以前ふと思った事がある。実にたわいもないたとえ話だ。
仮にあたしが男でハルヒコが女だった場合。もしその状況がありうるとしたら、もしかしたらうまくいったんじゃないか……そんな事を妄想した事がある。いやごめん、本当にくだらない話なんだけどさ。
そしたら彼は言ったものだ。『あくまで可能性だが、その組み合わせだとうまくいく可能性が高い』と。
『ハルヒコの性格をそのまま女性のそれに置き換えると、おそらく異常な部分がソフトに丸められ、また周囲の見る目も優しくなるだろう。反面別の問題も発生するがSOS団のメンバーでフォロー可能な事も多く、また何より男性である君の目線にも余裕が生まれる。結果として君たちの致命的な反目やストーカー騒ぎといった問題も軒並み発生しなくなり、おそらく全ては円滑に進んだと思われる。
涼宮ハルヒコと君では起きてしまう問題も、涼宮ハルヒと男性キョンの間では軒並み小規模化、あるいは問題自体が起こらない可能性が高い』
『…涼宮ハルヒ?』
『ハルヒコが女性として生まれた場合、名づけられる確率がもっとも高い候補のひとつ』
『コを抜いただけじゃん……本当?そんな適当なのが確率高いの?』
『条件付けと計算式を説明してもいい。でもたぶん覚えていられないと思う』
『結構です』
涼宮ハルヒねえ。
その話を聞いた時、ほんの一瞬だけどその女ハルヒコを想像してみた。
きっとイツキにちょっと似てて髪は短め。無闇に騒々しくてエキセントリックで、しかし容姿だけはやたらと美少女。女の友達は少ないだろうけど、どうせあの性格のおかげで男女どっちからも一線引かれてるはずだし。なるほど、確かに男より女の方があいつはいいのかもしれない。
だが問題は男のあたしの方。全く想像つかねっす。いやぁBLとか好きなコならすぐ考えちゃうのかもしれないけどねえ……あはは。
両親が戻って短い団らん。食事やお風呂が終われば時刻は既に夜の十時。
平日なんだから仕方ないとはいえ、夜になればなるほどあたしは切なくなる。眠さや疲労感は時間と共にむしろ衰えて、自分でもよくわからないほど神経が研ぎ澄まされるのを感じる。
明日はお休みだというのにもう寝るとさっさと引き揚げるあたしに一瞬両親は訝ったようだけど、ちょっと疲れたからと言うと納得してくれた。今は寝室にあたしひとり。
闇の中。光ってるのは携帯だけ。
さっき、泣き顔のメールを彼に送った。返事を待っている。
心臓が鳴る。とくん、とくん。
とくん、とくん、とくん、とくん、とくん、とくん、とくん、とくん、とくん、とくん、とくん、とくん、とくん、とくん、とくん、とくん、とくん……。
心臓以外、何の音もない寝室。外からTVの音。外は闇夜。
「!」
返事きた。ドライブモードだから完全無音。
内容はにっこり笑顔。つまり「情報操作できたからおいで」の意味。
立ち上がった。
移動条件は着の身着のまま、携帯は電源を切って他の機械類は持たないで。以前そう命令された事を守る。それを守っている限り何の問題もない。
部屋を出た。
「!」
いきなり向こうから母がやってくる。こんな時間に私服で外に出ようとしているあたしは当然とがめられるはずで、あたしは一瞬ビクッと凝固する。
「……」
だが母は、目の前にいるあたしに気づかない。そのままあたしの前を抜けて弟の部屋にいってしまう。
そう、これは彼のしわざ。原理とか理屈とか知らないけど彼はこういう事ができる。
でもここは気にしなくていい。さ、いこう。
階段を下りると父と目があった。だが父は何か考え事をしているようで、これまたあたしに気づかない。そのまま真横を通過して玄関に向かうあたしを見ているはずなのだけど、でも咎めやしない。
玄関から外に出た。
闇夜とはいえここは住宅地で、ある程度の光があちこちにある。その中をあたしはしばらく走り、家が見えない場所まできたところでスピードを落とす。
すう、深呼吸。
暗いし人の姿はない。まるで異郷か深海にいるみたい。
さて、ここから歩く。
「……」
刹那、ぞくっと寒気がして周囲を見る。
電柱の影に人……これって、
「!」
うげ、ハルヒコがいた。まだストーカーしてたのかこいつ。
もちろんハルヒコもあたしには気づいていない。だがあたしの家の方角をじっと見ているハルヒコを見るにつけ、もし見つけても迂闊に声など出さずに速攻パスしろという厳命を思い出した。
そう。ハルヒコの場合「まさか」がありうるから。
冗談じゃない、もちろん命令は守る。速攻で逃げた。
ハルヒコを見ちゃったせいか、身体の芯が錆びついたような気持ちだった。
巡回中の警官とすれ違った。こっちを見たようだけど全然気づいてない。そのまま早足で進んだ。
……着いた。
そのマンションはいつものように静かに建っている。
ここは彼の他、朝倉
入り口に立つと、住民カードもないのに勝手にドアが開く。気にせずそのまま通過する。
ロビーは凄く明るいけどたぶん実際はそうでもない。暗い所を歩いてきたからそう見えるだけだ。
部屋番号のパネルを操作しようとしたけど触る前に勝手に動きだし、エレベータのひとつが音をたてて開いた。
迷わず乗り込むと動き出す。既に目的の階のボタンは押されている。あたしは立ってるだけ。
階に到着し、部屋に移動する。
目的の部屋の前にくる。ピンポンを押そうとするがその前に扉が開く。一歩後ろに下がるが少し開いたところで中から太い男の手が伸びてきて、あたしを中に引きずり込んでしまう。
背後で鍵の閉まる音がした。
嗅ぎ慣れた男の匂いに全身がピクッと震える。ゆっくりと顔をあげると、そこには男子制服の広い胸板、そして、
「……」
長門
おぉ、あいかわらず間近で見るとイケメンだぁ。いや遠くでもイケメンだけどさ。
「ごめんなさい、遅くなった……」
玄関で待っていたという事は時間をかけすぎたのだろう。あたしはすぐに謝罪したが、同時に胸が苦しくなった。
く、こんな時に。
「……」
ユウキは何も言わない。あたしが落ち着くのをじっと待っている。あたしはじっと口をハンカチで押さえて、そのままじっと嵐が通り過ぎるのを待つ。
少しすると落ち着いてきた。
「ふう。ごめん落ち着いた」
「かまわない」
ユウキはそれだけ言うと、あたしの頬に手をやった。
「……ああ、ハルヒコはそこにいたのか。居るのはわかっていたがハッキリしなくて操作に時間を喰ってしまった」
「うん」
ここまでのあたしの思考や行動を読んでいるらしい。報告の手間省けて便利だわほんと。
「キョン。ひとつ質問いいかな」
「何?」
「机の中に避妊器具というのが嫌がらせになるのは、先生に見つかると問題になるからで問題ない?」
「ああいや、それはそうじゃなくてね」
おそろしく博識のユウキだがやはり人間とは違うわけで、時折ものすごい勘違いをしている事がある。そういう時はこうして訂正する。
とりあえず、避妊器具が何を連想させるか、そしてそれが女にとってひどい侮辱である旨を説明した。
「でもさ、そういうのってわからないものなの?」
「女性タイプの個体と情報共有できれば可能だろうね。男性タイプの場合人間の女性社会に入れないので、日常会話から得られる情報ではこの種の情報は入手しづらい。書籍やマスコミなどでは信憑性の問題があるし、生きた情報の方がこの場合は価値がある」
「へー……あたしの情報でも少しは役立つ?」
「かなり」
よかった。
さて情報を読み終わったのか、中に案内された。といっても勝手知ったる部屋であり、おじゃましまーすとテーブルにさっそく就こうとしたわけだが、なぜか首根っこを掴まれる。
ああ、ちなみにあたしの私服。焦げ茶のノンスリのワンピにグレーのカーディガンという地味〜な姿。まぁ身一つだからね。おまけに下に履いてるのもグレーの地味なサンダル。まるで華がない。いやだから身一つだし。携帯入れるポケットすらなかったから手で持ってきちゃったしねえ。
けど、これはこれで正解だったりするのである。なぜかというとこのワンピとカーディガンを選んだ理由は、胸元の小さなボタン以外は固いものが一切使われていない事であって、
「……!」
……そ、そうそう。こうやってユウキが全身なでくり回しても邪魔なものが一切ないというわけなんだけど……ってそれはいいんだけどシャミセンのノミとりじゃないんだから、そんなコネコネさわりまくらんでもってっ!!!!
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
くは……ふ、服きたまま……た、立ったまま……って……え……え?
気がつくとベッドの上に置かれてた。
えっと……もしかして意識飛ばされた?ちょ、なんか状況わけわかめなんですけど。
けどユウキの方はというと、そんなあたしの方なんか注目しないで何か小さなペラペラのカケラみたいなのを持ってる。なんだか怖い顔をして。
ああ、あたしの身体にたぶんアレがついてたのねきっと。それを探してたんだ。もちろん半分はお茶目だろうけど。
で、あれは何?
「ユウキ?」
「……」
ユウキはそれにスラスラと指を走らせると、こう言った。
「発信器。たぶん古泉一姫と接触中に装着されたんだろう。今ダミー情報を食わせるように切り替えた」
「え?……あ」
そうか。ハグられないよう逃げたとはいえ、触られちゃいるんだっけ。
「……」
ユウキは人間じゃない。感情はあるけど表現は多彩とは言えない。あたしにはある程度わかるけど。
「……」
て、てーか、ユウキったら何かなんか怒ってるんすけど?
「キョン」
「はい?」
「これからは、俺も涼宮ハルヒコもいない時にあの二人には近づくな」
うえ、命令っすか。
「命令」
う、うん。わかったけど。
「それって、抑止力がいない時はダメって事?危険?」
「そう。危険」
はっきりとユウキは頷いた。
「今まで彼らは君の人格を尊重した応対を続けていた。君と敵対は避けたい、そういう意図が透けて見えていた。
だが今回、はっきりと君の人格を無視する行動に切り替えてきた。これは先方の背景となる組織に何かあったという事。
正直なところ、これは非常に危険。向こうの動向が掴めるまでは迂闊に動いてはいけない」
そう言うとユウキは少しだけ沈黙した。何かを伝達するような、あるいは問い合わせるかのような反応だった。
「……なに?」
「この時間にいるすべての俺以外の端末に警報を送った。現在、我々以外のすべての陣営に対する緊急警戒体制への移行を申請中」
「な」
それってオオゴトじゃん。朝倉とか黄緑先輩……だっけ。あのひとたちにも送ったの?
「送った。彼らは特に異陣営に極めて近いので、体制移行後は情報結合解除を含むあらゆる行為が許可される」
「……」
と、ここまで聞いた瞬間にふと気づいた。
……これ、戦争だ。
警戒体制なんて表向きだろう。それは単に、相手が引き金を引くのを待ち構えるって意味でしかない。
やる気なんだ。
本気で自分たち以外のすべての陣営を敵に回すつもりなんだ。そう思った。
たとえ、それが世界のすべてを敵に回すのに近い意味だったとしても。
……いけない、止めなくちゃと思った。
「……」
だけどユウキは、なぜかあたしの顔を見て首をかしげた。
「君はひとつ勘違いをしている」
「?」
いや、いきなり言われてもわけわかんないから。
そう言うとユウキは「説明する」と頷いた。
「本格的敵対状態と看過したのは確かに間違いない。今までも表立って敵対していないだけで仲間ではなかったが、今回のことで完全に袂を分かつ可能性もでてきた。それは確かに事実だ。
だが、それに君が責任めいたものを感じる必要はない。今それをわかりやすく説明する」
「……はぁ」
なんか説明してくれるらしい。そりゃありがたい。
ユウキはうっすらと笑うと、あたしにもわかるように簡略化しつつ説明をしてくれた。
「まず情報統合生命体は今回の件で、ひとつの結論に達した。行動もそれに即したもので、別に君を守るための大作戦とかそういうわけではない。だから気に病む必要は全くない。
あと、確かに君を守る事もその決定に含まれているが、それは最悪の場合に備えて君をキープしておくという意味でもある」
「キープ?どういうこと?」
ユウキは少しだけ首をかしげ、そして言った。
「君が部室で古泉一姫や朝比奈ミライに語った言葉、覚えてる?それが世界の選択なんだと」
「うん」
もちろん、自分の言葉だし。
「実は、語彙は違えど情報統合生命体の結論もほとんどそのまま同じなんだ」
「……え?」
「つまりね、つまり情報統合生命体の結論はこうなのさ。『いずれ涼宮ハルヒコは致命的な暴走を引き起こし、この世界そのものが破綻、崩壊してしまう可能性が非常に高い』とね。意味わかるかな?」
「な……えええええ!?」
あたしの目は点になった。言葉の意味が頭にしみとおった途端、ゾクッと自分がふるえたのがわかる。
「ちょ、自分の言葉の意味わかってるの?世界の終わりがくるって事じゃん!マジで!」
「もちろんわかってる」
落ち着けという事だろう。ユウキはあたしの背中をぽん、ぽんと叩いていた。
やがて気がつくとあたしの興奮は収まり、ユウキに抱きしめられていた。
男の子の匂い。男子制服の感触。いつもと変わらない。
本当に、冗談でなくマジで世界が終わってしまうというんだろうか?
「百パーセントとは言わない。だがこのままいけば確実に」
「回避手段はないの?」
「なくはないが、実施困難」
ユウキは頷き、少しだけまた首をかしげてあたしの顔を見た。
「涼宮ハルヒコの精神を安定させれば、同時に世界も安定を取り戻すだろう。
だが彼は君にあまりにも執着しすぎている。そして我々の力をもってしても涼宮ハルヒコの精神には干渉できない。おそらく「自分が自分である事」を本人が欲していて、それが他者による強制的な干渉を排除するのだと思われる。
とどめに、君を差し出すという手段は俺個人としてもとりかねる。さらに今回、情報統合生命体からもその手段は避けるべきという指示が出た」
「え?それって……その最後って、どういう事?」
なんか、まるで
そう言うと、なんと驚いた事にユウキは頷いた。
「君はたぶん非常に嫌がると思うが、結局のところ涼宮ハルヒコに君は近いという事だ。思想信条的にも、そして相性としてもね。
ただ今回はそれがマイナスの方向に出てしまっただけにすぎない。好意も嫌悪もベクトルが逆なだけで類似の感情なんだよ。
ここまでは理解できる?」
「う、うん。頭では」
わかりたくないけど、でもわかる。
「とはいえ、現時点で君と涼宮ハルヒコが異性として接近するなどありえないよね?これは俺も同意する。
また、情報統合生命体は人間の男女間の問題を理解できなかったが、君という人間、そして俺たちの関係を通して少しだけ理解できたようだ。つまり、相性がいい異性同士だからといって結びつくとは限らない、むしろ敵対する可能性もあるという事をね」
ふう、とユウキはためいきをついた。
「初期の我々の考えでは、君は涼宮ハルヒコに対する最重要キーパーソンという事だった。これは今も変わらない。
君は普通の人間だが、同時に涼宮ハルヒコの引き起こした情報爆発の中心にいた者でしかも彼の行動の一翼を担った片割れでもある。彼は君があの時のジェーン・ドゥだとは知らないが、心の深層ではもちろん気づいてるし、それに外観的にもそっくりだ。当人なんだから当たり前だが。このため常に彼は君を追いつづけていた。あの、夏休みを五百年繰り返していたあの季節でさえも。
その執着の結果、君自身にも変化が現れている。気づいてないと思うが」
「……へ?あたしに?」
そう、とユウキは頷いた。
「君自身には今のところ何の能力もない。だがハルヒコの影響で変化が起きている事に情報統合生命体は関心を寄せている。だからこそ、滅びゆく可能性の高いこの世界において、君を保全し、必要なら安全な場所に逃がすべきという動きもまた発生した。
それが、君を守る事に至った理由。わかったかな?」
「……」
理解できない。いや、頭が理解を拒否している。
「……」
クラッ……と、世界が揺れた。
目覚めたら、思いっきりまた抱きしめられていた。
ユウキの目があたしの目の前にあって、
「……」
だんだん落ち着いてきた。
「……もしかして、あたしまた飛んじゃった?」
「ちょっとだけ」
「……ごめん」
「別にいい」
ユウキの腕の中で謝った。
我ながら脆い意識だと思う。何度ユウキに助けられたか、もう覚えちゃいない。
ハルヒコと出会ってからこっち、特にこうなっている気がする。失神にもクセがつくとか、そういうのがあるんだろうか?
と、いきなりユウキの方は何かごそごそし始めた。何事かと思っていると、
「それよりちょうどいい、少し遊んで気分転換でもしようか。ほら」
「?」
唐突に何か、キラキラしたものをあたしの目の前に出してきた。
「……ん?もしかしてヒップスカーフ?」
よくわからないという人は、ベリーダンスで腰につけるキラキラ・ひらひらした飾りを想像するといい。あの飾りをヒップスカーフというんだけど、キラキラしたものからわりと普通に衣装っぽいのまで色々ある。たとえばスレンダーな人が上下真っ黒で身体にフィットするイメージの服で固めたとして、金色の細身のヒップスカーフを腰というかウエストにつけてワンポイントにする、みたいな使い方もできる。
目の前にあるのは、その飾り系のヒップスカーフ。金銀キラキラ〜なエスニック全開の奴。露出の高い衣装と一緒にするとエロいんだけど、これってあたしみたいにガキ体型だと致命的に似合わない。なんていうか「本格的な『馬子にも衣装』」とでも言うべきか。いや悲しい話、以前試着してズンドコ落ち込んだ事あるから間違いないっす。
で、これがどうしたの?
「これに着替えて」
はぁ、これをあたしに着ろと?ま、まぁいいけどどうして?
ん?
「ちょっと待って」
「何?」
「着替えるって事は、全身こういうので固めろっての?いいけど、あたしだと致命的に似合わないと思うよ?」
「違う」
だけどユウキははっきりとそれを否定すると、こう抜かした。
「
「……はぁぁ!?」
あたしはその意味に気づいた瞬間、自分で自分の顔が真っ赤になるのに気づいた。
「こ、こここれは服じゃなくて飾りだって!」
「もちろんわかってる」
えええええええええええっ!?
じょ、じょじょじょ冗談じゃないっての!
それって、裸の上にこれだけつけろって事?てーか下手な全裸よりはるかにエロいでしょうがそれ!
当たり前だが文句を言おうとした。
だけど、
「あ」
ぐい、と顎をもたれて上を向かされた。
「……」
ユウキの目が、あたしの目をまっすぐ覗き込んでいる。
たったそれだけなのに、あたしはその視線があたしの全身を搦め捕っているような気がした。ユウキに身体中好き放題に嬲られているような気がして、みるみるあたしの身体から力が抜けていった。
逆らえない。あたしはユウキに決して勝てない。
いや、それも間違いだっけ。
ユウキが何者であるか知っていたのに、それでも助けを求めてこのマンションに駆け込んだあの日。
あの日の言葉通り。
そうだった。
「…………はい、わかりました」
あたしはただ、それだけ答えた。
自分が震えているのがわかった。恐怖?不安?
……いや、たぶんそれは『
ちゃぷん、と水音。
金魚鉢の金魚は、やっとこさエサにありついた。
(おわり)