薄暗いベッドルームだった。
外から入るのは月明かり。視界にたまに自分の脚が見えたりするけど、それでもそれは美しい光景だった。
「……」
ねっとりと汗をかいている。クーラーかけるかと言われたけど私が断ったからだ。
室内は大変な暑さだったけど、その茹だるような世界ですら心地よかった。
「んんっ!」
こみあげる快感に私はのけぞり、置場のない手を動かそうとした。だけどその手も掴まれる。
払いのけようとしたがその瞬間、体内からズンと突かれる。くっ、と声が出た。
うふふと笑う女の声。
四つの手、ふたつの舌、そして熱く固いもの。私は搦め捕られ貫かれ、まったく自由がきかない。
「どう?気持ちいいでしょう?」
返事ができない。はっはっと息が出るばかり。
女はそんな私の反応に満足げに笑った。
「いいお返事ね。わたしも実際にするのははじめてなんだけど、どうやらうまくいったようね」
「……」
なんてずるい女だ。
だいたい女のくせにどうしてそんなもの生えてるんだ。おかしいじゃないか。
「あらひどい。貴女がわたしを殺したからでしょ?」
は?わけがわからない。
「壊された身体を組み直す最終段階で、貴女用に一部を作り替えてみたのよ。
わたしは女性体だけど、そもそも人間とは違うもの。わたしの完成形は本来男性らしいし、やってみたらそう難しいことでもなかったわ」
この女のいうことはいちいちよくわからない。私に対する興味まじりの好意は確かに伝わってくるんだけど。
「ほら」
「!」
ぐん、と激しく突かれ、世界がはじけた。
「あら凄い、一瞬飛んだわね?うふふ」
と、女はふいによそを向いた。
「レン、貴女少し休みなさい。……いやなの?ま、無理にとは言わないけど」
レンと呼ばれているのは黒ゴスの女の子。女の『使い魔』だそうで、当然だけど人間ではない。
ふたりかがりで私は全身くまなくこねくり回され、そして貫かれていた。
濃厚な夜も、やがて終わりがやってくる。
夜明けが近付き、私は自分の寝倉に戻ることにした。
「あー疲れたぁ……」
「ごめんね。この子ちょっと乱暴で」
「ううん、いいよ面白かったし。ね」
「……」
頭なでてやると、小さく笑ってなで返してくれた。……あはは。
「ところで本当に帰るの?もう遅いし、今から帰るのはあぶないよ?一日うちにいれば?」
「んー、でも」
戻らなくちゃならない。
今夜はちょっと楽しみすぎた。いつもならもう戻っている時間だ。
「あのね」
ちょっと不安気な顔で女は言った。
「貴女は知らないだろうけど、そろそろみんな疑いだしてるのよ?このままだと貴女に手が届いてしまうのも時間の問題だわ。
このままでいたいっていう貴女の気持ちもわからないじゃないから、今までガードしてあげてたけど」
ちょっと困ったように女は顔を付せた。
「少なくとも今日戻るのはよしなさい。嫌な予感がする。きっと後悔するわよ?」
「……やだ。戻る」
女のいうことはよくわからない。
この女は好きだ。殺すだけの私にいろいろ教えてくれたし、大切にしてくれるのもわかるし。
連れの女の子も随分私が気に入ってくれたみたい。この子も好き。ここも居心地がとてもいい。
だけど帰らなくちゃいけない。さびしいけど、ここは私のおうちじゃない。
「そう……仕方ないか」
女はあっさりと私を開放し、頬をなでた。
「あのね」
「ん?」
「わたし、貴女に謝りたいことがあったの」
「なに?」
「貴女を生き返らせたこと……もしかしたら、ひどい事したんじゃないかって」
「あはは、そんなことないよ」
私は一歩踏み出した。
「あなたの言うことはよくわからないけど、これだけはわかるよ。
私は幸せだよ。だって、こうやって心配してくれるんだもの」
「……そ」
女は複雑そうに、だけど、とても嬉しそうににっこりと笑った。
「わかった。だけどこれだけは言っとく。
わたし、貴女が本当に気に入っちゃったわ。
貴女にもし帰るおうちがなくなったら、わたしが連れてくからね?貴女はもうわたしのもの、誰にも渡さないからね?
いい?約束よ?」
「うん、わかった」
私は女に手をふり、そして歩きだそうとして
「あ、そうそう」
思い出して振り返った。
「なぁに?忘れ物?」
女はまだ立ってた。どこか心配そうな顔で。
……ってあれ?女の子がいない?
さっきまで女の子がいたはずの場所には、黒猫が一匹。なんなの?
ま、いっか。
「私、あなたの名前忘れちゃったの。確か聞いてたと思うんだけどなぁ?」
「あらそう?ま、仕方ないか。わたしを殺したことすら覚えてないんじゃあね」
ふふ、と女は笑った。
「わたしの名前はアルクェイド。アルクェイド・ブリュンスタッドよ。
覚えきれなかったらアルクェイドでいいわ。
改めてよろしくね」
「わかった。じゃあアルクェイド、おやすみ」
「ええおやすみ」
挨拶をすると、私は駆け出した。
風が吹く。
心地よい疲れが風と混じっていた。気持ちのよい風が吹き抜ける。血の匂いのない夜だったけど、こういうのも悪くない。
屋根から屋根へ、音もなく私は飛び越える。うん調子いい。絶好調だ。
そして寝倉の入口が見えてきて……!?
「え?」
「……」
そこには、怒り心頭の『わたし』が立っていた。