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神咲の剣士

「…あれやね」
 物陰に隠れたひとりの女。黒髪もしなやかな時代外れの戦装束(いくさしょうぞく)。さらに日本刀と思われる剣をも帯びていた。
 彼女の目の前には西洋人らしい美しい少女と日本人らしい青年。コンビニ袋を抱え、楽しそうに世間話なぞしながら歩いていた。
 だが、少女を見る彼女の目は厳しい。
「…なんて強烈な霊気」
 彼女…神咲薫は、めまいがするほどの強烈なそれに口唇を噛んだ。
『薫』
「なんね、十六夜」
 腰に帯びた長剣から薫の頭に声が響いた。焦りぎみの声だった。
『あれは霊なんてものではありませんよ薫。もはや精霊、いや下手をすると神霊の領域です。私たちではどうしようもない』
「十六夜もそう思うね。うちも同意見じゃ。あれはただごとやない。あれを斬ろう思たら霊山まるごとブッた斬るほどの霊力がいる。ひとにはそげな事できん」
 ぎり、と薫の歯が音をたてた。
『ひと個人ではどうにもならない…薫。退魔組織の応援を呼ぶべきでは』
「…まぁ焦らんね十六夜。別に殺し昇華するだけが退魔やない」
 薫の目は、金髪の少女に注がれていた。
「…あの動き。剣士か。
 見たところ邪悪な感じもない。いやむしろ神々しい。うちも見るのははじめてじゃが…戦神(いくさがみ)がひとの姿をしていたとすれば、ああしたものになるかもしれん」
 そして、うっとりと目を細めた。
『……』
 剣は何か思うところがあったのか、それきり黙ってしまった。
「機嫌を損ねたら最後、うちなんぞ瞬殺かもしれんな」
 薫は殺那、苦笑した。
 そうしてゆっくりと、ふたりの後ろをつけはじめた。



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