その瞬間、メイは不快げに唇をかんだ。
「いやぁーーーーーーーっ!!!!!なのは!!なのは!!」
絶叫をつい聞いてしまった。フェイトの半狂乱の叫びについ耳を傾けてしまい、その方向に目をやってしまった。
死に捕まれたもうひとりの自分と、その自分と誰よりも親しい娘を。
「……」
腹がたった。猛烈に不愉快だった。
何より、泣き叫ぶフェイトがかつての自分に重なって見えてしまったから。
『おにいちゃん!おにいちゃんおにいちゃん!』
遺体にすがり泣くことも許されなかった。そのまま睡眠薬を打ち込まれ、朦朧とした意識の中、動けない身体で故郷が破壊されるさまを見せられた。
やがて意識が落ちて、目覚めたらがんじがらめに魔力を封殺され独房に閉じ込められていた。
無力だった自分。
「……」
やめろ、とメイは内心ののしった。
おまえたちはそういう光景を何億とつくり出したではないか。これみよがしに泣き叫びやがって何様のつもりだとメイは憤った。
だが、同時に彼女は知っていた。悪いのは彼女らではないのだと。
自分の所業は結局、あのミッドチルダ人たちと同じなのだと。
「……」
メイの顔がみるみる、怒りとも号泣ともつかない顔に変わった。
何かを振り払うようにぶんぶんっと頭をふり、そして叫んだ。
「破壊モード解除、星辰モード開始せよ。魔力はそのまま保持、流動形態に移行!」
黒い光がかき消すようになくなり、ピンクの光が戻った。
「星辰よ。わたしの祈りを聞き届けよ。
わたしは星辰の巫女。星を育む者なり。命を引き戻し育むためにあなたの力を貸せ。
───
先刻と同じように杖を持ち、額を押し当て祈りはじめた。
青とも緑ともつかない光がその瞬間、うっすらと周囲の空間を染め上げはじめた。
「……え?」
不思議そうなフェイトの声が聞こえた。
なのはの痙攣が止まっていた。それどころか流血も止まり、たちまちのうちに身体に血の気が戻ってくる。
右の肩口の肉が盛り上がりはじめた。
「え……え?……えぇ!?」
唖然とした顔でフェイトはなのはを見ている。
まるで蜥蜴の尻尾のように、しかも猛烈な早さでなのはの手が回復していく。他の傷もみるみる塞がり、まるでビデオの逆回しのように急速に再生していく。
そしてついに、なのはは完全に復活してしまった。レイジングハートはボロボロのままだが。
「なに……これ」
「どうやら間に合ったみたいだね」
「!」
フェイトが振り向くは、そこにはメイがいた。
「失った命は取り戻せない。その場合、復活はできるけど記憶や人格に重大な障害を残したあげく別人になってしまう……はぁ、ちょっとやりすぎちゃったか。ごめんね」
「……なんのつもり?」
それはそうだろう。フェイトにしてみれば、殺しておいて助けるメイの行動は理解できないものに違いない。
だから、メイは苦笑した。
「だって勝負はわたしの勝ちだもの。これ以上はやりすぎ。そうでしょう?」
「うそつき。勝負はわたしたちが勝ってた」
「捕まえたら勝ち、なんて言った覚えないけど?」
クスクスと笑うメイに、フェイトは怒りの顔を浮かべた。
「卑怯者!」
「はいはい、そんなこと最初からわかってたでしょう?」
うっふふふとメイは笑うと、よいしょと座り込み、なのはのスカートの中に手を突っ込んだ。
その行動の意味が理解できず、フェイトは眉をしかめた。
「何してるの?」
「なにって……勝ったら脱がす約束だったし。
本当は全部脱がすつもりだったけど、アースラからみんな見てるよ?それに、なのはの裸はわたしの裸だもん。恥ずかしいし、嫌だよ。
だから、ぱんつだけで許してあげる」
どういう理屈なのか器用にパンツだけを抜き取ると、ふむ、とそれを見た。
「わ、漏らしてる。血まみれだし……ま、いっか」
そう言うとメイは苦笑いし、そしてフェイトに向き直った。
「あなたのパンツも頂戴」
「は?」
「は、じゃないの。戦利品。嫌なら力づくでひんむくけど?」
「!」
フェイトは真っ赤になり、スカートをおさえて後ずさった。
「……ひとつ聞いていい?」
「なに?」
「どうしてパンツなの?もしかしてそういう趣味とか?」
「まぁ、それも否定しないけど」
「うわ最低。本当になのはなの?貴女」
露骨に軽蔑のまなざしを向けるフェイト。
だが、メイは涼しい顔で笑った。
「な〜にいってんだか、貴女も同じ穴の貉のくせに」
「……え?」
「否定できる?」
「……私はそういう趣味ない」
「ふうん。じゃ、なのはとお風呂入っても平気?」
「!」
「……ん?」
「……」
かわいらしく小首をかしげるメイ。困ったように口ごもるフェイト。その目線は、未だに意識の戻らないなのはに向いている。
くっくっと小悪魔の笑いをメイは浮かべた。
「ま、いいよ。後はなのはとフェイトの問題だし。
さて、じゃあ改めてフェイトのパンツちょうだい?
言っとくけどこれは変な趣味だけじゃないのよ?相手の下着をはぎ取るっていうのは相手を武装解除したってことだからね。これだって立派な
「……ひとつだけ言っていい?」
「ん?」
フェイトは背中を向け、もそもそとスカートの下で何かを脱いだ。
再びフェイトが恥ずかしさで真っ赤な顔を向けた時、その手には薄紫のパンティが握られていた。
「うわ、ちょっとだけ、おーとーなー。勝負用?」
「茶化さないで」
むっとした顔でフェイトは眉をつりあげた。だがノーパンでパンティを手にもった状態ではイマイチしまらないのも事実だった。
「戦利品がパンツって……変だと思う」
「そう?」
「うん。すごく変」
フェイトは赤面したまま、力づよく頷いた。