今日の仕事にひと区切りつけたことみが
最近には珍しく夢中になった。新しい理論の組み立てというのは一度勢いがつくと時間を忘れてしまう。学者夫婦のひとり娘であり根っからの学者肌であることみもその点は同じで、ふと気づくと既に時遅し。平素ならとっくに朋也のアパートで団欒しているはずの時間、夜の町を駆ける事になったのだった。
「さむ」
気温の低下は早くことみは眉を寄せた。少し暖まりたい、そう思った。
しかしあまり遅くなると今度は朋也の娘が寝てしまう。それはちょっと寂しいし、何よりことみ本人がそういう場面を嫌った。すやすや眠る可愛い子をその父と共に眺めるのも悪くないが、ことみちゃんと笑うあどけない顔を見られないのはもったいないとことみは思っているのだった。
「……」
角を曲がった。朋也たちのいる岡崎家はすぐそこだ。寒いから朋也は中にいるだろう。朋也ひとりなら時々外に出て待つかもしれないが、そうすると幼い汐までその真似をして出てきてしまうからだ。
ことみはそんなふたりを想像しつつ、微笑んでまた駆け続けた。