「くそ、どこへ行った」
巨人は困っていた。
いきなり少女が消えてしまったからだ。彼の巨大な目をもってしてもその姿もエネルギー反応も視認することができない。強いていえば森全体がうっすらとヴェールをかぶったようなフィールドにくるまれており、そのどこかにいるのだろう事はわかるのだが。
「確かにここにいるのだ。確かに」
巨人はこの手の戦闘には不慣れだった。
彼に多いのは同サイズの怪物との肉弾戦、あるいは住民たちの兵器との戦闘である。文明の遅れた住民の多くは科学兵器を使うし、ある程度進んだ者だと微生物から猛獣タイプまでの各種戦闘生物を放つことが多い。少なくとも少女のように、小さいのに生身で攻撃魔術をぶっ放してくるような手合いは宇宙広しといえども非常に珍しいといっていい。
ひとの使う魔術で、それほどの破壊力なぞ通常ありえないのだから。
巨人と少女の戦闘により山は荒れ果てていた。このあたりは柳洞寺に属するしその向こうはアインツベルンの領地に近い。おまけに奥は山にさしかかる地形も幸いし、このあたりは一部に営林署の調査用林道がある他は大昔から手つかずのままの原生林が意外なほどに残されている。すぐそこまで町が迫っているにも関わらずだ。
だがもちろん、異星人であり少女を必死に探す巨人はそんな事意識していない。巨人の中にいるはずの言峰綺礼も呆れはするものの、そんな事は気にしない。
「!」
一瞬、巨人は少女の声をどこかで聞いたような気がした。どこだときょろきょろ周囲を見たのだが、
『やっほー♪』
「!」
底抜けに明るい少女の声が、いきなり巨人の脳裏に響いた。
「む、どこだ!」
『あはははは、まいったなぁもう。1200年もブランクあっちゃそりゃ勝てないわけよねえ』
どこだ、どこなんだと巨人は周囲を見渡す。だが気配もない。
『しゃーないから私も奥の手使うよ?もう知らないからねどうなっても』
「……なに?」
なんだそれは、と巨人は戦慄した。
このうえまだ戦う手段があるのか。あの頃の戦闘だって、魔力量と破壊力こそ桁違いだが今までの戦闘と中身は大差なかったはず。なのに、このうえまだ奥の手があるというのか。
いったい、あの小さな身体にどれほどの戦闘力を秘めているというのだ。
「いやまて、まさかだ。そんな事があるわけがない」
いくらなんでも無茶苦茶すぎる。ただの
と、そんな動揺した巨人の目の前で、
「じゃじゃじゃじゃーん♪」
「!!」
いきなりそんな声と共に森の一角から巨大な何かが飛び出した。
「これが……」
セイバーは感無量といった顔で、空中に穿たれた黒い孔を見上げていた。
「あまり近付くなセイバー。貴様ではあの泥には耐えきれんからな」
動かないイリヤスフィールを慎重に孔から取り外しながら、ギルガメッシュはそうセイバーに釘をさした。
「ギルガメッシュ。いったいこれはなんなのですか。なぜこうも聖杯は汚染されているのです?」
「さあな。きっかけまでは流石の
イリヤスフィールの右手を外す。自由のきかない右手のかわりに、自分の身体にもたれかけさせる。
「よし」
左手を添えなおし、イリヤスフィールを支えたまま下に降りた。
「受け取れセイバー。じきに目を覚まそうが
「はい」
セイバーはガラスの人形でも扱うように、慎重にイリヤスフィールを受け取った。
さらり、と美しい銀の髪が天使の子のような白い裸体にこぼれる。
「無事でよかった……。シロウもこれを見たらさぞ喜ぶでしょう」
「ふむ。では少し離れるぞセイバー。ここからでは破壊できん」
「わかりました」
ふたりは来た時と同じように、ゆっくりと聖杯から離れだした。
だが、
「!」
ふたりの背後で孔がゆらぎ、こぼれてなかった泥が流れ出しはじめた。
「まずいぞセイバー、貴様だけでも急げ」
「しかしギルガメッシュ、貴方は」
「
「……」
「騎士王!」
「は、はい!」
セイバーはよたよたと、イリヤスフィールを抱えて走りだした。
「……」
そんなセイバーを見送っていたギルガメッシュだったが、
「──それでいい。さて、はじめるか」
そう言ったかと思うと、鎧の裏から
「
そう言って、にやりと笑った。