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再構成

 魔術使いである『衛宮士郎』と、異星の巫女である『風渡る巫女』。ふたりの最大の違いは「魔術に対する有り様」だろう。
 魔術師と魔術使いの違いが単に魔術に関わるスタンスの違いなのに比べ、巫女にとって魔術は完全無欠なまでに商売道具である。特に放出・吸収の魔術しか持たない彼女は『巫女になるために生まれた』と言える。杖という触媒がなければ魔術使いとしては無能力者に近く、だが杖を扱うためにはその魔術は絶対不可欠なのだ。特に『星辰の杖』には。
 ゆえに『星辰の杖』に選ばれた彼女の運命(Fate)は、生まれ落ちた瞬間に既に決定していたと言える。
 だがここで問題が生じた。
 衛宮士郎と融合した彼女はその有り様が変わってしまった。巫女である彼女は衛宮士郎の魔術特性を透かし見る事が可能であったが、融合による変質で巫女としての能力も、士郎としての能力も変容を遂げてしまっていた。
 杖は杖にすぎない。自ら魔力を秘めた宝具ではないこの杖は、魔力の源泉なくしては何もできない。異星であるこの星では星辰の力を借りる事は望めず、今の彼女では新たに神殿を開くことは自身では不可能。そして二人自身の魔力はたかが知れている。
 士郎由来の魔術も変化した。骨子であり最大・最強の秘儀でもある無限の剣製(Unlimited BladeWorks)の展開は不可能。世界が大きく異なっているのだから当り前だ。それでも固有結界を使いたいのなら地道な研究が必須だろうし、そうしても「到達」できるかどうかは微妙だ。
 それを知った時の彼女の落胆は大きかった。衛宮士郎最大の武器を『発掘』する道がこれで途絶えたに等しいのだから。
 加えて投影の精度も大きく低下。間違っても「見て解析した宝具を投影」などとはいかない。不可能ではないだろうが簡単ではない。
 
 ──ないなら補うまでよ。それが魔術師なのでしょう?
 
 いや、まさにその通りだと『衛宮士郎』の部分が笑った。
 確かに動力源はない。士郎自身の骨子も歪んだ。
 だが、そこに『鞘』がある。
 セイバー由来と思われるこの鞘の名をふたりはまだ知らない。だがそれは幼少の折から士郎の中にあった。それはたぶんあの地獄から士郎を救ったものであり、死にかけた彼女が士郎の中に魔術的に潜り込む際の足掛かりにもなったもの。バーサーカーと戦った際の魔力の源泉もこれだった。
 まぁ、あの時はその正体を知らず単に魔力を感じ、そこに繋いだにすぎないのだが。あたかも電気製品をコンセントに差し込むが如く。星の力を受けたあの頃のような極大な力なぞ間違っても使えないが、そもそもそこまでの力を持っていても意味がない。地上戦レベルのこの世界において、星をも砕く領域外の力なぞ害悪でしかない。とどめに、この星において彼女は巫女ではない。
 とにかく、これは使えるだろう。
 投影にしても同様だ。解析しただけでは無理というのなら巫女としての能力を使えばいい。魔術的に深く接触し、その有り様を理解することにより投影はできるだろう。見ただけで瞬時に解析しきるほどの異能がむしろおかしいのだ。ちょっと不便だが使えないわけではない。今は投影できる武器のストックがほとんどないが、未来においては期待がもてると思われる。
 あとは、新しい『彼女』にあわせた一部魔術の再編。今は古代語であるキマルケ語だけでなく、衛宮士郎として親しんだ言語群での利用を可能とするために。
 眠りの中で『彼女』はゆっくりと、自分なりの魔術の再構成を続けていた。



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