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変人魔導士

 あるところに、ひとりの男がいた。
 彼は優秀な魔導士だったが政府の認定は受けていなかった。その能力を生かせば仕事の口など山ほどあろうに、彼はあえて地味な暮らしをモットーとしていた。彼は自分のちょっと特殊な趣味をことのほか愛しており、そのためには他の何を犠牲にしても厭わない男だったのだ。
 本名不明。自称カイト。魔導士。
「……実在したのか」
 男の前には、苦労して入手したひとつの資料があった。
 わずか十歳そこそこの少女。技術も時代遅れなら魔術など存在もしない世界の出身。魔法を身につけてわずか半年でふたつのロストロギア事件、それもあの『テスタロッサ事件』『闇の書事件』で未曽有の大活躍をした規格外れの天才。
 そう、高町なのはのデータである。
 都市伝説にすぎないと思っていた少女。最近裏社会で噂になりはじめた存在。異常なほどの伝説になりながら、いまだミッドチルダには姿を現さない管理局の秘蔵っ子との噂も高い彼女。
 入手した記録を簡潔にまとめると、こうあった。
『生まれてはじめて魔法を見たその日にインテリジェントデバイス「レイジングハート」を起動、その場で活動中のロストロギア「ジュエルシード」と戦い勝利した。レイジングハートは特殊なデバイスで起動にはパスワードを必要とするが、半日後の次の起動時には既にパスワード不要になっていた』
『数日後に遠距離魔法習得、さらに数日後に飛行をマスター。その後も日ごとに急成長を続け、一ヶ月以内に空間から魔素をかき集め射出する得意の大技「スターライトブレイカー」を開発。テスタロッサ事件解決の中核を担い、本職の武装団も全滅させられた怪物的魔導士と対峙した。それら全てをほぼ自己流で達成』
『約半年後、闇の書事件に関わり未曽有の大活躍。とうとう管理局から史上最年少の戦技指導官候補として引き抜かれた。当時十歳そこそこ』
『武装局長に乞われて「スターライトブレイカー」を披露するが、特別訓練室の結界をたやすく打ち破り訓練室ごと大破させた。あまつさえ、対魔導戦艦として名高いアースラ型の外壁まで余波でぶちぬいてしまった』
 なんの冗談だこれは、と男は呆れた。
 そのデータが管理局正式のものでなかったら、冗談好きの誰かの創作物と断定したところだった。それほどに非現実そのものの内容だった。
 だからこそ男は調べた。その噂の真実を。
 だが、それは誇張もへちまもなく全て事実だった。
「信じられん」
 
 天才?
 違う、これが事実なら高町なのはは天才などではない。
 
 むしろこれは『化け物』だ。
 
 なるほど、優れたデバイスがあれば素人でも魔法は使える。魔力さえあればそれはこなせる。防御も攻撃もできる。ロストロギアの封印だって可能だろう。
 だが、無知の素人がいきなり遠距離魔法を編み出しあまつさえ空も飛ぶのか。
 個人の魔力では破れないはずの戦艦の外壁をぶちぬいてしまうのか。
 百戦錬磨の魔導士と戦い、あまつさえ本職の武装局員たちが全滅させられたような軍団と渡り合ってしまうのか。
 ありえない。できるわけがない。
 優れた魔導士が長い時間をかけて辿り着く境地に、一年とかけずに独力のみであっさり到達した少女。
 それが何を意味するか。
 まともじゃない。
 この娘は、どう考えてもまともな存在ではない。
「畜生、ゾクゾクするじゃねえか」
 男は震えた。ひさしく感じていなかった高揚だった。ぴく、ぴく、と男の頬が痙攣する。その目は、高町なのはの愛らしい肢体から離れない。
 その熱い視線は、なのはのスカートの一部をじっと見据えている。
「しかし、見れば見るほど…………」
 感きわまったのか、男はブルっと大きく震えると叫んだ。
「待ってろよ高町なのは!
 はは、ははははは、あははははははははは!」
 男の狂笑が、狭い部屋に高らかに響きわたったのだった。



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