いったい、何が起きたんだ。
逆行したのはまぁわかる。たぶん俺の身体はなんらかの理由で消滅(ロスト)するとか死ぬとかしてしまったんだろう。で、たまたま別人に入ったとかそういう事なんじゃないだろうか。随分と突っ込みどころ満載のようだが気にするな。俺もわからん。なんせ馬鹿だし。
しかし、しかしだぞ。なんで、なんでまた草壁なんかに?
「閣下」
「!」
コンコン、とドアを叩く音がする。
「な、なんだ?」
「早朝から失礼いたします。火星攻略の経過についてのご報告を」
「!そうか。入れ」
とっさに俺は重たい口調で応じた。おそらく草壁がいつもやっていたように。
どういう仕掛けでこうなったのかはわからない。だが草壁になったというのなら、うまくすれば戦争を最低限の犠牲で終らせる事だってできるはずだ。憎んでも憎み尽くせぬこの男だが、まぎれもなくこの戦争のキーパーソンなんだ。
具体的な方法なんてわからない。でも、なんとかしなくちゃ。とまどっている時間はないんだ。
「失礼いたします。…!すみません、まだお休み中でしたか」
「いや、かまわん。このような姿ですまないな」
「とんでもありません」
若い将校は敬礼をすると、部屋に入って来た。
「さっそくですが、現在の無人艦隊の状況です。製造率が作戦遂行に必要な数をほぼ満たしました。さっそくですが火星に向けて進軍したく、許可を頂きたいのですが」
げ、いきなりかよ!
まずい、今俺がどう対応するかで火星の人々全部の運命が決まっちまう!な、ななな、なんとかしなくちゃ!!
「……閣下?」
え、ええい、落ち着け、落ち着け俺!…むむ、そ、そうだな。
「…その件だが」
「はっ!」
「悪いが攻撃を少し延期したい。至急、調べたい事ができたのだ」
「!?なんと!それはいったいどのような事で?」
「うむ。子細は機密に属する事なので言えないが…この戦局に関わる事だ」
俺はとりあえず、この当時の知識で使えそうなものを頭の中からかたっぱしから引きずり出してみた。細かいことは後で考えるとして、えーとえーと…。
「至急、技術担当に連絡をとってほしい。跳躍に関する者、それに無人艦隊の担当もな。あつまり次第、対策会議を開く事にする」
「はっ!」
この男は技術担当だが、たぶん決定権まではないだろう。あくまで報告係のはずだ。ならば細かい話をする必要はないだろう。ありがたい。
「あと、優人部隊の責任者を呼んでほしい。内密の話という事で、最優先にな」
「了解しました!!」
「うむ。いきなりですまないが頼むぞ」
「はっ!!」
男が出て行くのを確認し、ほっとためいきをつく。
ふう。とりあえず着替えるか。優人部隊の服装というのがなんとも、だが。