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かわりゆく時の中で

 ナデシコのデッキに着陸したアキトは、変身を解くやいなやそのまま昏倒した。
 ただちに医療班がさしむけられた。血相変えてすっとんできたラピス、そして艦長の仕事を放り出して駆けつけたユリカに付き添われ、そのままアキトは医務室に運ばれた。
 特に危険な兆候はなく、おそらく原因は過労だと診断された。
 黒いものに包まれている時に何があったのかはわからないが、おそらくその時にひどく消耗させられたのだろう。医療担当はそういう結論を出した。あるいは最後の必殺技かもしれないとも言及したが、データがまったくないことからそれは推測にとどめられた。
 ある意味、彼らの分析は正解だった。
 最後の技はアキトはもちろん、融合した『彼』自身もはじめて使うものだった。仲間や愛する者の気持ちを使って自らの生命力をエネルギーに変えて叩きつける。いわゆるバースト系の攻撃。
 『彼』はそれを使ったことがなかった。いや、使えなかったからだった。
 
 少女(ルリ)(ユリカ)、ふたりの密談が続いていた。
 ここは艦長用の私室である。アキトは今用意された士官用の隣室にいて、そこにはラピスひとりがはりついている。他に誰もいないのは皆の遠慮の結果。ウルトラマンである彼は自然に回復するはずだから親しい者だけに見守らせて寝かせるのがいいという考え、そしてユリカの夫婦発言を意識しての結果だった。
「とにかく、アキトをもうどこへも行かせない方法を考えなくちゃね」
「そんなに焦る必要があるんでしょうか?ラピスはここにいるし、アキトさんはラピスをずいぶんと可愛がってるみたいですからね。なにしろウルトラマンになっても未だにリンクが生きてるみたいですし」
「ん、そうだね。きっとラピスちゃんに『やだっ!』て泣きつかれてリンク切れなかったんだよ」
「アキトさんならありえそうですね。まぁ、ウルトラマンの力とやらでリンクの切断ができるという仮定の上での話ですが」
 ふたりは小さく笑いあった。
「とにかく、やるよルリちゃん!」
「がんばってくださいねユリカさん。それじゃ私は────ぐぇ」
 最後のガマガエルじみた声は、逃げようとしたルリの首根っこをユリカが押さえたためだった。
「なにするんですか!」
「ルリちゃん逃げないの」
「いえその、夫婦間のお話になっちゃったら私が立ち入るわけには」
「そんなの、すぽーんと脱いでアキトに飛びかかったら問題ないって」
「痴女ですか!私はそんなことしません!」
「だめだめ」
 ちっちっとユリカは指を振った。
「いい?ルリちゃん、今のアキトは半分ウルトラマンなんだよ?」
「あ、は、はい。確かにそのようですが」
 さすがにもう認めるしかないのだろう。ルリも渋々頷いた。
「過去のウルトラマンの記録は見たでしょ?ウルトラマンはね、長くて数年しか地球にいた記録がないんだよ?まぁもしかしたら人前から姿を隠してるだけかもしれないけど、ほとんどが基本的にはM78星雲ってとこに帰っちゃうの。これは人間と融合してたらしいウルトラマンもそう。例外なしなんだよ?」
「!」
 正確にはユリカの言葉は絶対ではない。だが今現在、ルリに対してはそう決めつける必要があった。
「だからルリちゃん協力して。ふたりがかりでアキトを捕まえるの。絶対逃げられないようにしよ!いい?」
「それはいいんですが……具体的にはどうするんですか?……!まさか!」
 ルリの顔がみるみる真っ赤になっていく。
「だ、だだだだだだめです!そんなことできないです!」
「どうして?」
 ユリカが優しく語りかけた。まるで諭すように。
「アキトはもう半分人間じゃないんだよ?ウルトラマンさんたちの常識がどうかはわからないけど、ユリカたちだって人間の常識にこだわってられる場合じゃないと思うよ?
 ……でないとルリちゃん、私たち取り残されるよ?ラピスちゃんと三人で、この世界に。
 帰ることもできないんだよ?だってユリカたち身体捨ててきちゃったもん。
 アキトを追うのも無理。だってM78って300万光年も向こうにあるんだもの。ジャンプしようにも座標もわからないし、だいいちあのウルトラマンの生きてる環境に地球人が住めるとは思えないよ?」
「……」
 じっとルリはユリカの言葉を反芻した。
 この世界はルリたちの世界とは違う。無数の異星人が闊歩するこの世界はいろいろとルリの知るそれとは違っていた。歴史も、常識も。
 そしてたぶん、世界観も価値観も違う。まだ日の浅いルリたちは自覚できていないが。
 こっちはこっちで住めば良い世界なのかもしれない。
 だが、アキトという存在ぬきで永住となると……おそらくルリたちは悲しい思いをするだろう。
「……」
 じっと思案したあげく、ルリはつぶやいた。
「……そんなの」
「ん?」
「そんなの嫌です!」
「でしょう?」
 はい、とルリは頷いた。
「だったらルリちゃんも覚悟決めよう?確かに今のルリちゃんは子供に戻っちゃってるけど、精神年齢は大人だよね?
 ルリちゃんが奥手なのは承知してるけど、大丈夫。ユリカも一緒だから。
 ……だめかな?」
「……」
 ルリはしばらく悩みに悩んだ。そしてじっと俯き、
「わかりました。やります」
「ん、がんばろうねルリちゃん♪」
「はい」
 力いっぱいルリは頷いた。覚悟を決めた『女』の顔で。
「……」
 ユリカはそんなルリの顔を、なぜかとても満足そうに見ていた。
「……ところでユリカさん」
「はい?」
 ルリはまだ言いたいことがあるようだった。
「これは私のたわごとです。だから返事はいりません」
「なぁに?ルリちゃん?」
 ルリはちょっと不機嫌そうな顔をした。
「私を可愛がってくれるのは嬉しいですけど、企みごとをするのなら私も混ぜてくださいね?いくらユリカさんでも許してあげるのは今回だけですよ?」
「え?なんのこと?」
 首をかしげるユリカに、
「返事はいりませんといいましたが……まぁいいです。
 そうですね……あの日、お風呂で私を可愛く磨いてアキトさんを捕まえるってユリカさんいいましたよね?」
「あ、うん。ユリカ言ったよ?それがどうしたの?」
「これは推測ですが、私の記憶をいくらか削ったのもそのためなんですよね?
 身体と記憶を捨てる前の私が何歳だったのかは知りませんが、おそらく少女と呼べる年代じゃなかったんでしょう?アキトさんを籠絡するには問題のある……そうですね、少なくとも確実にあの頃のイネスさんよりも年上でしょうか。
 だから、私が逆らえないのを承知で『少女』の年代に記憶ごと引き戻した。違いますか?」
「……」
 うげ、とユリカは口ごもった。
「私の気持ちを察してくれたのは嬉しいです。それは感謝してます。
 でも断り無しというのは頭にきました。いくらなんでもあんまりです、ユリカさんらしくないです。
 私は着せ替え人形じゃないんですから。
 これからは自重してくださいねユリカさん、いいですね?」
「……」
 ユリカはしばらく悩み、そして言った。
「わかったよルリちゃん。これからはちゃんと断ってからにするね?」
「しないって言ってください!」
「え〜?」
「え、じゃないです!」
 そうしてしばらく、うだうだとルリのお説教が続いた。
 
 ふと気づくと、アキトは傍観者になっていた。
 通常ならこの立場にいるのは『彼』なのだろう。ふたりはゆっくりと融合の途上にあるが今はまだ別の個性である。アキトはのんびりと『彼』そして彼でない別の者との邂逅を見物していた。
 そのウルトラマンは威風堂々と立っていた。
 胸のあたりに勲章であるスターマークをたくさんつけており、それが彼の位の高さを思わせた。
『なるほど事態はわかった。大隊長にも事の次第を報告するとしよう』
『すみません。まさか宇宙警備隊の方にご足労させてしまうとは』
 応対しているウルトラマンは、気にするなというように頷いた。
『しかし驚いた。あの戦いのおりに避難した民間人の生き残りがまだいたとは』
『まったく面目ない次第です。今まで報告もせず』
 『彼』はアキトとの応対ではありえないほど神妙な顔をしていた。あまり思い出したくない記憶なのかもしれない。
『それは君のせいではない。聞けば避難中に傷つき長い間眠っていたとか。それに報告するといっても君の報告するべき宇宙警備隊は我々ではなく、君の世界にいる警備隊だったのだから。
 ただ、こちらの世界にたどり着いた時点で報告がなかったのは少々いただけない。たまたま地球人に友好的な異星人が君を見て不審に思い、防衛隊の方と協力して調査、報告してくれたわけだが……少しは後のことを考えてくれないかな?』
『すみません』
『君は民間人だ。それも恒点観測員や異星研究の科学者ですらない、本来外部に出ることなどありえない立場。
 それがいきなり激戦区の地球圏に降臨するなど……まったく信じられない無茶をするものだな』
 呆れたようにそのウルトラマンは言った。
『今の地球の状況にあてはめるなら……そうだな、民間人の素人がいきなりあのエステバリスとかいう機動兵器で無人兵器の群れと戦うのに近い無謀さだぞ。わかっているのかね?』
『はい』
 途中で名前が聞こえたはずだがアキトには理解できなかった。おそらく彼らの言葉であり、アキトに理解できる語彙が存在しないのだろう。
 しかし偶然とはいえなんと皮肉な例えだろうか。アキトは苦笑いするしかなかった。
『私はこれから一度国に戻る。なるべく早く戻るつもりだが、その際には融合した青年を助けるための命も持参しよう。
 君は地球圏にいてはいけない。長引けばきっと、君は死ぬことになる』
『待ってください』
 去ろうとしたウルトラマンを『彼』は止めた。
『わたしは残ります』
 ウルトラマンはその答えを予測していたのだろう。静かに振り向くと厳かに言った。
『命の保証はない、それでもいいのかね?』
『わたしはもう彼に関わってしまった。彼を慕う人々にも』
 神妙に『彼』は語った。
『彼、テンカワアキトはわたしに似ている。力足りず何も守れず逃げることもできなかった。彼とわたしが違うのはただひとつ、彼が一時復讐鬼と化していたことだけだ。眠り続けていたわたしは復讐すらできず、ただ夢の中で憎しみにもがくだけだった。
 今、彼は立ち直ろうとしている。わたしは彼を最後まで見届けたい。たとえその結果、わたしが死ぬとしても。
 それと後ひとつ、確認したいことも』
『確認したいこと?』
 最後のひとつは予想外だったのか、ウルトラマンの口調が変わった。
『マイナスエネルギーに捕われかけていた彼に外部から声が届いたのです。ひとりは生き別れていた奥さんであるミスマルユリカ、もうひとりは元の世界で死に別れたらしいガイという友人です。外部からの肉声や通信電波があの状況の彼に届くのはおかしい。誰かが空間を越える中継を行ったとしか思えません』
『ほう……なるほど』
 ふむ、とウルトラマンは興味深そうに頷いた。
『我々の兄弟にもマイナスエネルギーに詳しい者がいる。その者に少し調べさせてみよう。何かわかるかもしれない』
『よろしく頼みます。正直わたしでは原因が掴めない、どうしたものかと思っていたところです』
『うむ、確かに引き受けた』
 『彼』にウルトラマンは頷き、そして再び踵をかえした。
『ウルトラサインの出し方はわかっているね?
 今、我々も多忙の日々を送っている。だから今すぐ救援を送るのは難しい。
 しかし見てみぬふりをするつもりはない。地球は我々にとり、今もかけがえのない星なのだから。
 何かあったら即ウルトラサインを。これは貴殿の帰還うんぬんとは無関係だ。わかったね?
 サインの名称には……そうだな、その青年の名をとりアキトと刻むがいい』
『ありがとうございます。ご考慮感謝します』
 ウルトラマンは頷き、そして姿を消した。
 『彼』はしばらく黙っていたが、最後にぽつりと言葉をもらした。
『……本当に感謝します。警備隊隊長殿』
 そして『彼』の姿も光になって溶けた。
 
 翌朝。回復したアキトはルリ・ユリカ・ラピスに付き添われブリッジに挨拶にやってきた。
「昨日は挨拶もなしにすまなかった。テンカワアキトだ、よろしく」
 よろしく、と少し遠慮したような声が周囲から響いた。
 いくらこの世界といえども、ウルトラマンがそこら中にいるわけではない。さらにいうと人間体とわかっている者が自己紹介するなんてのは滅多にないことなわけで、皆はどう反応していいのかわからないようだった。
 ついでにいうと、艦長とオペレータの少女ふたりがべったり張りついているのも戦艦の挨拶としていかがなものか?
 だがこれは仕方ない。ある理由があってアキトは文句が言えない立場にあった。
「アタシは複雑だけど、ま、よろしく。活躍の場がないことを祈るわウルトラマン」
「……そうだな、よろしく」
 真っ先に挨拶してきたのは、なぜかムネタケだった。アキトは「史実とずいぶん違うんだな」と複雑な顔をしながらムネタケと握手をした。
「提督のフクベだ。火星に降臨したということで……今さらかもしれんが礼を言わせてもらうよ」
「とんでもない、提督。俺の方こそ火星会戦にも間に合わず申し訳ない。今さらかもしれないが」
「ふふ、テンカワ君のせいではあるまい。まぁ、共に微力ながら復興の礎になるべくがんばろうじゃないか」
「はい、俺の方こそよろしく!」
 内心の想いを隠しつつ、フクベとも握手した。
「ようウルトラマン!昨日はなかなかの戦いだったぜ!」
「面目ないなガイ。初陣から君に世話をかけてしまった」
「はは、な〜に言ってやがる!元防衛チームとしちゃ光栄だぜ!よろしくな!」
「ああ!俺のことはアキトと呼んでくれ。それが人間としての名だ」
「おう!」
 ウルトラマンにガイと呼ばれたのが嬉しいのか、とても機嫌よくヤマダは笑った。
「えっと、通信士のメグミレイナードです……あの」
 ちょっと見惚れたようにアキトを見るメグミ。だが、
「……いきなりだけど、艦長の旦那様っていうのは本当?、ですか?」
「ああ。びっくりしたろ?ごめんなメグミちゃん。ところで敬語はいらないからね」
「と、ととんでもないです!じゃない、とんでもないよ!あははは……うん、よろしくね、その」
「アキトでいいよ」
「あ、うん!よろしくねアキト君!」
 ちなみに一瞬メグミが詰まったのは、アキトの後ろからの敵対視線ビームのため。
 無理もないことだがこれは冤罪。このメグミにしてみればアニメや漫画でない現実のヒーローとの相対なのだから。子供むけ番組に出ていてそれを愛した彼女からすれば、それは夢の世界の存在そのもの。
 女性とは男の夢想よりはるかに現実的なものだ。一部例外をのぞけば憧れと恋愛は別枠である。
「操舵士のミナトよ。ふふ、テンカワ君やるわね?奥さんの他にさっそく愛人ふたり?」
「み、ミナトさんそれは……っておい」
 左右と後ろを美女美少女(幼女含む)にホールドされていては、返す言葉もない。
「……まぁその、なんだ。なるべく波風立てないようにするんで。よろしく」
「よろしく♪」
 なんだか、余計な波風が立ちまくりそうな気がするのは気のせいか。
「保安部のゴートだ。……いろいろ言いたいことはあるんだが、まずは歓迎する。遠いところよく来たな、テンカワ」
「こちらこそよろしく。ところであんたは体術をやるのか?」
「まぁ、少しはな」
「できれば後でつきあってくれ。少し身体をほぐしたい」
 おぉ、という声が周囲から聞こえた。
「それは光栄だが……ウルトラマンとでは勝負以前の問題だと思うが」
「もちろん人間体でだ。昨日の戦いで身体の鈍りを感じてしまってね、相手になってくれるとありがたい」
「よかろう引き受けた。俺もM78星人の体術には興味があるからな」
 なんだかんだで頼りにされるのが嬉しいのか、うむ、と大きく頷いた。
「連合軍出身、副長のアオイジュンだ、よろしく」
 アキトの横に張りつくユリカにためいきをつきつつ、健気にも挨拶してきた。
「すまないなジュン。かき回してしまい迷惑をかけると思うが、どうかよろしく頼む」
「……」
 ジュンは殊勝な態度のアキトにちょっと驚いたようだが、
「はは、ウルトラマンと一緒に旅できるなんてまだ信じられないよ。こっちこそよろしく!」
「ああ、よろしくな!」
 こっちのジュンは強いな、なんて失礼なことを思いつつ、アキトも挨拶した。
 ちなみにプロスペクターは挨拶をしない。彼はネルガルの方で挨拶をすませてあったからだ。そしてユリカたちももちろん必要ない。
「さてみなさん、さっそくですが連絡事項がふたつあります」
 プロスペクターがにこやかに声をかけてきた。
「ひとつはテンカワさんにイネス・フレサンジュ博士から。後でこい、だそうです」
「了解。で、もうひとつは?」
 もうひとつはですな。……ルリさん、申し訳ないですがニュースを写してくれませんか?」
「あ、はい。オモイカネ?」
 ルリが呼びかけると、オモイカネのウインドウがメインスクリーンに開いた。
 それを見た周囲は、おぉ、へぇ、はーっと様々な声を漏らした。
 

『新ウルトラマンのレジストコード決定』
 今回現れた新しいウルトラマンについて、防衛チーム本部がレジストコードの決定を発表した。
 レジストコードは『ウルトラマンアキト』である。


 
「……は?」
 アキトの目が点になった。
 

 今回の候補としては『マルス』が最有力だったが、昨日のネルガル戦艦(せんかん)『ナデシコ』との共同戦線が本名称を決定づけた。驚くべきことにこのウルトラマンは『ナデシコ』艦長のミスマルユリカ氏と非公式の婚姻関係(こんいんかんけい)にあることが判明しており、なんとバルタン星人との戦闘中にユリカ氏が彼の人間名を連呼して激励、後にオープンチャンネルで痴話(ちわ)喧嘩(げんか)をやらかし仲良しぶりを全世界に披露してしまった模様。その様子は通信を傍受していた各地のウルトラマニアの録音にも残されており、彼の名称には人間名の『アキト』がふさわしいという投書がネット経由で防衛チームに殺到した。
(『ナデシコ』は現在火星への人名救助の旅を検討中であり、実現すればウルトラマンの護衛による火星の旅になるという)
 前代未聞のラブコメウルトラマンに現在、巷は騒然となっている。ミスマル艦長は火星生まれという事で幼少時に出会いがあると思われ、様々な憶測が乱れ飛んでいる。
 他の候補名称も『ウルトラマンラブラブファイター』『ラブコメマン』『ウルトラスケコマシ』『ウルトラマン愛に生きる』などと歴代ウルトラマンの威厳もへちまもないユニークなものが勢ぞろい。それ自体は庶民的で結構なのだが威厳ももちろん必要、本部では検討の結果、純朴な青年のイメージがよいということでアキトの名称が選ばれた模様である。
 なお、和名のウルトラマンは1973年のウルトラマンタロウ、2006年のウルトラマンヒカリなど少数であるが存在する。しかし日本人名がつけられたのは約二世紀ぶりとされる。
(情報:地球連合広報)


 
「……」
「……」
「……」
「……」
 ブリッジは沈黙していた。
 そりゃそうだろう。いくらなんでもこの名称は凄すぎる。
「……いったいなんの冗談だ?」
 やっとのことで口を開いたのはアキトだった。
「……ラブラブファイターって……」
「……愛に生きる?」
「……」
「……」
「……」
 ぷ、と誰かが吹き出した。
 たちまちその笑いはブリッジ中にひろがった。しまいには提督やムネタケまでもが笑いだし、アキト以外は大爆笑の渦に包まれた。
「ちょっと待て!いくらなんでもそりゃないだろ!」
 アキトひとりが激昂したが、もちろん誰も聞いてない。
 げらげら笑いながらヤマダが肩を叩いた。ま、あきらめろと言いたいらしいが爆笑中なので全然説得力がない。
「こらーっ!!なんとかしろぉっ!!」
 情けないアキトの絶叫と笑い声だけが、ナデシコの中に延々と響きわたっていた。

(おわり)



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