目覚めは唐突に、しかし気持ちよく訪れた。
「……」
白い部屋の中。白いベッドに俺は寝ていた。
寝汗で全身はぐっしょりだった。だが、心身ともにすっきりとしていた。考えるまでもなくはっきりと身体で理解できる。
そうだ。ようやく全快したのだ!
チュン、チュンとどこかで小鳥のさえずる声がした。
「……くー……すー……」
「……」
ベッドに、佐祐理さんが突っ伏したまま眠っていた。見るからに看病真っ最中という姿のまま。
その姿を見た途端、俺は、自分の中にずっと以前からあった感情を、とうとう認めざるを得なくなってしまった。
……そうだ。
俺は……舞と一緒だったあの頃から、佐祐理さんが好きだった。
浮気とかではない。舞への気持ちに偽りがあったわけでもなかったんだ。ただ俺は、なんと二人とも愛してしまっていたのだ。
二人はいつも一緒だったから。
舞を追えばそこには必ず佐祐理さんがいたから。
いわゆる「親友」なんて言葉が全く空々しく聞こえてしまうほどに強く、強く、二人は結びついてしまっていたから……舞に惹かれた俺はどうしようもなく、佐祐理さんにもまた、惹かれてしまったのだ。
最初はもちろん気づかなかった。そして気づいてからも知らぬふりをした。
それが一般的に考えて異常なのはわかっていたし、そういう感情が三人の関係を破壊する事も恐れたからだ。
舞がいなくなった時、俺は慌てた。
今はいい、舞の死に囚われているうちはいい。だがその先が怖かった。まるで舞の代わりのように佐祐理さんに近づいてしまう自分が醜い男に見えたし、そんな感情を見せて軽蔑させるのも嫌だった。
だから俺は逃げるように都会へ戻ってしまったのだと……今にして俺自身、やっと気づいた。
「……」
佐祐理さんはまだ眠っている。
俺の看病で体力をあらかた使い切ったのだろう。あのカンのいい佐祐理さんが、泥のようにこんこんと眠りこけている。童女のような安らかな顔で。
まるでメイドさんみたいな白いエプロンがなんだかまぶしく見えて、俺は思わず、視線をそらさずにはいられなかった。
逃げよう。
俺はここにいちゃいけない……お世話になっといて後足で砂をかけるようで申し訳ないけど、このままいたら俺はもっとひどい事をしかねない。
そう……舞を裏切って佐祐理さんも傷つけるかもしれない。
「……」
こっそりとベッドから抜けだす。佐祐理さんを起こさないように。
そろそろと壁に行き、壁にかけられた俺の上着をとった。クリーニングされていて新品のようだった。
側にあるズボン一式をそそくさと履き、キーをポケットにねじこんだ。
「……」
ドアをそっと開け、ふりかえると……
「……」
佐祐理さんはまだ、夢の中にいるようだった。