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三人

 俺とあいつが出会った時、佐祐理さんは既にあいつの親友だった。
 友達もなく言葉少なく、周囲から誤解されきって完全に宙に浮いた存在だったあいつ。だけど佐祐理さんだけは正しく理解し、それゆえに二人は固く結びついた親友だった。ふたりとも同性の友達が非常に少ないタイプだが、両者がお互いのマイナスを相殺していたのだろう。ほとんど会話の成り立たない舞と違い、もともと社交的な佐祐理さんの側にはちょくちょく人が集まっていた。
 俺は、ひとつ年上でもあった二人の美少女がとても羨ましく思っていた。
 時としてあいつの奇矯な行動に振り回されたりはしたものの、あいつに惹かれ、近づいていった俺を佐祐理さんは普通に迎え入れてくれた。いくら俺と舞には過去の事があったとはいえこの時点では少なくとも俺はそれを覚えてなかったし、普通ならこの状況で突然やってきた俺をいぶかるのが普通だろうに。
 ま、舞があまりにも悪い意味で目立ってたからな。この状況で佐祐理さんでなく舞にコナかけるような酔狂な奴なんていなかったろうし、そのあたりにきっと理由があったんだろうが。
 こんな事書くと何かやましい事があったかのようだが、誓って言うがそれはなかった。
 あれはきっと、佐祐理さんの精神年齢の高さもあったんだろうと思う。本格的に三人でつるむようになってからは、佐祐理さんが姉的存在で束ねる事が多くなっていった。それは後に俺とあいつが結ばれ、夫婦となる事になっても変わる事がなかった。三人でいる時は佐祐理さんプラス俺たちではなく、常に「三人」であり続けたんだ。
 ……そう。あいつが帰らぬ人になった、あの日まで。
「……」
 赤に変わった信号が前方に見え、俺の思考は突然現実に引き戻された。ゆっくりと減速し停止する。
 ……今日、はじめての赤信号。
 第一級幹線道路である国道五号や十二号を使っているにもかかわらず、道内では深夜ほとんどの信号が点滅に変わってしまう。
 だからずっと点滅の信号を見つづけていたのだけど、さすがにもう朝が近いのだろう。何時が境目になっているのか知らないが、どうやら一部の信号が動きはじめていた。
『旭川48km』
 そんな標識が目につき、俺はブルっと震えた。
 一晩中、冷たい雨の中を走り続けたせいか、どうも体がだるかった。
 手も足もさっきから感覚が全然ないが、それ以上に身体のどこかで警告シグナルが鳴っている。
「……まずいな」
 思わずそんな言葉が口から出た。これは……本格的にまずい傾向だな。
 さっさと墓に行き、お参りを済ませたらとっとと消えなくてはならない。
 下手に休むと寝込むかもしれない。少なくとも二日は完全休養が必要だろう。
 だからこそここでは休めない。行かなくては。
 信号が変わった。
 軽くスロットルをあおると、重たい俺の気分をそのまま現わすように、400cc4スト単気筒がブロロと音を立てた。



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