のイメージだ。理解できない部分を自身の記録で補ったということなんだろう。
本当に奇妙な夢だった。
イメージ自体ははっきりしているのにまるで理解できなかった。まるで宇宙人の記憶。ひとの精神を宇宙人とつないだってその内容は理解できない。意識や記憶の構造自体がまるで違うんだから、どうにも解読のしようがない。聞いたこともない未知の外国語で哲学の講義をされるようなものだ。当然その内容なんて理解できるわけがない。
だが、ひとつだけはっきりわかった事があった。
少女の嘆き。そして怒り。
衛宮士郎があの姿に「ヒーロー」を見たように、あの少女にとっても彼らはヒーローだったんだろう。いつも空を見て憧れていた、そういう存在だったに違いない。
それが裏切られた。
いや違う。きっと彼女たちは切り捨てられたんだ。きっとそうだ。だからこそ彼女は怒った。正義が正義のまま自分たちを滅ぼしにきた。その事こそが許せなかったんだ。
正直、きつかった。
それはなんだか、
──正義の味方が助けられるのは、味方した者だけ。
確かにそれはその通りかもしれない。少女だって頭ではわかっていたに違いない。そんな事はできはしないのだと。
だがそれでも許せなかった。それだけだ。自分たちが切り捨てられる側になり、はじめて少女はその歪さに本当の意味で気づいた。そういう事なんだろう。
「……」
まるで、それは俺だ。
今の俺には正義の味方なんて遠い彼方の事にすぎない。そして切嗣も言ってたように、皆を助けるなんてことはできはしないんだ。
だけど。
だけど、それでも俺は認められない。
俺が衛宮士郎である限り、それだけは認めることができない。俺は切嗣の夢を継ぐ。そう決めたのだから。
だからだろう。俺が少女の慟哭を理解できたのは。
「……なんてね」
結局それは夢だ。ずいぶんとリアルだったが夢は夢。
だけどその少女の慟哭は、俺の胸の奥にしっかりと刻み込まれた。
そして、運命の夜が訪れた。