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結末

 ……とまぁ、そんなわけで場面は最初に戻る。
 ふたりの作ってくれたものは鍋。確かに難しいものではないし失敗もしにくいとは言えるかもしれない。
 だけどその反面、鍋は化け物だ。千差万別どのようにでもなってしまう、という事は決まったセオリーがないって事でもあって、組み合わせる食材ひとつ間違えるととんでもない代物に化けてしまう事もある。
 そんな鍋をふたりがどう攻略したのか。
 ふたりなりに色々考えたんだろう。用意してきたタレも食材も消化によさげで胃に重くなさそうなものばかりだった。
 で、焦らずのんびりと食事。
「……不思議」
「はい?なんですか涼さん?」
「いや、なんでも」
 いつも元気いっぱいの愛ちゃんなんだけど、こうやって世話焼きしてると印象が全然違う。まるでどこかのお母さんみたいだ。
 きっと舞さん……愛ちゃんのお母さんがこうやって愛ちゃんを育てたって事なんだろうな。業界の噂のイメージとはいまいち咬み合わないけど、一度だけお会いした時に愛ちゃんとのやりとりですぐわかったからなぁ。ああ、この親子は本当に仲良しなんだなって。
 愛ちゃんはそのお母さんを正しく受け継いでいるんだろう、きっと。
「涼さん、眠くなってきた?」
 ふと気づけば箸が止まっていた。それにすぐ気づいた絵理ちゃんが思案げに僕を見てくる。
「ううん大丈夫」
 とっさにそう答えた。
 だけど、僕自身が思ったよりはるかに僕は疲労していたらしい。僕の発した言葉はいつもの精彩をどうにも欠いていて、そして絵理ちゃんは鋭い観察眼の持ち主なわけで。
「愛ちゃん?」
「あ、はい。じゃあそろそろ少しずつ収束させますね」
「うん。よろしく?」
 ふたりはまたもや、てきぱきと動き出した。その動きを僕はぼんやりと眺める。どうしてだろう、そのさまは普段の彼女たちよりもずっと大人っぽく見える。
 ああ。ふたりとも本当に女の子なんだなぁ。
 失礼かもしれないけど、僕はそんなことをぼんやりと考えていた。
 
 いつのまにか、僕は眠ってしまっていた。
 トップアイドルになってからこっち、事実上一人暮らしと変わらない生活だった。だからだろう、単に食事がどうという以前に、愛ちゃん絵理ちゃんという気の許せる大切な友達がふたりも心配して付き添ってくれている、その事自体が僕を安心させたんだと思う。僕は、僕自身も気づかないうちに眠りに取り憑かれ、そして抵抗する間もなく眠りに落ちてしまったんだ。
 で、目覚めてみるとベッドに三人川の字でびっくり仰天したりしちゃうんだけど、それはまたそれ。
 そして、さらに僕の住居を張り込んでいたどこぞの悪徳がスワ三角関係かとかきたてたり、さらに夢子ちゃん、果てはどういうわけか律子姉ちゃんや愛ちゃんのお母さんまで絡んだ騒動のきっかけになったりもしちゃうんだけど、またしてもそれはそれ。
 
 ただ、ひとつだけ言える事。
 この頃を境にだんだんと、やっとの事で僕は世間から男の子扱いされはじめたって事かな?
 これだけは間違いないな、うん。
 
(おわり)



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