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世にも珍奇な大戦闘(2)

 いかに駆け引きに長けようが大ダメージを受ければ命はない。あの強靭かつ勇猛なヴォルケンリッターたちをして『白い悪魔』とすら言わしめたなのはの砲撃魔法である。フェイトたちのように強力なフィールドも展開できないカイトにしてみれば、それは戦艦の主砲に身をさらすに等しい。非殺傷モードとはいえそれは同程度の魔導士との戦闘での話にすぎなかった。
 ぎりぎりの危険きわまりない戦闘を続けるカイトを、黙々と解析し続ける面々の姿があった。
「なのはちゃん、完全に砲撃モードに移行しました!ディバインバスターを撃ちまくってます!」
「終わりが近いようね。さすがのなのはさんもあのカイトさん相手じゃ限界か」
 リンディはさすがに大人、冷静に事態を見守っていた。
 いくらなのはが強大な魔力を持っていても、ああも駆け引きに長けた相手では実力を充分に発揮できまい。しかもその相手はなのはを徹底的に焦らし焦らせ、とうとう冷静な判断力まで失わせてしまっている。
 まもなくこの戦いは終わる。なのはの攻撃でカイトが墜ちるか、それともカイトの計略になのはが捕まるか、そのどちらかの形で。
「戦災孤児ね……近年この近郊の世界で起きた戦争についてデータはある?
 できれば、時空管理局の職員が関わったものを出してちょうだい。あまり多くはないと思うけど」
「わかりました」
 職員のひとりが答え、戦闘モニター以外のウインドウに年表や写真のようなデータが次々と写った。
「!」
 と、それを見ていたリンディが、ひとつの写真を見て眉をよせた。
「これは何?」
「衛星世界のひとつです。科学要素のない強大無比な魔法文明を持っていましたが、異星人との戦争で星ごと滅亡に至りました。敵の詳細については不明となっています。
 これは、当時の管理局職員である女性が保護した生き残りの子供です」
 まだ幼稚園児くらいの小さな子供が写った。
「小さい子ね。この子ひとりだけだったのかしら?」
「他はほぼ全滅のようです。
 記録によると、保護した後に母星が砕けてしまったためにやむなく担当はミッドチルダに連れ帰ったとのことです。結局その子供は彼女がひきとる事になり、育児に専念したいという事で管理局の職を辞してします。
 未確認ですがこの子供はBクラス相当の魔力を既に持っていたようです」
「Bクラス?こんな小さな子が?」
 はい、という声が聞こえた。
「記録に残る当時の担当の言葉からすると、子供が魔導士として育てられるのを彼女は拒んだようです。もう滅びた星の忘れ形見、たったひとりのこの子には普通に、そして平和に暮らしてほしい。そんな言葉を彼女は残しています。
 辞職後、この者は子供ごと行方不明になっています。元管理局職員であるがゆえに、優れた魔導士資質をもつ子供を普通に育てるにはそれしかないと考えたのだと思われます」
「まぁそうね、この歳でBクラスなら今ごろはAA+、いえAAAクラスになっていてもおかしくはないものね。私がもし当時提督だったなら、間違いなく保護観察扱いにしたと思うわ。
 あら?じゃあもしかしてあのカイトさんの正体はこの子?」
 魔導世界の末裔なら、ミッドチルダに知られていない魔法を使っても不思議はあるまい。育ての母の発言も、そしてカイトの封印発言についても説明がつく。
 だが、職員はリンディの言葉に首をふった。
「ありえませんよ提督。この子は女の子なんです」
「あら」
 カイトはどこから見ても立派な成人男性である。女性であるなど、ありえない。
 だが、リンディはどうにもひっかかるものを感じていた。
「年代からすると……あぁ、ちょうど私が学生だった頃ね。そうそう、そう言われてみればそれらしい事件はあったわ。報道されてなかったけど噂には聞いたもの。
 ふうん……年代もカイトさんと符号するわね」
 そしてリンディは戦闘モニターの方に視線を移した。
「クロノ」
「なんですか提督」
「管理局管轄のロストロギアについて、この事件の頃あった記録を調べてもらえる?できればジュエルシードのようなタイプのものについて。
 ああ、できれば無限書庫のユーノ君にも連絡とって頂戴」
「わかりました」
 
『Divine Buster』
「シュート!」
 本来なら一発のはずのディバインバスターが、まるで暴走する重機関銃のように膨大なエネルギー弾の雨あられとなってカイトに襲いかかった。
「ちっ!」
 カイトはそれをぎりぎりで回避する。避けきれないマントの一部が引き裂かれるが委細構わず、隙間から緑色の光のようなものをなのはに向かって打ち出した。
 ディバインバスターの影を飛ぶ光。なのははそれに気づかず、
「!」
 命中ぎりぎりになってそれに気づき、顔色を変えつつ紙一重でそれを回避した。
「くぅっ!……え?」
 だがその光は突如として絡まる蔓草に変わり、たちまちなのはとレイジングハートに巻き付いた!
「このぉっ!」
 なのははそれを膨大な魔力で無理矢理に千切り飛ばした。
『master!』
「!」
 その僅かな時間の隙をつきカイトはなのはの背後にいる。レイジングハートからけたたましく警告音声が聞こえ我に帰るなのは。
 だがその瞬間、カイトの手がなのはのスカートにかかる。
「っ!」
「おっと!」
 振り返りつつなのはが回避しようとしたまさに瞬間だった。
 カイトはなのはの顔の目の前でパンッと手をうちならした。いわゆる猫だましだ。突然の事になのはが一瞬凝固したそのまさに瞬間を狙い、大量の蔓草がなのはに絡み付きまたたくまにその自由を奪った。
「こ……」
「どうだ!」
 カイトはそのまま、動けないなのはの腰を背後から捕まえ、がっしりと抱えこんでしまった。縛られているなのはといい、見ようによっては非常にあぶない姿勢だ。
 なのはは、みのむし状態で捕縛されてしまった。
「……うそ」
「よし、勝った!」
「……そんな」
 呆然とした顔で、なのはは緑に縛られた自分の身体を見た。
『sorry, master...』
 すまなさそうにレイジングハートがつぶやく。対するカイトはためいきをついた。
「いやぁ、まいったまいった。死ぬかと思ったよ。
 さすがだな。これで正規の訓練受けてたら俺には万にひとつの勝ち目もなかっただろう。
 君も、そしてそのデバイスも本当に凄いな」
「……」
 まだなのはは呆然としているようだ。見知らぬ男に縛られたうえ背後から抱きあげられているというのに、抵抗する気すらなくしている。
 まさか、こんな形で負けるなんて想像もしてなかったせいだろう。
「さて、下に降りるぞ」
「……」
 なのはは力なく、しかし確かにうなずいた。
 



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