[目次][戻る][進む]

破局 

 しばらくして、清浦母娘はパリに引っ越した。
 女──西園寺踊子はラディッシュ勤務に戻った。ただし閑職もいいところの名ばかりの店長で、店長室もなくなり社員の事務室を併用することになっていた。
 つまるところ、それは左遷だった。
 公費で若いつばめをヨーロッパ旅行に付き添わせた事が費用清算の時にばれ、そのせいで店長時代にも店にその男の子を引き込んで仕事中に行為に及んでいたことまでもがアルバイトの女の子たちの口から漏洩した事が原因だった。男女の仲についてとやかくいう会社ではなかったが、さすがにこれは問題になった。今までの実績があるので一応は店をひとつ任されているが、実験店としての役割は他の店に託される事になったため、踊子の立場は下っぱの雇われマスターそのものだった。ようするに本社にも置いておきたくない、だけど変な問題は起こされたくないという空気が見え見えだった。
 そしてそれが、その若い男の子──伊藤誠との破局の原因にもなった。
 ラディッシュで逢えなくなったふたりは自宅を使おうとした。だが西園寺の家では娘である世界が半狂乱になるほど拒絶した。これはむしろ当然の結果といえた。
 さらに誠の家では、遊びに来た妹が踊子を見ただけで拒絶反応を示した。これはラディッシュでの初対面からもわかっていたことだ。踊子に対する止の第一印象はひどく悪かったからだ。あたりまえだ。自分を無視して大好きな兄をとろうとする女を止が気に入るわけがない。まぁそんなわけで、止が嫌う人間を家にあげたくない誠自身によってこれは固辞されることになったし、さらに止が熱心に「あのひと嫌い、いや」と誠に言いつづけたこともあって、止が可愛くて仕方のない誠の心が急速に踊子から離れ始めるというオチまでついた。
 そうしているうちに学校が始まり、ふたりの接点はどんどんなくなっていった。
 このまま自然消滅すればよかったのだが、事態はそう簡単ではなかった。新学期になって早々に世界は登校拒否しており、刹那は誠を異常に避けまくるばかりかパリ行きもすでに決定している旨が女子たちには知れ渡っていたからだ。誠は事情を知る女子連から総叩きにあい、巻き込まれるのを恐れる男子たちにも一切話しかけられなくなっていった。あの加藤乙女すら誠の弁護を少なくとも表だってはしなかったというのだから、これはもうどうしようもないのは明らかだった。
 押し潰され余裕のなくなった誠は踊子にまで荒れ、きつく当たった。踊子もそれを受け止めることができず、結局それが決定的となり破局となった。誠は外に全ての交友関係も、安住の場所もなくなっていった。
 そんな誠を心配した四組の女子が、誠に接触したという話もあった。だが女絡みの関係というものにさんざん泣かされ余裕を無くしていた誠はその好意も余裕をもって受け取れず、あっというまに破綻したらしいとも噂されていた。
 そして、数年が過ぎた。



感想メールフォーム


PLZ 選んでください(未選択だとエラー)







-+-
inserted by FC2 system