[目次][戻る]

結話

 小さな端末の向こうには、凄まじいまでの光景が広がっていた。
 突如、どこからともなく現れた化け物たち。世界はそれまでの平和を失った。なすすべもなく人類は敗退する。なにより敵の正体すらわからないんだ。次々と訪れる厄介なやつらに対抗する術ももたず、じりじりと追いつめられていった。
(綾香!)
(わかってる、行くわよ浩之!)
(ああ!)
 そんな中、「俺」たちは戦っていた。
 不慣れなはずの身体で、あいつは綾香と同様に戦っていた。セリオやマルチと共同戦線をはり、他の友人たちともうまく連係をとっていた。化け物たちを街から叩きだし、おそろしい世の中にあって、確実に秩序を維持しようと奮戦していた。
 …確かに、こんな真似は俺にゃできないだろう。くやしいが。
 奴は、おそろしいまでに戦術にも、戦略にも長けていた。持ち前の行動力と芹香・綾香たちの協力で警察や機動隊なんかとも渡りをつけ、俺達の街を、ひいては俺たちの世界を守るために文字通り奮戦していたんだ。生命をかけて。俺にはたぶんできない、歴戦の、本物のヒーローの顔で。
「…」
「…」
 俺たちはため息をつき、小さな端末の電源を落とした。

「ひろみちゃん。もうこっちには慣れた?」
「ひろみじゃねえ。浩之だ俺は。言っただろあかり?」
「うん、だから慣れた?ひろみちゃん?」
「だぁぁぁ、聞いてやしねえし」
「???」
 まったく、ひとっっっつも以前と変わりゃしねえぞあかりのやつ。中身は別人だって本当にわかってんのかこいつ?
「だって、ひろみちゃんでも浩之ちゃんでも一緒だよ。見てればそんな事わかるし」
「…あぁ?」
「あの日だってね、何かあったのかな、とは思ったよ?でも、ひろみちゃんはひろみちゃんって思ったの。だってそうでしょ?」
「…なに?」
「?」
「じゃ、じゃあおまえ、てことはあの日の朝もう気づいて…」
「ううんまさか。でもね、寝相も寝言も違うし、だいたいひろみちゃんは寝坊なんてしないもの。あれ?って感じ。まぁきっと、来栖川さん絡みなんだろうなって思ったけど」
「…」
「なに?ひろみちゃん?」
「…凄いなおまえは」
「??」
 …やっぱり、あかりはあかり、か。あっちでも藤田浩之研究家なんて自称してやがったけど、こっちでも同様ってわけか?
 朝の光の中、俺とあかりは歩いていた。
 帰れなくなった俺は、藤田ひろみという女の子として生きるしかなかった。俺は考えた末、あかりたちには全ての事情を話す事にしたんだ。ごく親しい友人たち、それと幼なじみには、俺が俺でない事をきちんと話さなきゃならねえ。だって俺はひろみじゃないから。騙し続けるのは嫌だったから。
 当然、芹香以外の全員が離れてしまう事も覚悟していた……だが。
「ひろみちゃん。スカートなんだから、そんな大股で歩いちゃダメ」
「!あ、そ、そっか。すまん」
「私を誘惑する気なら止めないけどね。でも、「ひろみちゃん」にはその気はないんでしょ?」
「あぁ、そうだ…ごめんな、あかり」
「ふふ、いいよ。だって、ひろみちゃんだもの」
 なんだか以前より、さらに親しくなったのは気のせいなんだろうか?
「やっほーあかり。ひろみもおはよー!」
「お、出たな東スポ女」
「女じゃない!!だいたいトースポって何よトースポって!」
「あ、悪(わり)ぃ、ふたなり志保。今日もちんこでかいな」
「ば、ばばばばばかっ!!変な仇名つけないでよ!!浸透しちゃったらどうすんのよ!!」
「わはは」
 ちなみに、スポーツ新聞がこっちの世界にはない。人口が少ないせいだろう。俺の世界にあった新聞のうち、朝◯や各種スポーツ新聞は軒並みこっちには存在しなかった…まぁ、時流に便乗して煽るだけの万年三流新聞社や三文記事で食ってるスポーツ紙が生き延びられるほど、この世の中には余裕がないってことだ。
 驚いた事にコンビニすらなかった。ヤックも、あっちにあったようなハイテク装備のゲーセンもない。このあたりは俺としちゃ少々ショックだった。だが考えてみればあたりまえだ。そういう商売はひととモノが溢れてないと成り立たない。技術が遅れているわけではない。実際、パソコンを見てればそれはわかる。俺の世界に比べると多少遅れてはいるが、それは市場での競争原理って奴が向こうより弱いだけにすぎない。実際、既にネット接続はできて情報の流れは俺の世界同様にグローバル化してるようだ。仔細はあるが、こういう点はなんら変わりはしない。
 つまり、要は社会があっちのような娯楽や便利モノを求めるに至っていない、という事なんだろう。ある意味こっちの方が健全かもしれない。ネットカフェで何度となくエロサイトの大群に悩まされた記憶のある俺はそう思う。どうにも地味だが基本は押さえられてる。そして、平和なんだここは。
 画像がぶんぶん回る装飾過多な世界はないが、そんなもの些末にすぎない。そして、用は足りてるし進歩自体も弛みはない。だったら問題ねえだろ。
「浩之、おはよう」
「おはよう雅史。いいけど、浩之はねえだろ浩之は。ひろみだっつーの俺は」
「いや〜。だって、ヒロユキって語感がよくて。」
「いいも悪いもねーよ。勝手に名前を改竄すんな」
「え〜。だってあっちじゃ、浩之だったんでしょ?」
「けじめだケジメ。そういうとこはちゃんとしないとな。」
 だいたいそれ言うなら、おまえだってオカマ雅史じゃねえかよ。はじめて逢った時、「オカマサシ」っとて呼んだら怒りやがったくせによぉ。
 それにしてもこいつ、女の制服異和感ないな。他の男連中なんてまるっきり別人で最初誰が誰かもわかんなかったっていうのに、なんでこいつだけ元の世界とほとんど変わらねえんだ?
 まさかとは思うが、こいつだけ元の世界でも女だった、なんて事はないよな?
「へぇ、真面目だね浩之。そういうとこ、変わらないんだ」
「まだ言うかよこいつ」
「あはは」
 こいつら、ほんとにわかってんのかね。俺という存在について。

 学校についた。
「お?下駄の奴がいる。渋いなおい」
「あ、今日雨だって言ってたよ。それでじゃないかな?」
「にしてもまぁ…長靴にすりゃいいのに。」
「でも長靴って高いし。」
「へ?……あぁそうか。そうだな。」
 これも、人口が少ないせいだ。
 石油の流通量が少ない。だから石油製品も少ない。単純な理屈だ。代わりに森林は今も多く、この狭い日本にさえまだ原生林が広大に残っている。当然、長靴の代わりに高下駄、洋傘の代わりに蛇の目傘っていう、俺の世界じゃほとんど絶滅した風景もまだ健在だ。
 ちなみに長靴も洋傘も高価だが、それがカッコイイという文化も存在しない。この国は西洋至上主義とは無縁。うむ、健全でよろしい。寂しい気もしないじゃないが俺的にはオールオッケーだ。
「そういや、舗装が少ないな。ちょっと不思議だ。」
「舗装?街の中はしてるじゃない?」
「いやそうじゃなくて、郊外っていうか。護岸工事もされてねえし」
 やっぱ、そこまでして公共事業とやらを進める必要がないって事か?
「ゴガンコウジってなに?ひろみ、時々わかんない事言うわね」
「…ひろみ語?」
「だぁぁぁぁ、勝手に新語にすんなっ!!」
 昨日も、ドタキャンが通じなくて説明に苦労したんだ。そのうち変人扱いされるぞ俺。電波を受信してるとか、スーパーエリートソルジャーとか。
 …う、いかん。今一瞬、ほんとに電波受信したみてーだ。
「藤田さん。おはよ」
「お、いいんちょ。相変わらずきちんとしてるな。ほっとするぜ」
「…藤田「くん」が言うと嫌味に聞こえるんが、なんか不思議やな…」
「他意はねえんだ。悪ぃな」
「…あ、ええわ。けどな」
「?」
 下駄箱から上履きを取りだしつつ、委員長はニヤリと笑った。
「その言葉遣い…かわいくないと自分で思わへんか?」
「!!」
「あ、保科さんもやっぱそう思う?うんうん、そうよね〜」
「こら、したり顔で同意すんな志保!!」
「私も思う。でもひろみちゃん、個性の範囲だって言って直そうとしないんだよ。」
「ふうん。神岸はんにも迷惑かけてんのやな。そりゃよくないなぁ。」
 フフン、と不敵に笑う委員長…。むう、なんか企んでるぞこれ絶対。
「女らしくせぇ、なんて言うつもりはないけどな。何とかせんとそのうち地獄見るで、「藤田さん」?」
「あぁ?」
「『藤田ひろみ矯正委員会』って知ってるか?藤田さん?」
「…知らん。なんだその物騒な名前は」
「あんたを女らしくしようって連中のことや。元々は、次々メニール落としてハーレム作ってたあんたを矯正したかったらしいんやけど、あんた自分で「俺の相手は芹香だ」って宣言したやろ?」
「うんうん、あれ、カッコよかったよね〜。女の子の科白じゃないけど」
「ほっとけ。で?」
 横からチャチャ入れする志保にとりあえず突っ込み、俺は委員長に続きを促した。
「けどな。ハーレムせんようなった言うても、ひろみちゃんが浩之くんになった言うても、やっぱりあんたは目立ちまくりなんや、これが」
「…なんでだよ。俺、目立たないようにしてるぞ?」
 以前の藤田ひろみは喧嘩上等のトンデモ女だったらしいからな。…まぁ、無理もないって後でわかったんだが。だからとりあえず俺は、派手な事やらかして目立つ事だけは頑として避け続けていた。
 …だが。
「…どの口が言うとるんやろうな。西音寺で不良軍団相手に大立回りやらかしといて」
「!げっ!な、なんでそれ知ってんだよっ!!」
 西音寺というのは綾香の通ってる学校のことだ。当然だが男のいないここじゃ、寺女(てらじょ)という通称はない。
「こっちには長岡さんって情報源があるんや。まぁ話半分やけど、更に生徒会経由で先生方の話も聞けるしな。あながち馬鹿にしたもんやないんやで?」
「…ぐ。だ、だってよぉ。あいつら、下級生相手に徒党組んで」
「はいはい。そのあたりの事情も聞いたわ。せやから先生方も不問にしたらしいしな。なにより1対20で大勝、やろ?あんたが規格外なのを先生方も自覚したんとちゃう?」
「あのなぁ…ひとを化け物みたいに」
「ふふ、悪く聞こえたら謝るわ、ごめんな藤田さん」
「…」
 さっきの報復かい。まったくよぉ。
「とにかく、そんなこんなもあってな。はっきりいってあんた、以前の藤田ひろみ以上に目立ってるんや。彼女は私生活の自堕落さと格闘技の強さで有名やったけど、そんな派手なトラブルは滅多に起こさへんかったし巧みに裏舞台に隠れる器用さもあったしな……まぁ、今にしてみれば当然なんやろけど。」
「…?」
「わからへんか?…ま、それもええやろ」
 委員長は目を優しげに細めた。
「とにかく、気ぃつけなあかんよ藤田さん。あんたがあんたでおりたいんやったらな」
「…それって、いきなり夜道で襲われるとかそういう事か?」
「あほ。んな無謀な輩が今さらおるかいな。うちが注意しろ言うんは別の事や」
「?」
「賭けてもええで。今後、あんたが何か失敗したり弱み見せてみ?何かにつけて「女らしく」をたぶん要求させる事になると思う。…そんなんは嫌やろ?」
「…マジか?」
「マジや。それも大マジ」
「……」
 か、勘弁してくれ(泣)。
「知ってるか藤田さん?うちの学校、文化祭は初冬にやるんやで?」
「え?」
「楽しみやなぁ。劇のヒロインか?それとも茶店(サテン)のウエイトレスか?」
「!!!」
「『いらっしゃいませぇ〜♪』とか、鼻にかかった、かわいらし〜声でおじぎする藤田さん……あぁ、なんか萌えるわ。うん、これは絶対に提案やな!うんうん」
「……」
 …想像してみた。

「いらっしゃいませ〜」
「おぅ、可愛い姉ちゃん。邪魔するぜ」
「きゃっ!な、何されるんですかっ!」
「へへへ」
「そ、それよりご注文を。何になさいますか?」
「…おまえ」
「はい?」
「いや、おまえ。へへへ、かわいがってや…(ゲシゲシゲシッ!!)」
「ぐはぁー」
「お、おととい来やがれ変態野郎っ!!」
「「「……あ、あの〜」」」
「あ、はい。あぁごめんなさい。いらっしゃいませぇ〜♪」
「「「きゃ〜〜〜♪♪♪」」」
「……はい?」
「「「かわいいかわいい、いや〜ん♪♪♪♪♪♪」」」
「あ、あの………ご、ご注文は?」
「「「ひろみちゃんくださ〜い♪♪♪きゃー♪♪♪♪♪♪」」」
「………あ、あは、あはははは……は…は……」

「……」
 嫌すぎる。超嫌すぎる。激嫌すぎる。絶っっっ対嫌すぎるっ!!!
「…うち今、あんたがどんなアホな想像したか見えたような気がするわ」
 こ、こら、こらこらこらっ!!!
「ま、どのみち絶対、綺麗どころやらされるで藤田さん。今年は来栖川本家からも予算が出るって話あるしな」
 げ、マジかよ!?
「ま、まさか冗談だろ?初冬ったら俺たちゃ受験まっただ中じゃねえか!」
「何言うとんの?来栖川さんの家庭教師で成績めっちゃ上がったやんか、藤田さん?確かに受験組は大変やけど、その分確定組にお鉢が回るって事なんよ?」
「!!て、てめえ、なんでそれ知って…」
 確かにあがった。あがったけど、それは芹香に圧力かけてもらって秘密にしてあるはずだ。…目立つの嫌なんでな、実際。
 成績が上がっただけでも、変な噂もたちゃ逆怨みも買う。そんな事心配しなきゃならねえほど、俺の成績は急速に上がっちまってた。
「あほ。んな姑息な真似して隠しても無駄に決まってるやん。既に大学も推薦決まってるそうやな?学校じゃ公然の秘密ってことで皆知ってるんやで?」
「…なんでだよ…俺は」
「だからこそ「公然の秘密」なんや。あんたが平穏に過ごしたい事は皆も知ってる。それが空回りしてる事もふくめて、やけどな。」
「……」
「あぁ、念のために言い添えるとやな。どうやらあんたの世界じゃ受験はえらい大事らしいけどこっちじゃそうでもないんや。入学テストが悪うても高校の成績がちゃんとしてれば合格できる。大学っていうのは、むしろ入ってからが大変なんやで?」
「……」
「さ、いこや藤田さん。授業遅れるで?」
 ……ああ。

 静まりかえった授業。一番後ろの席で、俺はじっと考える。
 まるで女子校のような光景が広がっている。なにせ学ランがひとりもいねえ。全員が女の制服。まぁ半数がメニールなわけだが、外見上は変わらないわけでこう並んでいるとまるで異和感がない。むしろ、男のはずが女になってる連中の方が、雅史をのぞく全員、見知らぬ他人という状態だった。
「……」
 自宅で覗いた机の中を、俺は思い出していた。
 
 そこにあったのは、階級章や勲章のついた軍服らしきもの。それに、古ぼけたいくつかの機械だった。
 芹香が、セリオを呼び出して解析させようと言ったが俺はそれを止めた。それが何であるかわかっちまったからだ。それが何を意味するか、理解しちまったからだ。
 …ワールドタイムゲート開閉端末。
 …超硬度カトラス(小剣)。携帯用ライフル。
 勲章は…これは、撃墜数や特別ミッションで得たものばかりだ。
 見た事もないものばかり。なのに俺は…正確にはこの「藤田ひろみ」に残された記憶のかけらが、それが何であるかを物語っていて、すぐそれを理解できた。
「…あいつ、もともと別の世界から来た奴だったんだ」
 日本軍を意味すると思える刺繍が、胸のところにあった。
 あいつ、軍人だったんだ。それもたぶん、ゾッとするほどに優秀な。
 小剣は当然、まだ使える。だが、手入れをしていないとは思えないくらいに見事な輝きをもっている。おそらく、信じられないほどよく切れ、しかも強靭なんだろう。もともと二本あったらしいが、一本欠けている。どれだけの血を吸っているのか…。
 ライフルは、エネルギーがほとんどない。威力は凄いようだが補充が利かないんじゃあと数発しか撃てまい。解析すれば補充する手はあるだろうが、今の俺じゃどうしようもないだろう…使い途もないと思うが。
 端末は…ダメだ、完全に破壊されてる。ていうか元々、ゲートを越える際に利用者を守る防壁の役割をし、最後に自壊してしまうものらしい。つまりは使い棄てってわけだなこりゃ。
「…そういう奴だったのか」
 前線で勲章掲げて暴れまくっていたような奴が…それを自然に行っていたような奴が、この世界に順応しきれるわけがない。なるほど、大異変の迫った俺の世界に行きたがったのはむしろ当然だったんだ。
「…」
「いや、なんでもない。芹香は知らなくていい事だ」
「…」
 奴の過去なんて今さら何の意味がある?奴はもうここには帰ってこない。これ見りゃ俺だってそう確信できる。
「…」
「え?それどうすんだ?芹香?」
 芹香は、端末にとりつけられていたモニター通信機を取り外していた。
「…」
「まだ動きそうだから解析してみる?…でもそれ通信機だぜ?こっちのとじゃ規格違うし意味ないんじゃ?」
「…」
「え?うまくいけばゲート越え通信できるかも?…でもなぁ」
「…」
「ま、それもいいか。武器とかじゃないし他に使い途もないし」
「…」
「ああ、いいよ。好きにしてみ?」
 
 …で、その結果があの風景だったんだよなぁ。
 確かに端末は動いた。電池の規格が違うのには参らされたが、来栖川ラボで借りてきた安定化電源で12.8Vを食わせるとあっさり動いた。しかしモニタに映った光景には、さすがの俺たちも絶句せざるを得なかったんだ。
 …それは、化け物たちとあいつの戦い。
 どういう理屈になっているのか、端末は俺の世界にいる「あいつ」の目線と同調した。既に大異変は始まっていたらしく、天空から地平から現れる未曾有の化け物に世界は大混乱になっていた。もっとも東鳩市周辺には稀に「はぐれ」が来る程度だったんだけど、狂った世情は暴徒や犯罪が横行。そっちの被害の方が遥かに甚大になっていた。
 そんな中、あいつは動きだしていた。
 芹香たちを説得して来栖川を味方につけたあいつは、街からバカどもを叩き出し、時には裏で粛正までしはじめた。あかりや皆を守るためだ。のほほんとした平和に慣れ切っていた彼女たちは未だに状況が自覚できてない。それらに危険を喚起し、それでもできない汚れ仕事をあいつは、組織の混乱で街まで手が回りきらない警察の代わりに次々とこなしていった。まだあっちに行っていくらもたってないのにあいつは、その軍人然としたしっかりした理屈と行動、そして来栖川のバックの力で、見事に「守る戦い」をはじめていたんだ。
 
「お、やっと来たみたいだな。皆よく聞け、突然だが今から編入生と転校生を紹介する」
「え?」
 おぉー、という声があがる。
「ちなみに、メニールだ」
 だぁぁぁ、と沈む声がする…なんだかな。どっちでも外観は一緒じゃねーか。
「ちなみに、編入生は本来、大学生でありここの卒業生でもある。事情がありこのクラスに入りたいという事で特別に許可された。いろいろあると思うが、あまりいじめてやってくれるなよ。いいな、みんな」
 ……って、ちょっと待て。むちゃくちゃ嫌な予感がするのは俺だけか?
「こりゃ…他にはおらへんわな?」
「…頼むから不安を煽るなよ、委員長」
「なるほどなぁ、昨日の席替えで、藤田さんの右と左が空席になったのはそういうわけやったんか。…よかったな藤田さん」
「よくないわっ!!」
 だが、無情にも時間は過ぎる。ガラガラと扉がスライドし、あまりにもよく知りすぎた顔が二つ、ひょっこりと出現する。

    「やっほー、ひろみ〜♪♪♪」
    「……(こんにちは)」

……か、勘弁してくれ(泣)

 
 
 (おわり)



感想メールフォーム


PLZ 選んでください(未選択だとエラー)







-+-
inserted by FC2 system