高町なのはの素直すぎる性格について有名なエピソードに、大気圏突破の話がある。
地上から宇宙まで一気に上がると簡単にいうが、衛星軌道まで地上から一気に上がろうとすると最悪数百キロは上昇しなくてはならない。アースラのような船が低空にいた場合、いかに偽装しようと容易に発見される危険がつきまとうからだが、この高層空域まで自力で飛ぶなんて馬鹿な話はない。いかに魔法で守られていようと宇宙は宇宙だし、そもそもジェット戦闘機なみ以上の速度がでないと危険である事も少なくないからだ。
なのはは過去に、何度かこの超高層空域に飛んできたことがある。
スターライトブレイカーを繰り出すほどの大出力を推進力に全て割り振るのだ。確かになのはには可能なことではあるのだけど、いかに魔力があろうとこんな死の世界にまで自力で飛んでくるなんていうのは余程の物好きだけだろう。同じことをしたいなら、アースラなどの転送装置で衛星軌道まで送ってもらえばいいだけの話ではあるし。実際、どんな場所でも戦えなくてはならない武装局員の訓練には、大出力魔法を使える人間むけにこの大気圏突入と突破に関するカリキュラムがあるのだが、あまりの大変さに苦行の象徴のようにいわれているほどだ。
だが、なのははこのクレージーなロケット遊びが存外に好きであった。ヴィータに一度、馬鹿と煙はなんとやらと言われてむくれたりもしたのだが、思えば空を飛ぶというのは永遠の人間の夢である。腐るほど魔力のあるなのはだからこそ言える事かもしれないが、やはり宇宙から見る地球や星はうっとりするほど素晴らしいものだった。
視界の向こうに、もうひとりの自分を追っているのでなければだが。
「くっ!」
おそろしいほどの超加速力で弾丸のようにすっとんでいくメイに、なのはは思わず悪態をついていた。
同一人物、魔力もほぼ同格。なのにどうしてこうも性能が違うのか。あの杖のせいか、それとも練度のせいなのか。何か理由があるのか。
何か自分は見落としているのではないか。
「……あれ?」
ふとなのはは、前方を飛ぶメイのまわりの姿に目がいった。
「服が、羽ばたいてない?」
ヤワなシャツなど風圧で裂け飛ぶような速度だ。なのにメイの服も、それどころか同じ長さの髪すらも動いている気配がない。
「……そっか。まわりの空気ごと移動してるんだ」
なのははそれに気づき、さっそく真似してみた。
「あ、すごい」
風圧がほとんど気にならなくなった。
自分を中心に、葉巻型の空間を外部から遮断する。それだけで驚くほど風圧がなくなり、一気になのはは加速した。もはやジェット機というよりロケットの域でぐんぐんメイに追いすがる。
だが。
「……あれ」
追い付かない。ちっとも距離が縮まらない。
「引っ張って……くれてる?」
メイはこっちを見てすらいない。だが気配はわかるはずだ。追ってきているのに気づいて、わざと自分の飛び方を真似させようとしているのかもしれない。
「さっすがわたし!悔しいけどありがたい、かな」
どうでもいい話だが、あの学者が実はもうひとりの自分だったという事実にとっくに順応しているらしい。普通の人間ならばきっと色々迷ったり悩んだりするところを、なのははすぽーんと全部すっとばして状況に馴染んでしまっていた。
これは、別になのはが単純馬鹿だからというわけではない。頭が戦闘モードだからだ。戦闘に関係ない事柄はとりあえず全部おっぽりだしてしまう。悩む必要があるなら後で悩めばいいわけで、今は作戦行動にのみその全ての神経を集中していた。
そしてそれこそ、なのはの強さの原動力でありまた、戦技教官には向くが執務官には向かないという問題点の原因でもあった。そしてさらにいえば、その姿が「細かいことにこだわらない屈託のない人柄」と受け取られ、なのはという人物の好評価にも結び付いている。実際、全部おっぽりだして戦闘をひとしきり行った後、結果としてぎくしゃくしていた関係がうまくいったというケースは多々ある。フェイトにしろ他の戦士たちにしろ、なのはの「おはなししよう」の洗礼を受けたものは大抵がそれを否定すまい。
閑話休題。
とにかく、にやりとなのはは笑った。きっとメイも苦笑いしているだろうと信じて。
「負けないから!」
その途端、さらにさらに、なのはは猛烈ないきおいで加速を開始した。
そしてメイも、そんななのはに合わせて加速しはじめていた。
同時刻、アースラの中。
「提督、ただちにアースラを通常空間から次元座標へ」
「必要ないわ」
クロノの提言をあっさりとリンディは拒否した。
「彼女が、なのはさんとある意味同一人物だったとしても能力まで同一とは限らないわ。なのはさんに次元魔法は使えないけど、彼女が次元を越えて追ってこないという保証はどこにもないの。
加えていえば、管理局の艦船がここで逃げてどうするの?クロノ」
「それは」
確かにそのとおりだ。
だが、なのはですらこのアースラ自体に損害を与えるような攻撃魔法が使えるのだ。実際になのはvsアースラ戦をやったわけではないが、彼女の能力特性からして、スターライトブレイカーを使えばアースラの防御フィールドを突破可能であろうことは、これまでの戦闘の記憶からいっても容易に想像できる。
しかも、なのはは魔法と無縁の科学世界にいた娘なのだ。
もし、なのはが魔法世界に生まれていたら?あの底知れない砲撃魔導士としての才能を、生まれた時から研鑚し続けていたら?
しかも、それがミッドチルダや時空管理局に対して敵意を抱いていたら?
これは当て推量ではない。今まさにアースラにミサイルのように迫ってきているメイという存在は、文字どおりその『魔法世界生まれの高町なのは』そのものなのだから!
「……」
メイを封印し普通の人間として生きさせようと考えた者を思い、クロノは感嘆を禁じ得なかった。
何者か知らないが、その選択は実に正しい。その人物はおそらくこの未来を予想し、メイの底知れない才能を懸念もしていた。だからこそ、あんな手段でも使わないと破れない封印を施した。どんなに彼女が足掻こうと絶対に破れない封印を。怨まれる事も承知のうえで、管理局員としての自分の人生すらも犠牲にして、メイを普通の人間として普通に暮らさせようとしたのだろう。
誰が予想しただろう。その彼女に、異世界における同位体が存在するなんて。あまつさえ、その同位体もまた強大な魔導士として覚醒し、その存在が彼女に知られてしまうなんて。
それはいったい、どういう運命の悪戯なのか。
それとも、これすらも異世界同位体を含む『高町なのは個体群』特有の能力なのか。
いやまさか、それこそ
「なのはちゃん加速しました!物凄い速さでメイさんを追ってます!」
「呆れた速度だな。先日のお偉方はむしろ喜ばれるかもしれないが」
「そうですねえ。あの人たち、なのはちゃんが随分気に入ったみたいですし」
「そうだな。こっちの苦労も知らないで」
「あはは」
エイミィの声が響く。その声は少し緊張を含んでいるが概ねリラックスしている。他の局員が『敵対した高町なのはスーパーバージョン』なんてとんでもない悪夢の襲来になかばパニック寸前だというのに、実に動じていない。ありふれた危機のひとつにすぎないといわんばかりの態度だ。
なのはたちに絡むと非常識な事が起こるのはあたりまえ、そう感じているのかもしれない。僕もひとの事は言えないかとクロノは苦笑した。
だが、そんなクロノも次の瞬間には再び驚愕することになる。
「メイさん、アースラ現在位置到達までの予想時間、あと推定42秒!」
「!」
職員たちの動揺が大きくなった。クロノもそれは同様なのだろう。握りしめた拳に無意識に力が入っている。
そんな時、リンディの声が響いた。
「アースラ、最大出力で防御陣展開。次元戦闘モードへ。アルカンシェル、チャージ開始!」
「は、はい!」
「!」
クロノは思わず目を剥いた。戦艦同士の殲滅戦でやるような指示をリンディがはじめたからだ。
「提督、まさかアースラで迎え撃つおつもりですか!」
「ええそうよ?」
ふふ、とリンディは笑った。クロノですら寒気がするほどの本気の笑いだった。
「武装を解かない相手と話合いをしたいなら、まずは全力全開で激突してみる。なのはさんが最も得意とする戦法でしょう?
あのメイさんだってきっとそうよ。だって彼女は、なのはさんなんだもの」
「それはそうですが、いくらなんでも人間相手にアルカンシェルまで」
話し合い以前に消し飛んでしまうだろう。それでは意味がないのではないか?
だが、リンディは平然と笑う。
「そうでもないかもよ」
「へ?」
「彼女はアルカンシェルの威力を知っている。知ったうえでこのアースラを破壊すると宣言してきた。私達乗員が抵抗する事も当然承知の上でね。その意味がわかるかしらクロノ?」
「いや、それは何か作戦があるんだと」
変身前、封印された身であのような戦いをしたのだ。それは当然警戒するべきであり、自分たちの知る高町なのはと同類に考えすぎるのは危険だ。クロノはそう考えた。
だがそんな息子の懸念を、うふふとリンディは笑い飛ばした。
「クロノ、彼女はなのはさんよ?そんな考えをするとは思えないわ」
「ですが!あの封印中の戦闘を思えば」
「それは封印されていたから、力でなのはさんに及ばなかったからでしょう?
今はその封印もない。文字どおりの全力全開での戦闘が可能となった。それがどれほどの喜びなのかは想像するしかないけど、きっと彼女は今、長い封印が破れたことが嬉しくて仕方ないはずだわ。当然、彼女本来の能力を全力全開で投入してくるんじゃないかしら?彼女が最も好むスタイルでね」
「それは……なるほど、確かにその可能性は高いですね」
ふむ、とクロノも頷いた。
「だったらこっちも、彼女が喜ぶ展開を用意してあげるべきだわ。
彼女が破壊を明言する限り、本当に真っ正面からアースラと激突するつもりでしょう。こっちがアルカンシェルを使う可能性ももちろん折り込みずみでね。
それが誠意、というものでしょう?」
「……生身の人間に、よりによってアルカンシェルを突き付けることがですか?」
「ええそうよ?」
「……」
クロノは唖然として母親の顔を見た。
「なに?クロノ」
「いや……かあさ、いや提督の性格が今とてもよくわかったような気がして」
「そう?」
「ええ、本当に」
自分の母親があの高町なのはと同類なのだと知り、クロノは改めてためいきをついた。
と、その時だった。
何もなかったはずのアースラ前方の空間に突如として人間が出現した。虚空の闇に溶ける黒衣をまとい、その外側にはうっすらと、高町なのはと同じピンク色の魔道の光をまとっている。
刹那、アースラのモニターにその人間の映像が拡大された。
「!」
アースラのあちこちから、感嘆と畏怖の声が漏れた。
そこにいるのは、外見こそ高町なのはそのものだった。持っている杖がレイジングハートでなく銀色の魔杖だが、本物のなのはと同じく左利きである事もわかった。黒衣のデザインもなのはのジャケットの色をそのままネガ反転させたようなものだし、なんの冗談なのかリボンまで色が違うだけで同じ形である。なのはのそれは生来のものではなく、フェイトと交換した元と違うものがついているはずなのに。
そして、唯一違うもの……それは目。
メイの目が赤く変わっていた。表情こそ戦闘中のなのはの顔と変わらないが、押し殺した激情を隠せない目だけは、怒りと憎しみ、悲しみのせいかまるで魔物のような真紅に染まっている。
「……こんなんいやや」
ゲスト席で沈黙していたはやてが、悲しげにつぶやいた。
「別の世界やなんや言うたかて、結局あの子もなのはちゃんなんやろ?うちらのなのはちゃんと一緒なんやろ?
きっとあの子も呆れるくらいええ子や。明るくて、ほわほわしとって、思わず、ぎゅーってしたくなるくらいええ子や。
せやのに……なんちゅう悲しい顔してんねん」
「……」
はやての横でアルフも沈黙していた。その表情は、心痛。きっと同意見なのだろう。
『この日をずっと待ってたよ』
「!」
と、その時、なのはと同じ声がアースラの指令室に響いた。
『わたしの故郷を滅ぼし、大切な人たちを皆殺しにした存在。絶対に許さないと心に誓ったあの日から!』
まるで泣いているような、悲しい声だった。
『これが最後の警告です。退艦を望むなら今すぐそうしてください。憎しみを連鎖させるのは望みませんから。
でも急いで。
わたしにも、もう止められないから』
そう言うとメイは、左手の杖を胸元によせつぶやいた。
『──目覚めて、わたしの可愛い杖よ。この星の大神殿と結び、わが願いを星辰に届けて』
刹那、メイのまわりに魔方陣が広がりはじめた。
それは、ベルカの方形状でもミッドチルダの円形でもなかった。メイを中心として球形に広がったそれには、まるで天球儀の黄道のラインのように無数の帯が縦横に走り回る。そしてそのひとつひとつには、どこの世界とも知らぬ異界の魔術文字がひしめくように並んでいる。
「球形の魔方陣……?まさか」
「あら、何か知ってるの?クロノ」
「知りません。知らないけど」
クロノはその魔方陣を見て眉をしかめた。
「我々の魔方陣が平面なのは、もともとその魔方陣を紙や地面に描く事からはじめたからだと聞いてます。だから、空中に陣形を展開するようになっても陣形は平面のままなんだと。
球形の魔方陣だなんて……」
この魔方陣だけでもロストロギアに値する驚異だろう。
どういう派生でこの形になったのか。この形に収まった理由はいったいなんなのか。どれほどの未知がこの球形に収められているのか。
魔方陣ひとつですらこれだ。
いったい、彼女の国にはどれほどのものが存在していたのか。
「なるほど、強欲に走った政治家というのもわからなくもないな」
『そうらしいね』
クロノのひとりごとに、画面の向こうのメイは答えた。
『わたしだって魔法を使う者。それに魔法の研究を仕事にしていたし、未知を探求したいって気持ちはわかるつもり。
だけどね、だからといってあなたの国のした事は許されることじゃないよ』
「ああ、そうだな」
クロノははっきりと頷いた。
「だけどメイ、君の行動だって問題がないとはいえないんじゃないか?
君が復讐したい者たちはもういない。そしてアースラは結局のところただの戦艦にすぎない。君の憎しみの深さがわかるなんて事は言えないが、アースラにそれをぶつけるのは」
『うん、わかってるよ』
あっさりとメイは頷いた。
『わたしのこれはただの自己満足、やつあたりだよ。わたしの故郷を破壊したアースラを、魔砲アルカンシェルを撃破する、それに意味なんかあるわけないよ。ただわたしの復讐心が癒えるだけ。
ただそれだけだよ』
「うまくいったとしても間違いなく凶悪犯扱いだぞ。逮捕されれば最悪、永久冬眠……実質の死刑だ」
『あはは、永久冬眠なんかさせないよぉ。わたしの死体やこの子を研究対象になんかさせるわけにはいかないものね。
って、そろそろなのはが追い付くね。さっさとはじめなくちゃ。
アルカンシェルの準備はできたの?』
「ええ、こっちはチャージ完了したわ」
クロノのかわりにリンディが答えた。いつのまにか右手に始動キーのようなものを持っている。
それを見たメイが、嬉しそうににっこりと笑った。
『さっすがリンディ提督。じゃ、はじめるよ。
──青き
そして杖を掲げ、
『その
叫んだ。
刹那、メイのまわりの球形が急激にふくれあがりはじめた。たちまちにそのサイズはアースラと比較できるほどの大きさに成長する。
周囲を飛び交う異界の魔法文字の回転も加速していた。新たなラインが次々に生成され、渦に加わる。さらにその渦と中心のメイとの間に、何か光のようなものが次々とやりとりされはじめる。
「魔力値上昇してます!20万、42万、70万……160万!まだまだ加速度的に増大中!」
「160万!いったいどこからそんな魔力を?」
スターライトブレイカーの最大出力だって魔力そのものはそう膨大ではない。ベルカ式カートリッジで増幅したとて魔力値自体はそう増大するわけではない。あれは戦闘能力を飛躍的にあげるためのもので、魔力値をあげるためのものではないからだ。
いや、しかし問題はそこではない。
スターライトブレイカーがそうであるように、これらの魔法は生身の人間の魔力だけで成就できる類のものではない。つまりなのはのそれと同じく、彼女もどこからか魔力を集めているはずなのだ。
だが、こんな滅茶苦茶な魔力をどこから集める?こんな短時間に?
「……魔力源、確認できました!」
「どこだ?」
どことなく恐れるような声に嫌な予感をおぼえつつ、クロノは問い返した。
「地球です!地球内部からです!
惑星のもつ活動エネルギーそのものをなんらかの形で魔力に変換、それを吸い上げているんです!」
「ちきゅう……って、まさか!」
クロノはアースラの眼下にある地球を見、そしてメイを見た。
「そんな馬鹿な!」
クロノの驚愕とほとんど同じタイミングでエイミィまでもが悲鳴をあげた。
「魔力値計測できません!臨界越えました!」
「!?」
一同の目がスクリーンの数字に集まった。
スクリーンの魔力値は、「9999999」に張りついたままピクリとも動かなくなっている。そしてその横に赤く『計測限界』の文字が踊っていた。
──これが、たったひとりの女の子の魔法?
そこにいる全員は恐怖も何もかも忘れ、ただ呆然とその信じられない数値を見ていた。
「うわ……死ぬかなこりゃ」
いや、ひとりだけまともな者もいたようだ。アルフだ。
「たくましいなぁアルフは」
少し震えた声ではやては苦笑した。なぜか両手を股間にそえたまま。
「ん、どしたはやて?ちびったか?」
「……ちょっとだけな」
ひきつり気味に笑うはやてに、そっかと笑うアルフ。
「ま、しょうがないさ。こんなの見せられちゃあねえ」
「はぁ、ほんっとたくましいなぁ。それに比べてうちときたら」
ためいきをつくはやてに、アルフはにやりと笑った。
「恐いもんは恐い。あたしだって恐いさ。
けど、こうなっちゃもう恐がっても仕方ないじゃないか。なるようになるさ」
ん?とアルフは笑い、ぽんぽんとはやての頭を叩いた。
「ほら、あれ」
「あ」
アルフの指さす先には、照準システムのようなものに手をかざしているリンディの姿が見えていた。
「アルカンシェル、バレル展開!」
「あ、は、はいっ!」
エイミィが弾かれたようにキーをめまぐるしく叩きはじめた。
「……はじまった」
アースラの前に、なのはが砲撃する時にも見えるおなじみの円形らしきものが多重に展開される。それが
ほとんど同時に感覚のはしっこ、追いすがってきたらしいなのはの魔力が感じられた。
「ふふ、思ったより速いね。もう応用したんだ、さっすがわたし♪
でもまぁ……ちょっとだけ遅かったかな?」
眼前に魔導収束レンズが広がる。魔導と技術の融合による強大な次元兵器、アルカンシェルがいよいよ牙を剥こうとしていた。
──たったひとりの少女に向けて。
「あの時と同じにはさせない」
杖に右手をそえる。くるりと持ち替えたその姿は、なのはがデイバインバスターを撃つ時のそれにそっくりだった。
「消えされ、アースラ」
その視線の向こうに、艦橋でアルカンシェルの発射キーを差し込むリンディの姿は写ったのだろうか。
メイは杖を掲げ、万感の思いと共に思いっきり叫んだ。
『アルカンシェル、発射!!』
『
強烈な闇がメイを包み、次の瞬間、アルカンシェルの次元波動に向かって暗黒の破壊光として吹き出した!