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ラスト

 とある夕刻のこと。
 電気のついてない暗い部屋の中で、唐突に小さな光がふっと灯った。
 しゅんぽぽ、しゅんぽー、しゅんぽぽぽー。
 それは携帯電話のようだ。間の抜けた音で誰かの着信を告げている。
「……祐一、美汐からでんわ」
 もそ、と女の子の声が響く。ベッドの中、ついでに半分夢の中のようだ。
「……」
「しょうがないなぁ、もう」
 ベッドあたりから女の子の声がして、もそりと手が延びた。携帯が台座から外れ、そのままベッドの中に引き込まれた。
 ぷつ、と着信音がとぎれた。
「もしもし、うん真琴だよ。祐一ねてる。うん、雪合戦の後お風呂に入って、疲れたからお昼寝しようって……もう夜なんだ。ふぁぁ」
 電話の向こうでくすくす笑う声がしている。あいかわらずですね、などという声が静かな部屋に響いている。
「祐一かわる?ううんいいよ、たぶん眠り浅いから。ちょっと待って。
 祐一、祐一」
「んー、なんだぁ」
「美汐」
「お、そうか」
 真琴は祐一に携帯を渡すと起き上がった。なぜか全裸だ。
「真琴。暖房つけて服着ろ。風邪ひくぞ」
「うん」
 のたのたとクローゼットに向かう真琴。いかにも眠そうなその姿に自分も半分寝ぼけて笑った祐一は、そのまま暗がりの中で携帯を耳にあててしゃべりだした。
「よう天野どうした。ん?今の格好?……ああ、下着だが?なんせ真琴と風呂あがりで爆睡しちまったからな。
 ああ?んなわけないだろ、おまえ抜きにんな真似するわけないし。だいたい、あいつと雪合戦なんかした後に体力残ってるわけないだろ?俺、はんぶんあいつに風呂いれられたようなもんだしな。もうへとへとで、いや情けない話だが。
 は?次からは混ぜろ?大変だぞあいつ体力だけは化け物だからなってこら、枕投げるな!
 あははは悪い。で、どうした?なんかあったって声だが?
 ……え?」
 電気がついた。真琴が暖房と一緒に電源をいれためだが、浮かびあがった祐一の顔は雪をおもわせる白さだった。
「な」
 その祐一に気づいた真琴は、なぜかにやにや笑いながら耳を塞いだ。
 次の瞬間、
「なにぃっ!こ、こここ、子供できただってぇ!」
 ペリカンの泣き声みたいな雄叫びが水瀬家を揺さぶったのだった。

(END)



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