(祐一……祐一)
呼び声が、する。
誰かが、俺を呼んでいる……懐かしい声だ。
そいつが、俺をゆり起こそうとしている。
(祐一)
誰だ。
眠い。もう少し眠らせてくれ。
(祐一……起きて……祐一)
「……」
目を開くと、そこには舞……俺の大切な、あいつがいた。
「……舞」
(祐一)
長い髪。物静かで、人形のような端正な顔。凪いだ海原のように、底を全くのぞかせない、深い瞳の色。
……何故か、あの頃の制服姿で。
(祐一)
「舞!」
気がつくと、俺は舞を抱きしめていた。
懐かしい、不思議な香りのする胸に顔をうずめ、子供のように大声をあげて、俺はおいおいと泣きじゃくった。
夢でもいい!夢なら・・・・夢なら、さめるな!
(……)
舞はただ、そんな俺の頭を静かに、静かに、なで続けてくれた。
「舞!舞!」
(祐一、泣いては駄目)
「舞!!」
……もう、行かないでくれ!!
おまえのいない人生なんて、いらない。ひとりぼっちで過ごす夜なんて、もう嫌だ!
(……)
だが、舞は寂しそうに俺をゆっくりとつき離すと、ポケットからハンカチをとりだし俺の涙をぬぐってくれた……そして、
「……んん?」
(ほら、ちーん)
「ガキかい俺は」
(……ほら)
鼻までかまされた。
「……あいかわらず、ムードもへったくれもねぇなおまえは」
(鼻が出てるとみっともない)
「馬鹿。鼻水だ鼻水。寒かったからな」
なんか、一気に雰囲気がバラけてしまった。
(……)
舞は、そんな俺をやっぱり寂しそうに……しかし、ちょっと心配そうにじっと見ていた。
やがて何か決意したかのように、俺の頭に手をやった。
(祐一)
「……なんだよ」
(……私はもういいから)
「!?」
(佐祐理を助けてあげて)
「な、何言ってんだよおまえはっ!!」
(なんとかしてあげて……お願い、祐一)
「……」
(ふたりが泣いてると……私は、眠れない)
「……」
(ふたりいればきっと笑える。笑っていられる)
「……いやだ」
(……)
「佐祐理さんが嫌なわけじゃない……でも、俺の連れあいはおまえだけだ」
(……私はもういない)
「だったら!俺を連れていけ!!」
(……)
「舞!!」
(……)
だが、舞は昔のように無表情に……ただ、微笑むだけだった。