[目次][戻る][進む]

事情

 雪の中延々と歩いてきたふたりは凄まじく冷え切っていた。とにかくと急いで部屋の中に招き入れ、エアコンもこたつも最強にした。
 で、次はホットミルクでも入れようかと思った。何しろここんとこ忙しすぎて自炊の材料がほとんどない。長期保存できる材料しかないから……暖かくておいしいものを三人分なんて到底無理だが牛乳は昨夜買ったものがある。
 だが、ふたりにむんずと腕を掴まれた。
「え?なに?」
「涼さんは座っててください」
「気づいてないかもだけど……涼さん、見るからにお疲れモード?動かなくていい?」
 いや、無理してるつもりはないし、お客様を放置はできないし。
 だけどそんな僕の言葉はたちまち却下された。
 ふたりは僕をベッドで寝かせたかったみたい。けどそれは固辞した。確かにお疲れモードなのは今更否定しないけど、女の子のお客様がふたりもきている状況でベッドに入るのは、なんていうか男として激しく抵抗があったからだ。いやま、その、ふたりっきりなら……いやいやそういう事ではなくて!
 すったもんだの末、こたつがベッドサイドぎりぎりまで移動になった。ベッドを背もたれにして座れという事らしい。なんだかな、ふたりとも、どうでも僕を休ませたいみたいだな。
 と、そこまできたところでやっと気づいた。
(あれ?)
 ふたりの荷物が妙に多い。それにこの匂いは……?
「……なるほど」
 うっかり口に出してしまったけど、運良く二人には聞かれずにすんだらしい。
 参った。食材の匂いにも気づかないなんて、確かに僕はかなりお疲れらしい。こりゃあ二人が心配のあまりわざわざ来てくれたのもうなずける。
 悪いことしちゃったなぁ。
「涼さん何か食べたいものありますか?作るのは絵理さんですが私も手伝いますから!」
「涼さんみたいにうまくは作れないけど……」
 にこにこ笑顔の愛ちゃん。ちょっぴり緊張気味の絵理ちゃん。こう言っちゃ失礼だけど、決して料理が得意とは言えない二人なのに。僕なんかのために……。
 うん。ここは好意に甘える事こそ一番かな?
「ふふ、ごめんねふたりとも。じゃあお願いしていいかな?」
 そう言うと、ふたりはとてもうれしそうな顔になった。



感想メールフォーム


PLZ 選んでください(未選択だとエラー)







-+-
inserted by FC2 system