勝負は時の運なんて言葉もあるが、戦闘における優劣というのはそう簡単なものではない。歴戦の勇士が勝ち残ったのは強かったためでなく、生存に長けたためだと言える。勝機を逃さぬための才覚とそれを成し得る能力。生き残ろうという意志。そして多少の運。生き延びる者というのはそれらを持ちえた者である。
高町なのはが強いのはその魔力だけではない。常識的にいえば
特にフェイト・テスタロッサという強敵の存在が急速に彼女を育てた。背中を預ける護り手はいても戦友はいないという状況でたったひとりでフェイトに相対せざるを得なかった彼女は、結果として単なる砲撃手に収まるわけにはいかなかった。「相手をいかに自分の得意とする戦闘に行き込むか」に次第に特化する事により、自分より戦いの巧みなはずのフェイトをついには真っ正面から叩き落としてしまったのだ。
そしてその単独戦の経験こそが、もうひとりの自分──自分よりもはるかに経験豊富で強力な相手を向こうにまわし、戦い続けさせる原動力ともなっていた。
「アクセルシューター、シュート!」
『Accell Shooter.』
その瞬間、数十にも及ぶ猛烈な数の光が吹き出し、八方からメイに襲いかかった。
「くっ!……『
メイはその光の豪雨豪雨を爆散する魔力で跳ね飛ばした。
「コントロール!」
飛ばしたはずの光は次々と向きを変え再びメイに襲いかかる。無数の敵に攻撃されているようなものだ。
「いいかげんに……!!」
メイは果敢に抵抗したが、いくらなんでも数には勝てない。たちまちのうちに猛烈なエネルギーの瀑布をくらっていく。
だが。
「……」
その霧が晴れた時、メイには傷のひとつもついていなかった。
「くっ!」
歯がみをするなのはに、メイはクスクスと笑った。
「凄いなぁ、この十分だけで光弾の数が倍になったね。制御も緻密だし」
「……」
「一年もたたずにここまで来たっていうのも頷けるよ。
ふたつのロストロギア事件も強いライバルたちも、その全てがいい方に働いたんだね。みんな踏み台にしてここまで急成長してきたってわけだ」
「……変ないい方しないで。望んで戦ったわけじゃないよ」
むっとした顔で唸るなのはに、メイはハッと馬鹿にしたように笑った。
「自分がどれだけ好戦的で始末におえない戦闘狂か、わかってないの?
そろそろ自覚したほうがいいよ?そのうち自分が抑えきれなくなって、大切な友達にまで被害が及ぶようになるんだから。
あなたが戦闘好きなのはね、なのは。強くなりたい、強くならなくちゃという強迫観念みたいなものが潜在意識にあるの。それがなのはの根源なんだよ。
だから強い者を求める。相手が強ければ強いほど鬼神の強さを発揮するのはそのせい。
逆にいうと、戦う相手がいないと生きていけないんだよ、なのはは」
「そんなことない!求めてなんかいないよ!」
言い返すなのはに、メイは肩をすくめた。
「自分の魔法をもっと極めたいって思ってるでしょう?」
「それは」
ギクッと反応するなのは。ウンウンと納得げにうなずくメイ。
「だーかーらー。それがそういう事じゃん。
だめだなぁ。わたしには何でもわかるんだからね?」
「違う!」
『Divine Buster.』
「あは、やってることと口が矛盾してるよ?」
だがそれを、メイは片手で弾き飛ばしてしまう。
「ふぅ。ちょっと手が痺れた。また威力あがったね。
次はちょっとやばいかな?」
そう言うとメイは杖を構えた。
「砲撃っていうのはこう撃つんだよ。『Divine Buster』!!」
「!!」
スターライトブレイカーにも匹敵する、怪物じみたディバインバスターがなのはに向かって射出された!
ジャケットの一部を切り裂かれながら、ぎりぎりなんとかなのはは躱した。
「どう?」
「くっ!」
うっふふと楽しそうなメイに、なのははぎり、と歯を噛みしめた。
まるで大人と子供だ。
一方的になのはは遊ばれていた。メイの魔法は底しれない練度をもっていて、いかなるなのはの魔法もメイには通じない。そしてメイは面白半分になのはの魔法をコピーしてくるほどの余裕っぷりだった。
いかになのはでも、その余裕を覆すのは簡単にはいかないようだった。
「あきらめて撃ち落とされなよ。わたしに負けたって恥ずかしくないんだし別に。
そうして、フェイトちゃんになぐさめてもらいなさいって。
きっと、大喜びで介抱してくれるよ?」
「うるさい!!
エクセリオンバスターバレル全開、ストライクフレーム!」
『A.C.S. stand-by.』
レイジングハートが翼の生えた槍の形に変化する。
「今度は槍か。ほんっと凄いねその子も」
くすくすと楽しそうなメイ。
だが本人は気づいているのだろうか?
メイは実に楽しそうだった。アースラを落とそうとした時に見せた悲壮感が今の彼女にはない。倒れても倒れても向かってくるなのはが楽しくて仕方がないといった顔だ。
そして、悔しげに歯がみしているなのはも悲しい顔はしていない。むしろ生き生きと全開でぶつかりまくっているようだ。
「ドライブ!」
突撃に入るなのはに、嬉しそうに杖を構えて相対するメイ。
なんのことはない、戦闘狂いはメイとて同じなのだ。
そう。ふたりは結局のところ同一人物なのだった。
楽しく全力戦闘を続けるあまり、ふたりは気づいてなかった。
ぎりぎりまで魔力を潜め姿を隠し、ふたりの魔法の隙間をぬって、そろそろと接近してくる黒衣の少女に。なのはの砲撃魔法の特性を知りつくしており、またその現状唯一の欠点である、あまりにパワー至上がゆえに単純な撃ち合いだと隙が意外に多いという部分もよく知っているがゆえに可能なことだった。
そしてそれはメイも同じだった。圧倒的大出力で遠方からの殲滅というパターンを得意とするメイは、そういう意味でもなのはのスーパー版といえた。メイは力こそあれど正規の訓練を一度も受けていなかったし好敵手に恵まれなかったこともあり、その問題点を克服できていなかったようだ。
もっとも、だからといって無造作に近付くのはあまりにも危険な行為ではあったのだが。なのはの魔法と性格の癖を知りつくしているからこそ、それはぎりぎり可能な事であった。そしてもちろん、それを可能とする技量があった事も言うまでもない。
その少女──フェイトは至近距離まで接近すると、小さくこう告げた。
「バインド」
『Yes,Sir.』
「!」
一瞬のことにハッとしたメイだったがその次の瞬間、
「!!」
たちまちメイは、全身を光のリングでぐるぐる巻きにされてしまった。