妻の葬儀が終わり、もう二年になる。
無口で無愛想な、しかし美しくも可愛かった彼女を突然に失い、意気消沈した俺は周囲の人々が止めるのもきかずにあの北の街を出た。
誰よりも強く、誰よりも優しかった、風のような炎のような、かけがえのない彼女。その夢を毎夜のように俺は見て、都会のおんぼろアパートの一室で毎夜のようにむせび泣いた。
そう。明日はあいつの命日なのだ。
あいつと過ごした北の街に向かって、俺は単車でひた走っていた。四号線を北上し、
冷たい雨。
いつ果てるとも知らず、降り続ける長い、長い雨。
その中を、もういない女の墓に参るためだけに単車を駆る俺……はぁ、俺ってどうしようもなく馬鹿者だったんだな。
たしかに単車でなら誰にも気付かれずに墓参りには行けるんだが、別に東京からはるばる走って行く事ぁねーだろうになぁ。いや本当、ばかじゃねえのか?
内心の自嘲に同意するかのように、風がビュウビュウと強く流れていく。
ふと、その風の匂いと空気の色が
どうやら雨の区域を抜けかかっているらしいが、雨がやんだからといって暖がとれるわけではない。ここは北国なのだ。
それでなくとも、冷たい風が俺の濡れた身体から更に体力を搾り取っていくのだろうから、降ろうが止もうが事態はちっとも改善されてはいない。
まぁ、水がなくなるだけでも少しはマシなのかもしれないが。
「お?」
突然、力がスッと抜けた感触がきた。それが意味するものを頭が理解するとほとんど同時に、
……グゥゥ……グゥゥ……
おなじみの変調、ガクガクと力を失う単車……そう、ガス欠だ。
「しょうがないな」
まだまだ最寄りの街まではある。それに北海道の場合、第一級幹線道路だったとしても深夜にスタンドはやってない事が多い。
リザーブに燃料コックを切り替え、手ごろな停泊地を探す。
「む」
前方に閉まっているGS。
閉店中のコーンと虎ロープの間をすり抜け、単車を中に入れた。屋根の下をちょっと借りる。場所代は自販機で買い物するって事でどうよ、とここにいない主人に頭の中で断った。
単車から降りると、リヤシートの最前部に固定してある国防色のリュックを外した。中に入っている携行缶の重みが、疲労で綿のようになりかけた左手にずっしりとかかった。