「ひろみちゃん、ひろみちゃん」
う〜んあかり…もうちょっと寝かせてくれよ。
「だめだよ、ひろみちゃん。遅刻するよぉ」
ゆさゆさ、ゆさゆさ、と俺をゆさぶる手。…仕方ないなぁ。起きるか。
「ん〜…おはよ、あかり」
「おはよ、ひろみちゃん。早く仕度しないと遅れちゃうよ?」
「…あぁわかった。」
むくっとベッドから起き上がり、俺はボーーっと部屋を見た。
?…何だ?異和感あるな。なんでだ?
「…なんで部屋がピンクっぽいんだ?」
「もう、また寝ぼけてる。エクストリーム選手がそんなんでいいの?ひろみちゃん」
「…?」
なんの話だ?エクストリーム選手ったら、葵ちゃんの事だろ?ま、俺も一発予選落ちでよければ選手と言えなくもないけどな。
「…」
って、ちょっと待て。なんで女ものの制服が壁にかかってる?
「ひろみちゃん、ごはん仕度できてるよ。早くおいでよね〜」
「あぁ」
部屋を出ていくあかりに生返事を返しつつ、俺は壁にかかってる女ものの制服を見つめる。
「…なんで?」
疑問を口にしたところで、俺は自分の声が変なのにも気づいた。
「…?」
いや、声だけじゃない。なんだこの細くて白い手は?
「……なんか胸、あるし」
あかりにも負けそうな貧乳だが、何故か胸がある。パジャマがだぶついてるわけでもないようだ。
「…ん…!」
…自前の胸だこりゃ。どういうこった?
「……まて、ちょっとまて俺。なんか変だぞ」
夢…じゃなさそうだ。ほっぺたつねってみたが痛い。それに…。
「…藤田、ひろみ?」
俺の頭の中に、俺にあるはずのない記憶があった。
「…こりゃあ……原因は…芹香だな間違いなく」
つーか、他には考えられん。
「!そういや、エクストリームの選手って言ってたな…!」
机の横に目をやると、見た事のないトロフィーや盾がいくつか見えた。
「……わけわかんねえよ」
とりあえず、ここはたぶん芹香の言ってた「平行世界」ってやつなんだろう。俺がエクストリームの選手で、そこそこの成績を示している世界のようだ。
…けど、なんで俺、こんななんだ?確か、芹香の話通りなら「この世界の俺」を一瞬だけ召喚するって話じゃなかったのか?
「…もしかして、儀式失敗…か?」
召喚するはずが、逆に俺がこっちに吸い込まれちまったって事か?
お、おいおいマジかよ。勘弁してくれよ芹香ぁ。
「と、とりあえず起きようか。…こっちの芹香さんに話が通じればいいんだけど」
確信も根拠もないが、こっちの世界でもたぶん芹香は芹香のまま、という気がする。俺がこんなんなっちまってるんだ。どれだけ親しいかは未知数だが、話くらいは何とか聞いてもらえるだろう。
…って、芹香「さん」?
「……う、なんかとても嫌な予感がする…」
この身体には当然、ここで生きて来た俺の記憶があるはずなんだが…中身が違うせいか、どうも人間関係の記憶についてはよく思い出せないようだ。
でも、なんだろう?芹香の名をつぶやいた途端、全身を走るこの妙な感覚は?
「む…なんか下半身が湿っぽいな。気持ち悪…さっさと着替えよ…」
だが次の瞬間、俺は下に手をやったまま凍り付いてしまった。
「…………」
そう。
そこには男の大事なシンボルがなく、代わりに違うものが付いていたからだった。